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書評 『伝統野菜の今』

以前に、友人に書いてもらった書評。「かんきょう新聞」に掲載予定だったもの。

グローバル化の時代に、なぜ伝統野菜か?

香坂玲・冨吉満之著『伝統野菜の今 ――地域の取り組み、地理的表示の保護と遺伝資源』清水弘文堂書房,2015年7月.[2000円+税]

評者:真木 薫
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 本書は、最近とみに注目を集めている「伝統野菜」の現在について書かれたものだ。
 だが、街のスーパーに行っても各地の伝統野菜を見かけることは滅多にない。京都市内に住む評者が普段目にするのは、「九条ねぎ」など京野菜のごく一部だけだ。
 本書の内容としては、京都府の「京野菜」、石川県の「加賀野菜」など具体的なトピックを取り上げると同時に、「グローバルな時代における伝統野菜などへの回帰」が何故生じたのかについても章をまたいで説明している。
 グローバル化の流れは、農業を含む全ての分野において「規格化」の動きを推し進めてきた。「規格化」とは、経済効率を過剰に追求するあまり、ヒトも、モノも、サービスも、あらゆるものが「他の何かと交換可能なもの」になってしまうことだ。
 農作物で言えば「どこで作っても同じ味がする」野菜、街並みなら「世界中のどこでもマクドナルドがあってハンバーガーが食べられる」風景だ。しかし、グローバル化・規格化が進行しすぎると、その国・その地域に特有の文化や伝統など、様々なものが喪われてしまう。
 伝統野菜に対して味や栄養面だけでなく「ストーリー性」が強く求められるのは、多くの人が無意識の内に「交換不可能なもの」を、つまり「アイデンティティ」や「絆」、「コミュニティ」を求めているからだろう。
「グローバルな時代における伝統野菜などへの回帰」は、実はグローバル化・規格化の流れと表裏一体の問題であり、決して無関係ではないのだ。
 本書は、一見すると農作物(伝統野菜)という「日本国内の、一部の業界の話」を扱っているように見える。しかし実はそれが「グローバル化という世界規模の大きな流れ」とリンクしていることを明らかにしている。ここも本書の大きな読みどころのひとつだ。
 余談だが、評者は著者(冨吉)の友人である。文中でも触れられているが、彼は大学時代は農業サークルに所属しており、大学卒業後も滋賀県の安曇川でそば作りに挑戦していた(※)。若い頃からとにかく現場に出て、人と交流することを強く好む男だった。
 そんな彼が伝統野菜を研究テーマに選んだことに、評者は偶然以上の何かを感じてしまう。伝統野菜を研究テーマに選んだのではなく、むしろ伝統野菜の方が彼を“引っ張り寄せた”のではないか。どうもそんな気がしてならないのだ。
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 ※かんきょう新聞 Vol.59-65(2009年~2010年)に、「体験主義の蕎麦プロジェクト報告」として活動内容が紹介されている。.


■著者プロフィール(出版時のもの)
 香坂 玲(こうさか・りょう)
東北大学大学院環境科学研究科教授。専門は森林経済学、環境マネジメント論。最近の主な著書に『森林カメラ』『生物多様性と私たち』『地域再生』『農林漁業の産地ブランド戦略』などがある。

 冨吉 満之(とみよし・みつゆき)
久留米大学経済学部准教授。専門は農業経済学、栽培植物起源学。関西、北陸、九州を中心に各地の伝統野菜の栽培状況について調査を実施。

■評者プロフィール
 真木 薫(まき・かおる)京都府在住。ライター。


この本、10年前になるのか!!うーん。熊本のファミレス(コメダ)で校正作業してたな。。。そして、香坂先生は金沢→東北→名古屋と異動され、気付けば東大におられる。
 というか、今度こそ、自分の本を書きます。単著。でも、そこで鼻息を荒くしても、結局は、今までに色々な方にお話を聴かせてもらったことを、書く、ということやんね。そう考えると、自分が書くのだけど、自分だけで書くということじゃない。

いや、そうじゃなくて、今日これをアップしたかったのは、ライター真木薫に書評の原稿を書いてもらっときながら、結局、陽の目を見ることがなかった、この文章を、世に送り出したかったのです。特に最後の段落に、とても元気をもらっているから。その世界観。おぉ、と感じたもの。ありがとう真木薫さん。

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