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『チ。―地球の運動について―』私の、番なのか? 視聴感想。
前回から心打つ言葉が多い。第一話からそうだったかもしれないが。
感想を書く余裕がなかった。以降、台詞の再現には正確性を欠くと思う。
バデーニ「君はあの苦しみを知らないからだ」
嘗て持論を曲げず、片眼を焼かれた彼だからこそ言える重い台詞であり、優しさ。オクジ―君?に自分が受けた苦しみを味わわせる事が忍びなかった。
バデーニ「感動は伝わる」
オクジー君の書いた本の内容を指して。バデーニ君は本を読まずに燃やした場面があったから、二重の驚き。
徹頭徹尾、貫いて逝った天才は鮮烈だった。
バデーニ君が研究資料を投げ打ってまで守った、オクジ―君の目が見えていて良かったと思う。
彼の、最期の視界に在った星が満ちた金星ならば特に。
賭けた甲斐はあった。
この作品は主人公が苛烈な死に様を見せる事が多いが、なぜか死に際して彼らの目に映る光景は、決まって美しいと感じられる。
ラファウ君は薬を飲んだ後、それを確認出来る場面がなかった。
けれど、心にはきっと美しい夜空が広がっていただろう。
十二歳が自ら死を選んだ事には胸が痛むが、その事実が後のストーリー展開、視聴者には多大な影響を与えている。
ラファウ「手強いですよ。敵は」
この場合の〝敵〟とは『チ。』。知る事。真実を知りたいという人間の飽くなき探求心。弾劾しても弾劾しても、それらは絶える事がない。その積み重ねで今の発展した文明化社会が在る。
だからラファウ君の指摘は正しい。それがこの作品の大きなテーマの一つだろう。
ノヴァク君?には試練回。
彼はバデーニ君に劣らず頭の回転が速く、勘が鋭い。経験則から相手の発言が嘘かどうかを看破する、恐ろしい異端審問官だった。
前回までは。
どんなに優秀な人でも、心の拠り所とする愛する人の生死が関わると切れ味が鈍る事は往々にしてよくある。
ノヴァク君も権力欲旺盛な人間が淀みなく言った嘘八百を信じた。
相手が狡猾だったというのもあるが、回想シーンで、ノヴァク君はとても良いお父さんだった。
ノヴァク「だが、泣いている子供に寄り添う事よりも大切な事があるのか?」
その葛藤と思い遣りを、ラファウ君に対しても抱いて欲しかった。十二歳のラファウ君が泣いても、君は寄り添おうとはしなかっただろう。何より大切な愛娘を亡くしたと思い、これからも今までのように異端審問官を続けられるだろうか。
その頭脳明晰な愛娘ヨレンタちゃん?が利得の為に拷問され、処刑されると知った若い異端審問官は彼女を逃がす時、こう言った。
「私は、信仰とは生き方だと思います」
胸を強く打つ言葉。
それもまた真実。
自分の身が危うくなると承知だっただろうに。
結果、やはり彼女を逃した行為を責められる。
「一人の異端を逃がすと、世界が危なくなる。そんな敵を君は逃がしたんだ」
そうした台詞を言った権力欲の強い人に、彼はこう返した。
「汝の敵を愛せよ。私の信じる教えです」
これにも胸を打たれた。日本の原爆直後、永井博士の為に建てられた如己堂を思い出した。
〝己の如く隣人を愛せよ〟
そこからの、博士による名づけだ。永井博士の名づけの真意は私には解らない。博士の言う「隣人」には、原爆を投下した国の人たちも含まれていたのだろうか。もしそうであれば、「汝の敵を愛せよ」という言葉の隣人である。
私の胸を打った若い異端審問官の答えは、相手には愚かと一蹴され火刑に処された。
若者が手探りで学びながら必死に紡ぎ出した答えは踏みにじられた。
踏みにじられてはならない大切なものだったのに。
バデーニ君の長期的遠望、確率、計算する能力には恐ろしいものがある。
同僚から千年以上前の詩人の詩を教えて欲しいと乞われ、一度はすげなく断った彼が。
書棚にそっとその詩を綴った紙片を差し挟んで遺していた。
それがバデーニ君の保険。可能性は低いとオクジ―君にも言っていたし、詩の後に同様の事を書いていた。
バデーニ「貧民が訪ねて来たら~略~。私が差し出せるのはこの詩だけだ。貴方がこの頼みを聴いてくれる可能性は低いと思う。だから、お願いします」
彼はオクジ―君から「実直さ」と「感動」を学んだのではないだろうか。
良いタッグだったんだなと。その二人でなければ、可能性の低い賭けには勝てなかっただろう。
バデーニ君は慎重で用心深く、念には念を入れていた。
そんな保険なんて、考えもつかなかった。君は凄いな。
そしてそんな中でも、自分たちが捕まっても関与していなかったと言え、とヨレンタちゃんに告げる気遣いがあった。
「感動は伝わる」
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