1「チャックまに出会った日」 (09)
■チャックま その4「ちょっとした決意」
「ボクも、お父さんとお母さんのところにいくのかなぁ…」
そのつぶやきを聞き、月に伸ばした小さな手やお腹が減った様子を見た時、チャックま たちはこの小さなくまの子に起こった出来事がなんとなく想像できました。三人は顔を見合わせました。この、チャックま にそっくりな動物を助けてあげよう。そんな共通の気持ちが芽生えていました。
チャックま が一人で木の陰からそっとくまの子に近寄ると、やおらお腹のチャックに手をかけてグイッと引き下げました。すると!チャックの中から元気な鮎が何匹も飛び出てきたんです!
もともとチャック族のお腹のチャックは、誰もいらないゴミを入れておく場所でした。入れたゴミはいつの間にかどこかに消えてしまうので、お腹から何かを出すことはほとんどありません。ジッパンダやファスニャンのお腹のチャックは、まさにそんなチャックです。
ところがチャックま のチャックだけはなぜか違うんです。いつもはみんなと同じようにゴミを入れるために使っていますが、何かの拍子で本人が意図しないようなものが出てくる時があるんです。ある時はお花、ある時は動物、ある時は機械だったり、またある時は食べ物だったり、という具合で、何が出てくるのかは開けてみるまでわかりませんでした。
でも今日は運よく、その子の食べ物にぴったりの鮎が出てきたんです。そこでチャックま は、その小さなくまの目の前に鮎を放ってあげました。すると次々とそのくまの子は鮎を食べていきました。ホッとしてチャックま は二人のいる木の陰に戻りました。
ところがその小さなくまの子は、チャックま たちの姿に気づいた様子もないのにフラフラとこちらに向かってくるではありませんか。そして凍りついたように身動きもせずに見守っていた三人の近くまでやってくると、木の根元に座り込んでいたチャックま の膝の上にばったりと倒れ込みました。
シーーーーーーン……
しばらくは誰も動きませんでした。三人はチャックま の膝の上の小さなくまの背中をただただ見つめていました。
と、気づけば「クーー、クーー」と小さな寝息が聞こえて来て、三人はやっとこの小さなくまが寝てしまったのに気づいたんです。チャックま はそーっとその小さな背中に手を当ててみると、寝息に合わせて身体が上下に揺れていました。
「寝ちゃったみたい…」
チャックま は小さな声で二人に言いました。
「どうする?これじゃチャックま は動けないニャー」
ファスニャンも心配そうです。
「よく寝てるから、少し動かしても起きないだろう」
ジッパンダは冷静に答えました。
「オレがこの子を抱えて持ち上げるから、チャックま は足を避ければいいよ」
当のチャックま はその背中に優しく当てた自分の手を離すことが出来ませんでした。この出会ったばかりのはずのくまの子を見て触っていると、今まで自分が大事にしてきた人やモノや思い出と同じかそれ以上に、大事にしなければいけないような気がしたんです。
「大丈夫だよ、ボク」
急にチャックま は言いました。
「このままこの子を寝かしておいてあげよう」
ジッパンダとファスニャンはギョッとしました。
「じゃあどうするニャー、チャックま はチャック界に帰らないつもりかニャ!」
「この子が起きたら帰るけど…朝まで起きなければこのまま朝までここにいるよ」
チャックま は言いました。
「二人はチャック界に帰っていいよ、大丈夫だから」
ジッパンダはその様子を見て、チャックま はどうやら本気らしいことがわかりました。いつもは優柔不断で臆病なチャックま がきっぱりと言ったのです。内心ため息を付きながらも友だちとしてサポートすることにしました。
「そうか…わかった。家の方には心配しないように適当に伝えておくよ」
帰り支度をしてファスニャンの背中をポンポン叩きました。
「明日、早めにこの辺りに来ることにするよ。でも、無理するなよな」
ジッパンダとファスニャンはチャック界に帰っていき、チャックま だけがくまの子と共に残されました。
いつもはどこかで一人になると、ものすごく不安になる心配性のチャックま でしたが、今日はそんな感じはしませんでした。このくまの子と一緒にいるからなのか、自分の気持に変化が生まれたからなのか、それはよくわかりませんでした。
「夜も、この世界はなかなかきれいだなぁ…」
正面に見えるまあるいお月さまに照らされている山や森や川を見ながらチャックま はつぶやきました。そして、膝の上の小さな体の暖かさが気持ちよくて、いつしかチャックま も夢の世界へと入っていきました。
(10につづく)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?