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他人の気持ちを察しすぎる。HSPを50年こじらせた私が、“自分ファースト”になれた理由

HSPという気質をご存知でしょうか?「Highly Sensitive Person」の略で、音・光・匂い・痛みなどの刺激に敏感かつ、他人の感情に影響されやすいという特徴があります。

HSP当事者の内田さとえさんは、自分の気質に気づくまで、「50年近くHSPをこじらせてきた」と語ります。人との関わりがうまくいかずに自分を責め、苦労も多かったそう。

そんな過去を持つ彼女ですが、今はパートナーとの関係を改善させただけでなく、ブログでHSP関連の情報を発信し、HSPコミュニティの運営にも携わるなど精力的に活動しています。

内田さんが、意識や行動を変化させられた理由とは何だったのでしょう?内田さんに「自分を大切にする」生き方のヒントを伺いました。

内田さとえ
大阪府出身、福岡県在住。HSP(繊細)かつHSS(HSPのうち刺激的なものが好きなタイプ)の当事者。2020年にHSP、HSSを自覚するまで、自身の気質に50年近く悩んできた。HSPをカミングアウト後、同じような悩みを持つ仲間が多くできた経験から、HSPコミュニティの運営やブログでの発信をメインに活動を続けている。
HSPコミュニティ / ブログ

他人の期待に勝手に応えては、自分を責めていた

ーーまずは、内田さんのこれまでのお仕事について教えてください。

内田さん:
学生時代の飲食店での接客アルバイトに始まり、大学卒業後は国語の教師、兼任で学校の寮の管理、そこから転職し、英語教室の営業も担当しました。人と関わる仕事が多かったですね。

そのあと、親戚が経営する会社に転職し、そこで今の夫と出会いました。結婚を機に東京へ引っ越してからは、消防設備士や事務員として働く傍ら、ブログで集客しながらコーチング業も行っていました。

数年前に夫婦で起業し、今は消防設備業を本業にしています。

ーー内田さんが社会に出て働き始めたころ、HSPという言葉はなかったと思います。HSPを自覚されるまではどんなことで困っていましたか?

内田さん:
共感性の高さですね。「その場の空気を察知しやすい」というHSPの気質が悪いほうへ出ていたのだ、と今ならわかるのですが、他人の期待に応えようとして苦しくなることが多かったです。

たとえば、職場に勤務シフトを提出するとき。みんなが入りたがらない日時がなんとなくわかるので、そこに率先してシフトを出していました。

でも、自分が勝手に気を回しているだけなのに、不満は募っていくんです。「私はこんなに貢献しているのに、相手には伝わらないし感謝もされない!」と怒りが湧いてきて。

すると、今度は自分を責め始めるんですよ。他の人は、日曜日は休みたいとか、遅い時間帯は無理だとか、好きなようにシフトを出しているのに、どうして私は言えないんだと。いつも一人で反省会をしていました。

ーー他人ではなく自分を責めていたんですね。

内田さん:
そうなんです。他人を責めると後悔するんですよね。自分の器の小ささや、人を傷つけてしまう可能性に対して、気まずさを感じてしまって。

今でこそお互いの気持ちを尊重できるようになりましたが、当時は、率直さや対等さを大事にする「アサーティブ・コミュニケーション」という言葉も知らなかったこともあり、自分で自分を辛い状況に追い込み、くり返し責めていました。

「自分ファーストで生きていい」HSPを自覚して得た、自分だけの時間

ーーそんな内田さんがHSPを自覚されたきっかけは何だったのでしょうか?

内田さん:
2020年に、以前から所属していたコミュニティで行われた勉強会に参加したことです。HSPの研究者がいることにまず驚きました。共感性の高さ・刺激に反応しやすいことなどに悩む人はほかにもいるのだと、孤独から解放されましたね。

そこから書籍などを通して学ぶなかで、「私の気質はHSPだったんだ!」と自己理解を深めていきました。

自分の性質が言語化できたことで、本当に心から安堵したのを覚えています。

HSPを自覚してからは、自分ファーストで生きていいと思えるようになり、自分を大切にできるようになりました。

それまでは、なにか活動をすると、まるで魂が抜けるかのように疲れてしまっていたのですが、

自分のキャパシティに気づけたり、「次はもう少し力の入れ方を調整しよう」と改善できたり、自分を意識的にケアできるようになりましたね。

ーー自分を大切にしながら活動するために、内田さんが心がけていることはありますか?

内田さん:
HSPは刺激に敏感で疲れやすいため、たとえ楽しい時間を過ごしたとしても、あとからどっと疲れを感じてしまうんです。そのため、一人の時間を大切にしています。

HSPを自覚してからまず取り組んだのは、自分の部屋を持つことでした。家族の物置として使っていた部屋を自分の部屋に変えたんです。

それまで私は、妻や女性として「こうあらねば」という一心で生活していたんですよ。家父長制の考え方のもと、自分の希望を言ってはならないと厳しく躾けられてきましたから。

大人になるほど自由を強く求めるようになり、親の反対を押し切って夫と結婚したものの、自分の中にやはり古い価値観が残っていましたね。でも、勇気を出して自分の希望を大切にしようと決めました。夫にも「あの部屋は私の部屋にするね」と宣言できたんです。

以来、一人の時間や空間がいかに大切なのか実感しています。HSPだと、どうしても周囲が気になってしまうのですが、物理的にノイズを遮断して質の高い時間を過ごせるから、心の底からリラックスできます。

ーー一人の時間の質を上げるために工夫されてることはなんですか?

内田さん:
自分の好きなものに触れることですね。私の場合は、心が穏やかになる音楽をかけたり、ハーブティーやアルコールを飲んだりします。

お酒は少量をゆっくり味わっていますね。お気に入りの酒造会社をセレクトし、割り方なども自分好みに調整しています。

お笑いの動画などを観たり、HSP仲間から教えてもらった「カリンバ」という楽器を弾くこともあります。思わず「和む〜」と独り言をつぶやいてしまうくらい、とっても癒やされる音なんですよ!

ーー誰にも邪魔されず、周りのことを考えなくていい時間を作ることが大切なんですね。

内田さん:
そうですね。パートナーや子どもなど、そばに誰かがいれば反射的に気を遣ってしまうのがHSPなので、皆さんもできればそういう心身がリフレッシュできる空間を作ってみてほしいです。会社帰りにカフェへ行ったり、休みの日に一人で出かけたりするのでもいいと思います。

あと……私はいつも、デスクにアンパンマンを置いています。

ーーアンパンマン?

内田さん:
これは大切なHSP仲間から教えてもらったエピソードなのですが、アンパンマンは、困っている人に自分の顔をちぎって与え、元気になってもらおうとするヒーローですよね。でも、もし彼が、よれよれの状態で「私の顔を食べてください」と言ってきてもさすがにそれは受け取れない。

HSPは共感力が高く、相手のニーズをキャッチしやすいため、自分よりも周りの人を優先してしまいやすいです。でも、自分を満たして初めて、他の人を励ましたり応援したりできるはず。それをいつでも思い出させてくれるのが、アンパンマンなんです。

結婚25年目。「察せない」パートナーと築いた新たな関係

ーーHSPと向き合うなかで、人間関係に変化はありましたか?

内田さん:
夫との関係がよりよくなりましたね。

夫は私とは正反対で、察することが大の苦手。はっきり言葉で説明しないとこちらの考えをまったくわかってくれません。だからこそ、私も自分の思いをできるだけわかりやすく言語化し、感情まかせの発言をしないよう気をつけていました。

それでも困ったことはありました。たとえば、私が人を手助けしたり親切にしたりするたびに「さとえは、周りから“いい人”と思われたいタイプだよね」と夫に言われました。

今なら自信を持って、「HSPは共感性が高く察することに長けているから、人のためについ動きたくなるの」と言えます。しかし当時は、「私は自分の満足のためだけに動く人間なのだろうか……」と悩みましたね。

彼にHSPであることを伝え、『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』を読んでもらってからは、「さとえは、この本に書いてあるとおりのタイプだね」と理解してもらえました。

以来、他者の気持ちを人一倍察しやすいというHSPの特性を踏まえながら、彼なりに接してくれるようになりました。私が我慢したり暗い顔をしているように見えたら、「そんなに自分を押し殺さなくてもいいよ。何かあるなら話してみて」と気遣ってくれるようになったんですよ。

彼に対して、「自分らしくいてもいいんだ」と思えるようになりましたね。

ーー素敵ですね。他にはどんな部分が変わりましたか。

内田さん:
私と彼の趣味をそれぞれ尊重できるようになりました。若いころは相手の趣味に合わせようとしていたんです。たとえばバイク。もともとは夫の趣味なんです。

HSPのなかでも、私は刺激的なものが好きなHSSタイプなので、バイクに乗る時間を私自身も楽しんでいました。でも、心のどこかに「彼が好きなことだから一緒にやっている」気持ちがあったんです。

HSPの特性を理解してもらってからは、たとえば「ツーリングに行こうよ」と誘われたときも、「行きたいときは一緒に行くけど、行きたくないときは行かない」と伝えられるようになって。

彼の誘い方も「俺は行くけど、さとえはどうする?」といった言い方に変わりましたね。

内田さん:
私はどちらかというと、バイク以上にコンサートや歌舞伎、舞台が好きなんです。その場の生の空気にエネルギーをもらえるんですね。

かつ、好きなものは一人で愛でたいタイプで。HSPを自覚し自分と他者との間に境界線を引けるようになったからこそ、そう思えるようになりました

以前は人と同行することもありましたが、今は基本的に一人で行きます。おかげで感動を心ゆくまで味わえていて。大満足で帰宅し「ライブ、よかったよ!」とすぐさま夫に報告していますね。

夫も夫でゲーム、読書、数独、パズルゲームなどの一人遊びを楽しんでいます。同じ空間にいても、リラックスして各々の時間を楽しめるようになりました。

ーー自分の世界を大事にできるようになったから、相手の世界も大事にできるようになったんですね。

内田さん:
そうなんです。結婚25年目からまた新しい関係を築けていると感じますね。私のHSPとしての思考回路や感じ方を二人で一から知り、積み重ねている感覚があります。

できれば皆さんにも、パートナーや身近な人に自分の特性を伝えて理解してもらうことをオススメしたいですね。

HSPはすばらしいギフト。まずは自分を認めて受け入れて

ーー内田さんは、HSPコミュニティも運営されていますよね。どんなことをされているんですか?

内田さん:
HSPを50年近くこじらせてきたので、以前の私のように悩んでいる方々への励ましや応援ができればと思い立ち上げました。

月に一度の勉強会や雑談会をメインにオンラインで活動していて、2024年11月時点で300人以上の方が参加してくださっています。今年はオフ会も開催しました。

重視しているのは、心理的安全性です。「量より質」と考えているので、単にメンバー数を増やせばいいとは思っていません。

そのため、入会には、既存メンバーの誰かと友だちであること、あるいは私に事前にコンタクトを取っていただく必要があります。ワンクッションを入れることで、熱量の高い方が集まっていますね。

お互いに助け合えるような場であり続けたいというのが主催者として一番の願いですね。

ーーHSPにとって励みになるコミュニティですね。この先、実現したい夢はありますか?

内田さん:
HSPが活躍できる会社を作ることです。

コロナ禍でリモートワークが一般的になり「なんていい環境なんだ!」とHSP仲間と盛り上がりました。HSPの特性の一つに、まわりの音や匂いに敏感なことがあります。

会社勤めのころ、電話をしているときに後ろの席で話している人の声や、サーキュレーターの音、夏場の汗の匂いが気になり、とてもしんどかったことが多々あって。でも、リモートワークならそんな状況が回避できます。

在宅でできる仕事を私が取ってきて、ライティングやデザインなど各々がセンスを活かし分業できる組織が作れたらな、と。本当にまだ、アイデアの種から少し芽が出てきたところですが、とてもワクワクしています。

共感性の高いHSPは、自分のためよりも、仲間や誰かのためのほうが力を発揮しやすいと思うんですよ。「仲間のため」と思うから、私の気持ちもこんなに高まっているんだと思います。

ーーありがとうございます。最後に、内田さんから、HSPの特性に悩んで立ち止まっている方へメッセージをお願いします。

内田さん:
HSPはすばらしいギフトです。日常のささいな喜びや楽しさを人の何倍も楽しめたり、深く本質的な思考が得意で良質なアウトプットを出せたりします。だから悩むだけではなく、HSPである自分を認め、その才能を磨くことに時間を費やしてほしいです。

たとえば私の主催するコミュニティの勉強会では、HSPの気質を活かしたり、心や体を健康に保ったりするための新しい考え方・実践的なやり方をシェアし、学びを深めています。たくさんの気付きがありますよ。

今はHSPの仲間も対処法も、調べればたくさん見つかります。皆さんの抱えてきた生きづらさや悩みを誰かに打ち明けるだけでも、状況は一歩前進すると思うんですね。どうか楽しく元気で幸せな未来を手に入れ、願わくばその輪を広げていってみてください。

内田さん主催のHSP/HSSコミュニティについて

そんな内田さんの主催するHSPコミュニティでは、HSP/HSSについての勉強会や、テーマ自由の雑談会をやっています。マインドフルネスヨガや楽器練習会などのイベントなども開催中。ご興味のある方は、下記のブログ記事から詳細をご覧ください。

〈取材・文=ここ(@cocokokoko)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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