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誰がAIDMAと言ったのか? ⑦W. D. Scottの影響

■W. D. Scottという人物

W. Jamesに登場してもらった後にはなるが、W. D. Scott(Walter Dill Scott, 1869-1955)について取り上げておきたい。

Scottは、ノースウェスタン大学の学長を19年間務め、ほかにカーネギー工科大学セールス技術研究所の所長なども務めた。
特筆すべきは、大学学長在任中に、約7000万ドルの資金を調達したことである。現在の円換算で100億円を超える。1920年代のアメリカではどの程度の価値があったのか正確にはわからないが、大学運営に途方もない貢献した人物だったことはわかるだろう。

Scott第一次世界大戦に参戦し、軍人の成功を予測する評価尺度を開発した。これが認められ、陸軍キャンプのすべてでテストを利用するようになったという。
これらを自らの研究にも活かした結果、Scottは産業・応用心理学の創始者の一人としてみなされるようになった。年齢は、Strongより15歳上であったことからも、StrongはScottの影響を強く受けていると考えられる。


■W. D. ScottとAIDA

Scottは心理学を専門としていたので、Jamesの影響を受けている一方で(著書の参考文献にJamesを取り上げている)、広告会社の重役から相談を受けたことをきっかけとして、1903年に、“The Psychology of Advertising in Theory and Practice” を書いた。ただ、本書においては、AIDA(AIDMA)関連の定式化には至っていない。

Strongは、このことについて、“The Psychology of Selling and Advertising”において、次のように言及している。

Scott writing in 1903 and 1908 believed that all the mental activities of man were involved in the process of buying, and discussed advertising under the chapter headings of : Attention; Association of Ideas; Suggestion; Fusion; Perception; Apperception; Illusion; Imagery; Memory; Feeling; Instinct; Will; Habit; and the like. But Scott made no attempt to formulate a simple expression of the selling process.
1903 年と 1908 年に執筆したスコットは、人間の精神活動のすべてが購買プロセスに関係していると信じ、広告について、注意、観念の連想、暗示、融合、知覚、統覚、錯覚、心象、記憶、感情、本能、意志、習慣などの章の見出しで論じました。しかし、スコットは販売プロセスの簡単な表現を定式化しようとはしませんでした。

(“The Psychology of Selling and Advertising”, P350)

Scottの、“Psychology of Advertising in Theory and Practice”の構成をみると、「Memory」「Attention」「Habit」とJamesの影響を色濃く受けていることがわかる。しかし、それをLewisやSheldonのようにAIDAと整理して定式化することはしなかった。
この点では、AIDA関連の主役とは言い難いのだが、別の観点から、この著書には注目すべきことが書いてある。

■W. D. Scottが記述した時代背景

それは冒頭の「INTORODUCTION」である。本書執筆の理由を綴っているのだが、その中ほどに、次の文章がある。少し長くなるが、次に引用する。

In Publicity, March, 1901, appeared an article which is even more suggestive than the editorial in Printers' Ink. The following is a quotation from that article:
The time is not far away when the advertising writer will find out the inestimable benefits of a knowledge of psychology. The preparation of copy has usually followed the instincts rather than the analytical functions. An advertisement has been written to describe the articles which it was wished to place before the reader; a bit of cleverness, an attractive cut, or some other catchy device has been used, with the hope that the hit or miss ratio could be made as favorable as possible. But the future must needs be full of better methods than these to make advertising advance with the same rapidity as it has during the latter part of the last century. And this will come through a closer knowledge of the psychological composition of the mind. The so-called "students of human nature” will then be called successful psychologists, and the successful advertisers will be likewise termed psychological advertisers.
The mere mention of psychological terms-habit, self, conception, discrimination, association, memory, imagination and perception, reason, emotion, instinct, and will-should create a flood of new thought that should appeal to every advanced consumer of advertising space.
Previous to the appearance of this article (March, 1901) there had been no attempt to present psychology to the business world in a usable form.
1901年3月に発行された『パブリシティ』誌には、『プリンターズ・インク』誌の社説よりもさらに示唆に富む記事が掲載された。以下はその記事からの引用である。
広告のライターが心理学の知識の計り知れない恩恵に気づく日はそう遠くないだろう。コピーの準備は通常、分析機能よりも本能に従って行われる。広告は、読者の目に留まるようにと、商品を説明するように書かれてきました。少しの機転や、目を引く見出し、あるいは他のキャッチーな手法が用いられ、当たり外れの比率が可能な限り有利になることを期待してきました。しかし、前世紀後半の時代と同じような速さで広告を発展させるためには、今後はこれらよりも優れた方法が数多く必要となるでしょう。そして、それは心理の構成に関するより深い知識を通じて得られるだろう。いわゆる「人間性研究家」は、成功した心理学者と呼ばれるようになり、成功した広告主も同様に心理的広告主と呼ばれるようになるだろう。習慣、自己、概念、識別、関連付け、記憶、想像力、知覚、理性、感情、本能、意志といった心理学的用語を耳にするだけで、広告スペースの高度な消費者すべてに訴えかける新しい思考が溢れ出すはずである。
この記事(1901年3月)が発表される以前には、ビジネス界で利用可能な形で心理学を提示しようとする試みは行なわれていませんでした

(“Psychology of Advertising in Theory and Practice”, P3)、太字は筆者

1901年3月より前の時点では、心理学をビジネスに応用しようという機運は高まっていなかった。しかし、上記「Publicity」という雑誌の記事をきっかけとして、心理学をビジネス現場に適用するようになっていったのだ。

W. Jamesの “The Principle of Psychology” の出版は1890年。ただ、Jamesの著書は、あまりにも高尚すぎて、活用法が思い浮かばない。それから10年の醸成期間を経て、ビジネス界の面々にも、その展開イメージが湧いてきたのではないだろうか。
当時の心理学界と、ビジネス界の状況を記録として残している点で、Scottも重要な役割を果たしてくれているといえる。

ちなみに、私の推論にすぎないが、1899年に出版されたJamesの、“Talk to Teachers on Psychology”が、高尚な心理学と、ビジネス現場の橋渡し役となったのではないかと考えている。Scottは、Bibliographyの「THE FOLLOWING IS A LIST OF THE BOOKS ON PSYCHOLOGY WHIVH ARE MOST HELPFUL TO BUSINESSMAN(ビジネスマンにとって最も役立つ心理学関連書籍の一覧)」で、50冊ほど紹介する中の1冊として、Jamesの同書を取り上げている(もちろん“Psychology”に紹介している)。


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