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ゲストハウスでその日に知り合った、年収数千万の『社長』とドライブした話。


僕は今、奄美大島に来ている。国内で数少ない国産のコーヒーを学ぶ為に来たのだが、奄美では珍しい4月の台風の到来によって移動が困難な状態だ。ゲストハウスに延泊し、急遽奄美観光でもしようかと思った矢先、ラウンジでPCのキーボードを叩いていた叔父さんに話しかけられた。白いよれた長袖シャツに、黒いズボンを履いて僕を見ていた。

君、泊まりの人?

そうだと答え、今の現状を話したらおすすめの観光地だったり、飲食店の話をして今日の昼の飛行機で帰るからドライブでも行こうと誘われた。見ず知らずの何の面識も無い人に、急にドライブに誘われたら普通は断るのが常識なのかもしれない。でも、何となく。ただ暇だったし、やる事も特に無かったので良いですよと了承した。 

車で改めて自己紹介して、奄美パークという奄美の自然の生物や文化を学べる博物館に行ったり、空港近くの海が見えるカフェでお茶したりと普通だったら友人と行くような場所に、僕は今日初めて会った見ず知らずの叔父さんと来ている。旅は道連れというが、何が起こるか本当に分からないものだなと思った。

それに車で聞いたら、その叔父さんは3つの会社の『社長』であり、年収数千万は稼ぎ、週に一度しか働いていないという。それに比べて僕は週に一回も働いていない無職である。コロナ禍という事もあり、就活が上手くいかず、どうしようかと考えた末に大学の研究テーマである

自分が好きなコーヒーを知り、学び、自然と人との共生やSDGs

を五感で知りたいが為に地元の関東から奄美まで来ている。父からは就活しない人生を、人生失敗したんじゃないかと蔑まれ、半ば家を出るように旅立った。父の期待を捨てて、姉達の心配を背負ってバックパックに詰め込んで、飛行機に乗った。

しかし、昨日の夜はフェリーの欠航が重なって何だか不安で中々寝付けなかったし、ゲストハウスに置いてあった闇金ウシジマくんを見てさらに世の中や人の闇を垣間見た気がして、僕の唯一の資本である健康にヒビが入るような感覚に苛まれた。

でも、奄美に来てから不安な気持ちが少しずつ逸れている気がする。ゲストハウスのオーナーさんは優しく接してくれるし、フェリーの欠航を教えてくれた地元の人は優しかったし、ダイビングが好きで移住して来たお姉さんやゲストハウスで偶々会った社長は、君は自由で、好きな事に真っすぐ生きていると褒めてくれた。

社長のお金の話は無職で知識も無い自分には理解出来ない事が多かったが、社長のような生き方や物の見方、本質を見ると何が見えてくるかなど。一つ一つ教えてくれた。

それだけ稼いで何がしたいんですか?使い切れないじゃないですかと僕が言ったら、

金を稼ぐ為に働いている訳では無く、ゲーム感覚で働いている。お金はあくまでツールや結果にしか過ぎない。」と奄美の荒れた紺色の海を見ながら笑った。

空港で社長を見送った後に、バスに乗りゲストハウス近くの浜辺で座ってこの記事を書いている。今の僕は無職で、好きな事をしに来て、ただ遊んでいるだけの駄目な人間に見えるだろう。そう言われたらぐうの音も出ないのだが、社長と僕との違いはお金を稼いでいるかどうかしか差異がないと思う。終身雇用が終末を迎え、就活を頑張り、正社員になれば安心だと周りが言っている中、僕はそうは思えなかった。まあ、見切りをつけた結果が無職なのだけど。


好きな事を追い続けた先に何があるのか、僕は見てみたい。


闇金ウシジマくんのキャラのように貧困になって社会の闇に堕ちていくのか、社長のように自分でビジネスを始めてお金に頓着しない人生を送るのか。誰にも自分にすらこれからの未来は分からないが、今自分が信じる道を一所懸命に歩いていきたい。そんな風に思わせてくれる今日一日だった。


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