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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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「ソフト/クワイエット」に出てくる差別はこの世界にすでに存在している。

私の大学院での研究は「白人至上主義」に関わるものです。この映画では「アーリア人団結を目指す娘たち」というグループを結成した白人女性たちが、同じ街に住むアジア人女性の姉妹に目を付けて、彼女たちに腹を立てるところからストーリーが動き始めます。
予告編はこちらから!日本の予告編は本編をばらしすぎな気がしたので、本国の予告編をご覧ください。字幕ONにすれば英語のテキストが出ます。
でも、雰囲気を味わっていただきたいので、英語が分からなくてもOKです!

「アーリア人団結を目指す娘たち」とは?

この「~の娘たち」と言われて、思い出すのは「United Daughters of the Confederacy」です。日本語だと「南部連合の娘たち」と書かれていることが多いですね。ちなみに、「Sons of Confederate Veterans」(日本語だと「南部連合退役軍人の息子たち」)もあります。

この団体が何をしたのかという話の前に「南部連合」という存在について書いておきましょう。
アメリカはかつて南北に分かれて国内で戦った歴史があります。
南北戦争ってやつですね。
その際に、北軍は奴隷解放を掲げ、南軍は奴隷制は廃止すべきではないとし、同じアメリカ人同士で戦ったのです。
アメリカ南部は恵まれた気候もあり、大規模な農業がさかんでした。その大規模農業を支えていたのは、黒人奴隷たちでした。
このあたりの恐ろしさは映画「それでも夜は明ける」あたりをご覧ください。黒人奴隷と白人の農場主たちの関係性がよくわかります。
大規模農場は、奴隷となっていた方々のつらい生活の上に成り立っていたものです。

結果、ご存じの通り、アメリカ北軍が勝ち、奴隷制は廃止されます。しかし、黒人への差別はキング牧師がスピーチをしても、黒人初のアメリカ大統領バラク・オバマが誕生しても、今現在でも続いていますね。

アメリカの南部では、「国のために南北に分かれて戦ったのは勇敢なことであった」という考えがあり、南軍の英雄を称えたり、南軍で戦った兵士の娘や息子であることを誇りに思う人たちもいるのです。このような考えを「南部の誇り」と言います。(英語だと「Lost Cause of the Confederacy」で、日本語だと「南部連合の失われた大義」などと書かれています。)
アメリカでは「軍人」に敬意を払うという傾向があります。その一環と考えれば、まぁわからなくもないです。しかし、もし南軍が勝っていたら?と思うと怖いですね・・・

というわけで、この「ソフト/クワイエット」の中に出てくる、「アーリア人団結を目指す娘たち」というのは、アーリア人としての誇りを持って、アーリア人であることを主張していく団体という感じでしょうか。
アーリア人って何?という方もいらっしゃるかもしれません。有名なのはナチス・ドイツがアーリア人の血を重視していました。ドイツ人はこのアーリア人の血を引き継いでおり、たくさんある人種の中でアーリア人が最も優秀であると信じていました。そういった背景から「自分たちの人種が最も優秀なのに、多元主義(人種や宗教に多様性のある社会)という名のもと、自分たち白人が我慢する社会は間違ってる」と考え発足したのが、この作品中にでてくる「アーリア人団結を目指す娘たち」という団体でした。

では「南部連合の娘たち」は何をしたか?
この団体は、南部連合の「失われた大義」という解釈を広めた団体です。彼女たちが先頭に立ち、記念碑や銅像などのシンボルを作ったのです。大義名分としては「国のために戦った南軍の兵士たちも勇敢であった。その勇敢さを称える」と言ったものでしょうが、実際には南軍の将軍の銅像が立ち、議会では南軍旗が「南部の誇りです」といったテイで翻るのです。現在では、このようなものはすべて「人種差別の象徴となる」として非難され、撤去されているものもたくさんあります。まさにソフトに、そしてクワイエットに南部で広まっていった活動でしょう。
このモニュメントの撤去については下記記事に詳しく書いてあります。

下記記事からの引用です。

だが、そもそも数百もの記念碑やシンボルが作られ、配置されたというのは、どういう経緯だったのか? 南北戦争当時にはなかったアラスカ州やモンタナ州にまで、南部連合のシンボルがあるのは、なぜだろう?

そうした疑問の答えを探してたどり着いたのが、バージニア州リッチモンドに本部を構える「南部連合の娘たち」(UDC)という団体だ。

この団体は1894年に発足し、南部連合の「失われた大義」という解釈を広めてきた。その解釈において、奴隷制は南北対立の主要課題から外されている。中心メンバーは中・上流階級の白人女性で、高い資金調達力と強い影響力を発揮して、南部だけでなく全米に、南軍兵士のモニュメントを建てることに尽力してきた。

BLMで撤去対象に 米国のモニュメントが称えるもの

【ネタバレ】多種多様な人種差別

ここから先は映画本編で出てくる様々な人種差別について説明していきます。まっさらな気持ちで見たい方はここから先はネタバレとなるので、読まない方が良いと思います!
「そうか、じゃぁ」とページを閉じようと思った方にぜひ見ていただきたい動画があります。下記BBCが提供している動画をご覧ください。

「南部の誇り」を重視する人たちによって、高校の名前や通りの名前に南軍の英雄の名前が採用されていたこともありますし、南軍の英雄たちの銅像なども街中にありました。また、南部の一部の州の州議会では、差別を象徴するシンボルである「南軍旗」を掲揚していたこともあります。
こういった「南部の誇り」は、白人至上主義者を生み、白人至上主義者たちがマイノリティ(黒人やアジア人など他人種)をターゲットとした残忍な犯罪を行うことが相次いでいます。これらは過去の話ではなく、現時点でも行われております。

私が将来的に目指しているのは「ありとあらゆる差別の撤廃」です。
ぜひ動画を見て、アメリカで今でも続いている差別について知ってください。それから映画館に足を運ぶと、より深く理解できるかと思います。

さて、人種差別にはいくつかの定番の型があります。
幼稚園教諭のエミリーが主催するグループの会合には6名の女性が集まります。彼女たちはそれぞれ自分がどう思っているかを自由に述べるのですが、そこにこのいくつかの定番の型的な白人至上主義者の主張の特徴を見ることができました。

①マージョリー
「他人種によって白人は仕事の機会を奪われている」

これはトランプ支持者の方などからもよく聞かれる話です。
アメリカでは近いうち、白人がマイノリティになると言われています。その理由は移民の増加です。近いうち、ヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人(黒人)、アジア系をすべて足すと、白人の人口を越すと言われています。
これがアメリカに住む一部の白人たちにとっては脅威と感じられているようです。
日本でも一部の日本人の方が、日本以外から日本に移住してくる方に対して「日本人ですらまともな仕事につけないのに、安い給料で働く外国人に仕事を奪われたらたまったものではない!」と怒っているのをお見掛けしますが、アメリカでも同様に、「仕事を奪われる」ということを主張する方は多いです。
マージョリーは、会社で出世する順番は私の方が先のはずだと言います。しかし実際に昇格したのはヒスパニック系の女性でした。確かに日本でも順番に昇格していくような習慣はありましたが、現在は「実力主義」になっていますよね。マージョリーの主張は現在では時代遅れの主張です。アメリカは日本よりも実力主義ですし、仕事ができれば昇給するでしょう。しかし彼女は「もともとアメリカに住んでるわけではない人たちに仕事を奪われるのは嫌だ」と主張します。マージョリーの主張は6人の女性の中ではそこまで強いインパクトはないかなと思いました。最初のスピーカーだったからかもしれません。

②アリス
「白人の命だって大切だ」
アリスは映画の中で「黒人の命が大切だっていうけど、白人の命だって大切でしょう。みんなの命が大切なのよ」と述べます。(詳細忘れてしまったので違ったらごめんなさい!)
みなさんは「Black Lives Matter(=BLM)」という言葉を数年前によく目にしたと思います。これ日本語にすると「黒人の命は大切だ」という意味になります。
偽札の使用疑いで警察官に捕まったジョージ・フロイドさんという黒人男性が、捕まったその場で警察官に首を抑えられ、その場で窒息して死んでしまうという衝撃的な映像がSNSを駆け巡ったのは2020年5月25日のことでした。ジョージ・フロイドさんがどんな人だったかはこちらの動画で確認できます。

彼が警察官に殺されたあとに、世界中に「BLM」の運動は広がっていきます。実は「BLM」という言葉は2020年のこのジョージ・フロイドさんの事件の時に作られた言葉ではないのです。
この言葉が生まれたのは2013年です。
アメリカには住民の安全を守るために「Gated community」という住宅地があります。住宅地を壁や塀などで多い、出入口に門を設けて、住宅地の住民以外が気軽に入ることができない住宅地です。これらの住宅地では、自警団がおり、不審な人物がいたら追い払うことができたりします。
2013年、この閉鎖された住宅地をアフリカ系アメリカ人の高校生トレイボン・マーティンさんが訪れました。マーティンさんはこの住宅地に住んでいる人と知人であったのですが、この住宅地の自警団の一員であった彼はジョージ・ジマーマンは彼が、フード付きのパーカーを着ていたことで彼を「怪しい」と思い、彼を監視し始めます。(このジョージ・ジマーマンは白人ではなくヒスパニック系です。)
この「フード付きのパーカーを来た黒人の青年」というのが、犯罪を犯す黒人男性の象徴のように捉えられていたようです。ジョージ・ジマーマンはマーティンさんを監視し、「怪しい黒人男性がいる」と警察に通報しますが、警察は「問題はない」と判断します。しかし、ジョージ・ジマーマンはマーティンさんを監視し続けるのです。そして、ジョージ・ジマーマンとマーティンさんの間に「何か」が起き、警察が現場にたどり着いたときには、ジョージ・ジマーマンは携帯していた銃でマーティンさんを撃たれたあとでした。その後ジョージ・ジマーマンは警察によって拘束されるのですが、警察は逮捕したその日の夜中に「ジョージ・ジマーマンが正当防衛を行っただけである」と判断し、彼を釈放します。これに、社会は怒ったのです。もし、逮捕されたのが黒人男性であればこんなにすぐに釈放されないはずですし、まだ高校生の男の子が、銃で殺すような脅威だったでしょうか。

この時に、社会運動家アリシア・ガーザさんらによって「Black Lives Matter(=BLM)」という言葉が生まれました。2020年のジョージ・フロイドさんの事件をきっかけにこの言葉は日本国内でも広く知られるようになりました。
この言葉の意味としては、黒人差別があるから命が軽視されるのではないか?という投げかけです。「白人だったら逮捕されてもすぐに釈放されるじゃないか。」「「白人だったらこんな風に路上で首を圧迫されて死ぬことはないんではないか。」そう感じる人はたくさんいるでしょうし、私からみても抵抗もしていないジョージ・フロイドさんが路上で苦しそうに、「ママ・・・」と言いながら亡くなっていく映像は悲しくて、こんなことあってはならない、続いてはならないと思いました。

しかし、この運動と同時に「White Lives Matter」(「白人の命は大切だ」)とか「All Lives Matter(すべての命が大切)」(「みんなの命が大切だ」)といったスローガンが生まれるのです。
これらは批難の対象となります。
昨年、カニエ・ウェストが自分のブランドで「White Lives Matter」と書いた服を販売したり、自身で着用したことで、アディダスやGAPとの契約を切られるといった騒動も起きましたね。このことが原因でSNSのアカウントを凍結されたりしました。

なぜ、「White Lives Matter」(「白人の命は大切だ」)とか「All Lives Matter(すべての命が大切)」(「みんなの命が大切だ」)がいけないのか?言わずもがなという感じではありますが、この例えが分かりやすいかなと思うのでぜひこの記事を読んでください。
なぜ「みんなの命が大切だ」と主張することがおかしいのかがよく理解できます。

③ジェシカ
「私はKKKのメンバーなの。でも現実社会ではそれを言わない。活動はオンラインでやってるの。」

KKKはクー・クラックス・クランという白人至上主義者の組織です。
これは少し古い映像ではありますが、現在でもKKKは活動しています。特徴的なのは白い帽子と白い服ですね。かれらが持っている旗に注目していただきたいのですが、赤字に青いX字が描かれた旗。これが南軍旗と呼ばれるものです。これらは、奴隷制を継続しようとした南軍が使用していた旗でして、白人至上主義者と南部の誇りを主張する人たちは被っていることが分かります。

人種差別以外の陰謀論者などもそうですが、現在差別的な活動をする場所は現実社会ではなく、オンラインに移っています。匿名性で、自分の素性を明かさずに、差別発言を繰り返しています。ジェシカのように普段の社会における生活では人種差別的な面を表に出さず、インターネット上では罵詈雑言を書くといった人もいます。

④キム
「ユダヤ系の銀行に融資を断られたんだ」
ユダヤ人差別というとナチス・ドイツをイメージする方が多いと思うのですが、ユダヤ人は現在でも差別の対象となっています。
「反ユダヤ主義」という考えがあります。
下記記事が詳しいのですが、この右側に書いてあるイラストを見たことがありますか?鼻が大きく、手をこすり合わしている男性のイラストなのですが、このイラストはユダヤ人を差別する際によく用いられるイラストです。

上記記事が書かれたのは2023年4月18日ですので、反ユダヤ主義が今現在も根強く残っていることが確認できます。

キムは「大学での専攻はジャーナリズムだったんだ」と映画の中で述べていますが、ジャーナリズム専攻であった女性でも、このような差別主義者になってしまうのかと、恐ろしさを感じます。

⑤レスリー
「なんでもいいからこの会のためになることがしたい」
レスリーは刑務所を出所したばかり。
④で紹介したキムがやっているお店で働いている子です。
彼女は誘われて参加したものの、このグループの主旨もあまりよくわかっていない様子でした。
レスリーは教会に入った瞬間、祭壇に目を奪われます。おそらく彼女は教会に通うといった習慣がない家庭で育った子なのでしょう。
最初、「なんでもいいのでこの会のためになることをしたい」と述べていました。彼女に関しては、仲間になりたい、一緒につるむ友達が欲しいといった感じでしょうか。この町に友達もいないのでしょう。
彼女は「古着のお店をやりたいんだ。その売り上げをこの団体に寄付するっていうのはどう?」とグループの主催者エミリーに持ちかけます。
彼女に関しては、他のメンバーとはちょっと参加の動機が違うようでした。しかし、キムがレスリーをこの会に誘ったのは、おそらくキムのお店での他の人種の客に対する攻撃的な態度を見てのことだったのでしょう。
彼女はそもそもの性格が粗暴なタイプの人でした。社会に対するうっぷんのやり場を、白人以外の人種にぶつけているという印象を受けました。エミリーのように「アーリア人の団結を~」とかいう確固たる信念を持って活動しているというわけではなさそうに見えました。ただ彼女にも、差別主義的な意識はあり、それが物語の中で暴走していきます。

⑥エミリー
「フェミニストは性別に捉われるべきではないと言うけれど、女性は女性らしくあるべきだわ」
エミリーはこの会を主催する幼稚園教諭の女性です。子どもを持ちたいと強く願っているにも関わらず妊娠できず、そのフラストレーションからメンタル的にかなり情緒不安定になっている様子が分かります。

私は彼女にもし子供がいたら、また違った状況になっていただろうなと思うのです。エミリーは容姿端麗で、しかも頭もいい。それを自分でも自覚しているのです。エミリーが考える完璧な女性になるためには「子ども」が足りないのです。エミリーはパイを焼いたり、自分で絵本を書いたり、犬をかわいがったりと、家庭的な優しい女性のように見えるのです。
アメリカでは「トラッド・ワイフ」(=伝統的な家庭や女性の役割を大切にする妻)というのが一つのコンテンツとなっています。有名なのはエスティ・C・ウィリアムズさんという女性です。彼女はSNSなどで自分の「トラッド・ワイフ」としての生活を発信しています。

アメリカにおいてパイは重要な役割を持っています。ピーカンパイやアップルパイ、チェリーパイなど様々な種類のパイがありますが、「パイを焼く」という行為は、「家庭を大切にする女性」をイメージさせます。映画の中でも「働いているのに、パイも焼けるの?!」とエミリーを褒めるシーンがあります。
アメリカでは女性も働くべきだという考えがあるとはいえども、現在は保守的な女性も増えており、「女性は家にいて夫のサポートをするべき」と考える女性もいます。映画の中でも、既婚者のアリスやジェシカは働いていないように見えました。
おそらくこの映画の舞台は「アメリカ南部」の「保守的な地域」で「湖がある自然豊かな田舎」なのでしょう。

エミリーたちがこの「アーリア人団結を目指す娘たち」の会合を行うのは協会の2階にある、スペースなのですが、途中で教会の神父様から「出て行って欲しい」と言われます。その時彼女の顔から表情が消えるのですが、それがとても恐ろしい。彼女は神父様とは顔見知りのようでしたし、きっとこの教会に通っており、神を信じる人でしょう。神を信じる人が差別行為を行うという点が恐ろしいなと思ってしまいました。

また、彼女は「女性は男性に尽くすべき」的なことを言っているのですが、彼女の夫は完全に尻にひかれています。エミリーが泣いたり不安定になればエミリーの言いなりになってしまいます。エミリーが夫に強く出るのは、他のメンバーがいないときだけ。彼女は自己主張をする女性です。ですが、他のメンバーの前では夫を立て、夫と腕を組み、円満なカップルを装います。
エミリーが本当に夫に従う妻であったならば、この映画の悲しい事件は起きなかっただろうなと思いました。夫もエミリーに対して、強くでることができない。それもこの映画の悲劇につながっていきます。

エミリーは時にとても高圧的で、狡猾な性格を見せます。彼女はなんだかんだで人種だけではなく、「育ち」の面でも人を差別します。この「アーリア人団結を目指す娘たち」の中では、マージョリーとレスリーは「育ちの悪い品のない女性」として描かれます。マージョリーとレスリーは未婚です。他の4人は既婚者です。マージョリーに関しては、他の既婚者4人は「そんなはしたない恰好をして恥ずかしい」とか「下品な言葉遣い」とか、マージョリーを階級的に差別するような言葉を投げかけています。移動中の車の中でクラブミュージックのような音楽を流した時もあからさまに嫌がっていました。ここにも南部の女性的な、家庭的で女性的なことを重視するという価値観が垣間見られます。
マージョリーはそこまで気にしているようには見えませんでしたが(空気読めない系かもしれない・・・)、彼女はキムの店で誰よりも過激で、陰湿ないじめをアジア人姉妹に対して行います。
また、レスリーに対してエイミーはとことん利用します。それはレスリーがエイミーにあこがれを抱いているということを理解した上での行動でした。レスリーの手を汚し、自分はクリーンなまま。レスリーを巧みに操る姿は恐ろしかった・・・エイミーという女性はとことん狡猾なのです。自己愛が強いと言うか・・・。

【ネタバレ】白人至上主義者が想像する移民のアジア人

「アーリア人団結を目指す娘たち」のうち、アリスとジェシカを除いた4名は飲み直すためのワインを購入しに、キムの店に行きます。店は閉店していたのですが、アジア人姉妹が入ってきてしまいます。そこでアジア人姉妹は強烈な罵声を浴びるのですが・・・

「アーリア人団結を目指す娘たち」からすれば、アジア人は自分たちよりも劣っているはずでした。
アジア人姉妹の家に行くと、家はとても立派で美しく、景色の良い丘の上に住んでいました。
「アーリア人団結を目指す娘たち」のメンバーは激しくこの住環境に嫉妬します。
また、家に押し入ったところ、アジア人姉妹はペットにかわいい犬を飼っており、部屋の中は整理されて綺麗でした。ピアノもあることから、アジア人姉妹がピアノを弾くことができる、「教養」を受けていたことが分かります。そのピアノを見てマージョリーが「私もピアノが欲しかったんだ」と言い、鍵盤の上に指を置いてみるのですが、マージョリーには汚い音しか出せなかったのです。マージョリーの育ちというものがここでも強調されます。
家には2階があり、2階の部屋も整理されていました。このアジア人姉妹は「よい暮らし」をしているのです。

白人至上主義者たちは、「よい暮らし」をするのは白人であって、移民が「よい暮らし」をするのはおかしいと考えています。移民がたくさんのお金を持っていることも「何か悪いことをしてお金を稼いだんでは?」と疑います。有色人種の女性はたびたび「売春婦としてお金を稼いだんだろ?」と侮辱を受けます。この映画の中でも、アジア人姉妹にそういった侮辱的な言葉を投げつけているシーンがありました。これも白人至上主義者の使う「差別の型」のひとつです。

【ネタバレ】総合的な感想

映画はアメリカの自然豊かな田舎町を舞台にしています。冒頭の会合を行う森の中の教会も非常に美しいですし、映画の中で描かれるこの町の自然はどれをとっても非常に美しいのです。
秋口くらいの、ツンと澄んだ森の空気や湖のほとりの空気を感じることができるでしょう。その冷たさは、「アーリア人団結を目指す娘たち」の冷酷さに通じるものがあります。しかし、彼女たちの内側に秘められた「黒いもの」は、ぐつぐつと沸くマグマのごとく熱いものでした。その熱さが内側ではなく、外にあふれたとき、ヘイトクライムへと発展していくのでした。
その2つの対比に体が凍り付くような感覚を覚えたり、その熱に触れてやけどをしたような気分になったりして、だんだんと気分が悪くなっていきました・・・吐き気すら覚えるほどの結末です。

妊娠中の主婦が、仲間たちに向かってハイル・ヒトラーの真似をして手を挙げる。
2人の子どものお母さんが、アジア人というだけでヘイトの対象にしている姉妹に銃口を向ける。
幼稚園の先生が、自分で焼いたパイにナチス・ドイツのシンボルであるハーケンクロイツの切り込みを入れてくる。

この映画にでてくる白人至上主義者たちは、社会に溶け込んでいる女性たちでした。仕事があったり、よき妻、よき母として、社会で生活している女性たちです。そのような人たちも、内側にはどんな「黒さ」を持っているかわからないのです。白人同士ではその「黒さ」を知ることはないでしょう。でも私たちのようなアジア人はその「黒さ」を、差別的な行為によって知ることになるのです。

これは映画ですが、ここで描かれているような差別はすべて現実社会に存在しています。今日も誰かがどこかで差別ゆえの犯罪に巻き込まれています。中には命を落とす方もいらっしゃいます。
忘れてはいけないことは私たち日本人もアジア人であることです。
私は香港で白人のティーンエイジャーから、鼻をつままれて「くさい」というような表現で差別されたことがあります。「アジア人はくさい」という差別の型があるのです。

また、日本人の中には「韓国人や中国人は民度が低い」などと平気で口にする方々がいます。日本人は中国人や韓国人よりも上の立場だと考えている人は少なくありません。また、若い子の間では韓国は人気があるので差別的な思想を持つ子は減っているかもしれませんが、中国に関しては依然差別的な考えを持っている若者はいます。私は、まだ高校生が大学生くらいの女の子が、中国人観光客の目の前で差別的な言動をしたのを目撃したことがあります。

差別される側は、自分より下の民族を下がすことがあります。
例えば黒人の中には、ユダヤ人やアジア人を見下し、差別する人がいます。
そのことによって自分たちの人種の地位を保とうとするのでしょう。
しかし、人種で優劣はありません。これは事実です。私たちは見た目の差はあったとしても、同じ地球に住む「人間」という種類の生物なのです。
私はコスモポリタン(世界主義者。地球市民。)の考えで生きています。
これは「全ての人間は、国家や民族といった枠組みの価値観に囚われることなく、ただ一つのコミュニティに所属すべきだとする考え方」です。
この考え方が広まっていけば、世界はより一層平和になるだろうと思っています。

この映画は本当に途中から苦しいです。
ですが、それでも、見てほしいです。これが白人至上主義です。
ぜひ映画館に足を運んで、「アジア人への差別」を体感してください。

映画の冒頭箇所、2分間見れます。
「なにかがおかしい」その違和感を感じてください。

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