チリトリ自由食堂。
壱岐島、芦辺浦の漁港にある、ちいさな食堂、『チリトリ自由食堂』
この食堂は、、芦辺浦にあった食堂。今はなき、『千里十里』(ちりとり)というおばあちゃんがひとりで営んでいたお店の記憶や気持ちを残したいと、オーナーの大川夫妻がはじめたお店。
わたしはオープンからたずさわり、2022年の3月3日に、めでたく3年目をむかえることができた。
『千里十里』は、このまち芦辺浦で、釣り人や旅の人、子供たちが立ち寄って良い時間を過ごしていたそうで、なにやらとてつもなく、人情深く、あたたかなお店であったらしい。
チリトリ自由食堂には『千里十里』のけいこ姉がつくっていた、メニュー『やきとば』がある。
カリカリに焼いた焼きそば麺に、ほんのりカレー風味の甘いあんかけがのっている、やきそばならぬ『やきとば』。
けいこ姉が、すこし耳がわるかったために、やきそば、と注文しても、必ず、『やきとばね!』と返事が帰ってくる。
それがとてもかわいかったそうで、チリトリ自由食堂のメニューには、やきとばとして残されている。(スタッフがお客さまにきかれて由来を伝えるのもまた可愛い時間である。笑)
この「やきとば」にはドラマがたくさんあって、オープン時には千里十里の元常連客が集結して、あーだこーだ言いながら試作をした。
やれ、けいこ姉は、焼きそばめんを洗ってから一日干していたとか、カレー粉はSB食品の赤缶だったとか。(みんな真剣でもあり、その時間自体を楽しんでいた)
オープンしてからも、それだけを食べにスパイスカレーには興味がないおじちゃんたちが、食べにきたり(チリトリ自由食堂のメインはスパイスカレー)、ちょっとやきとばを休んだ時には、なんでないとね!と怒られたりした。
けいこ姉は若かりし頃、とても綺麗なかただったそうで、ひっそり好きだったおじちゃんも多かったらしい。
子供のころ食べていたという方が、島外からきたりするし、七回忌には、元常連さんや、生前お世話になっていたんだと、やきとばを食べにきたりする。
そのたびに、味は大丈夫ですか?もっとこうだったとかあったら言ってくださいね。
とお客さまと話してきた。
わたしは、千里十里のやきとばを食べたことがないからだ。
正解がわからないから、随分とこれでいいのか迷ってきた。
とにかく愛されていたメニューだ、お店だ、とくりかえしくりかえし「やきとば」に教わってきた。
そしていま、子供たちが「チリトリ自由食堂」のメニューとして、やきとばを食べてくれている。
お店に入ってすぐ、ちびっ子に『やきとば!」と言われることもある。
わたしのもやもやな迷いとかは置き去りになる。
なんだか不思議な、満たされた想いに包まれる。
料理人としてとても特別な体験だ。
けいこさん、会いたいですね。
みんなに愛されるお店をめざしていきますね。
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