「モノよりコト」時代のサブスク - リアル店舗の定額サービスに注目
サブスクリプションは今や多くのIT企業にとってメジャーなビジネスモデルの一つになっている。一方で、リアル店舗などの暮らしにおけるサブスクリプションは海外でようやく広がり始めている段階にある。今回はどんなリアル店舗×サブスクのモデルが日本ではうまくいくのか、何が成功要因になりえるのかについて考えてみた。
サブスクリプション・エコノミーの広がり
従来の売るまでを重視する商品売り切り型と違い、継続課金してくれる顧客との長期にわたる関係を重視したサブスクリプション型のビジネスはあちこちで拡大している。背景としては、「所有の煩わしさ」というペインポイントへのソリューションの拡大、導入のしやすさ、コスト優位性などがある。
昭和の時代を振り返ってみれば、賃貸、新聞、固定電話など、昔から継続課金モデルは存在していた。それが平成後期から徐々にネットの普及と共にデジタル人口が増加し、音楽や動画、アプリなどのコンテンツ消費におけるサブスクリプションサービスは当たり前になった。HBO、Netflix、Amazon Primeなどは全世界で1億人以上の会員がいる。数えてみたら自分も計5つほどのサービスに課金していた。
(出典:statista)
リアル×サブスクのトレンド・領域
これだけデジタルのサブスクリプションが浸透する中で、リアル/オフラインはどうだろうか?海外における投資金額のトレンドを見ると2015年をピークに一度盛り上がりを見せて、落ち込んだ後に再び増えてきている。
リアル×サブスクは大きく分けて以下の2つの領域がある:
①化粧品、ミールキット、アパレル、家具などのD2Cのボックス宅配型
②飲食店、ジム、映画館などのリアル店舗型
2012-2015年は「ボックス宅配型」への投資が過熱したものの、サブスクへの向き・不向きが分かってきて2016年以降は落ち着いたとみられる。一方で、「リアル店舗型」は少し遅れて2015年あたりから徐々に増え始め、最近ホットになりつつある分野である。
サブスクも「モノからコトへ」?
個人的な考えではあるが、ボックス宅配型はモノが届いてしまうため、ユーザーに契約の存在を毎月思い出させ、継続or解約の判断を迫ってしまうという特徴があり、領域によってはスケールが難しいのではないかと思う(オンラインだと契約を忘れている幽霊ユーザーが一定数いて、売上的に彼らの存在はおそらく馬鹿にならない)。
通常B2B SaaSだと健全な月次チャーンレート(解約率)は3%以下とされ、代表的な定額ストリーミングサービスであるNetflixはなんと1%以下(12ヶ月以内の解約が9%)。それに対して、2017年上場の食材宅配スタートアップBlue Apronは12%(12ヶ月以内の解約が77%)と非常に高い。事業成長のために常に新規顧客獲得のリソースを割く必要があり、広告宣伝費が膨れ上がって安定収益の意味がなくなってしまう。この問題が解決されず、Blue Apronの株価は右肩下がりが続き、IPO時の10分の1以下になっている。
「モノからコトへ」はすでに使い古された言葉になりつつあるが、人はモノがほしいのではなく、人がお金を払う価値は情報や体験に移っている。サブスクリプションもおそらく例外ではない。
リアル店舗型は海外でも上場したスタートアップがまだ少ないが、以下で紹介する資金調達・ラウンドが進んでいる企業群を調べる中で、重要なポイントを抑えれば少なくともボックス宅配型よりスケールの可能性を高められるのではないかと感じた(ボックス宅配型はあくまで向き不向きがあり、ビジネスモデル自体がダメというわけでは勿論ない)。
リアル店舗×サブスクの海外動向
■ ClassPass:ジム出費を抑え、豊富なコンテンツを体験
● 概要:顧客は月額$49-$159を支払うことでClassPass上の好きなジムの中から5-20個のクラスに自由に参加でき、1つのジムだと飽きて解約してしまう課題を解決。
● ラウンド:シリーズD
● 累計調達額:$239M
● 投資家:GV, General Catalyst, Temasek Holdings, SV Angel等
ClassPassは2014年、同一のクラブを使えるのは月3回までという条件のもと、月額99ドルで通い放題のプランを開始し、絶大な人気を獲得。ジム側はより多くの顧客へリーチが広がり、顧客獲得コストの削減や教室の空き人数の埋め合わせが可能に。また、室内スポーツバイクとライブ配信コンテンツを持つPelotonとの提携でオンラインに参入し、オフラインでのコンテンツの成長限界をカバーしている。
(Pelotonのイメージ、出典:Racked "Why Gyms Should Be Worried")
しかし、受講者数が増えれば増えるほど、ClassPassが各クラブに支払う額も大きくなるモデルなため、通い放題プランは持続不可能と判断。月に5-20回の回数制限を設けたが、最もサービスを愛用していたユーザーが離れてしまった可能性が高く、大きな代償だ。
■ MealPal:並ばずに数百店舗から選べる定額ランチ
● 概要:NYでのランチは約$12-15かかるが、月12回で$80($6.39/食)か月20回で$120($5.99/食)で回数券的に提携店舗のランチを食べられる。
● ラウンド:シリーズB
● 累計調達額:$35M
● 投資家:Bessemer Venture Partners, Menlo Ventures, Teamworthy Ventures, NextView Ventures, Comcast Ventures等
利用者の現地在住の友人に聞いてみると、高いランチにうんざりしていたニューヨーカーの間では、お得でバラエティに富んだ昼ご飯を楽しめるサービスは好評らしい。レストランがメニュー1日1品を決め、予約数・ピックアップ時間を事前に把握でき、コストダウンを実現している。ロンドン、パリ、シンガポールなど15都市で展開中。将来的には誰がどの店にどんな頻度で来る、という個人のデータを使ったリアルタイムオーダーや、よりパーソナライズされた食事(ベジタリアン等)を提案できるだろう。
東京で同じようなサービスが流行るかと考えると、一筋縄ではいかないかもしれない。丸ノ内や赤坂など一部のオフィス街はランチ代が1000-1500円するものの、他の場所では意外と500-700円の安価なオプションもあり、価格メリットがそこまでない。更なるコストダウンを何らかの方法で実現しなければスケールが難しいが、後述する工夫次第で可能性はある領域だと個人的には感じる。
■ MoviePass:苦戦中の映画館通い放題(?)サービス
● 概要:定額料金を払えば映画館で1日1本まで映画が見放題サービスを提供しているが、財政的には非常に厳しい状態が続いている。
● ラウンド:M&A(Helios and Matheson Analytics)
● 累計調達額:$69M(シリーズB時点)
● 投資家:True Ventures, Structure Capital, Aol Ventures等
MoviePassは、2017年に月額$10以下で新作映画を見放題という夢のような価格プランを打ち出し、半年で会員数を2万人から200万人へと成長させたと発表された。経営陣はSpotifyのようなアプリでの広告モデル(映画館近辺の飲食店などの広告)を描いていたようだが、会員数の増加にシステムの構築や資金が追い付かず、クレーム対応に追われた。
アメリカの映画館における平均的な映画料金は$9.16。ユーザーの映画料金を肩代わりする形でMoviePassが映画館に支払っているため、会員が月にわずか2回映画を見るだけで、大幅に赤字が出てしまう計算となる。2018年5月の報告では平均して1カ月あたり2170万ドル(約24億円)の赤字が出ているとのこと。映画の興行収入が世界4位である日本でも可能性は十分あるものの、MoviePassのように後から値上げや制限をつけると反発が強いため、開始当初サービス・価格の設計はかなり慎重に行うべきだろう。
リアル店舗×サブスクを日本で成功させるには?
海外の代表的なスタートアップとして挙げた3社以外にも、音楽ライブやカフェ、子供のアクティビティ、賃貸など多様な領域でサブスクが伸びてきている。日本でも「野郎ラーメン」などの飲食店で少しずつ広がりを見せているが、まだ生活の中に溶け込んでいるとは言い難い。海外の先行事例をふまえると、リアル店舗×サブスクが日本で普及するには以下のようなステップを踏む必要があると考える。
1)オフライン事業のプラットフォーム化:まず第一段階として、バラバラに集客・運営する事業者がどれだけ多く参加する、ClassPassやMealPalのようなプラットフォームを作れるか。東京のような店舗の密度が高い大都市圏から、局地的にメッシュ型で開拓を進めるのが理想。そこに参加する店舗は顧客獲得コストを削減、価格の非効率が解消でき、ユーザーは明確な価格メリットと提供されるサービス・コンテンツの豊富さを享受できる。
2)価格設計やプランごとの提供サービスの継続的改良:$9.95で通い放題プランを展開したMoviePassは事業の成長速度にオペレーションがついていかなかった。日本でも、GREEが撤退したスタジオ通い放題サービスLespasはレッスン数の制限がなかったことが失敗要因とみられる。こうした設計ミスは当然ながら事業の成否に大きく影響するため、オフライン事業といえどIT企業のようなPDCAを回す速度が求められる。
3)顧客データの蓄積を活用:サブスクのメリットである「どの会員がいつどのようなメニューを注文したか」といった個人の情報を集め、サービスの向上やパーソナライズ、新商品の開発に生かし、LTVの最大化を図る。
4)「提供コンテンツの限界」の解決:ClassPassやMealPalといったビジネスの課題点は、提携店舗数の成長率がどこかで鈍化して、新しいコンテンツを提供できなくなる。ローンチ時にリスティング数を多く揃えても、中身に変化がなければ顧客は数ヶ月で飽きておそらく解約してしまう。逆に映画見放題や音楽ライブ通い放題はコンテンツが毎回違うため、顧客をフックしやすい。また、ClassPassはPelotonと提携することで、同社が提供する動画コンテンツの中から好きなクラスを好きな時に受けられるオンラインスポーツコンテンツ事業にも進出し、この問題を解消した。
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リアル店舗×サブスクは決して簡単な領域ではないが、もしかしたら人々のライフスタイルを目に見えて変えるようなサービスが生まれるのはないかと個人的には期待している。
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