「排便ショック」の後遺症?
排便ショックという言葉、聞いた事がありますか?
排便ショックは、排便が多量にあった場合に起きる事が多い。便が排出された直後に失神してしまう状態のことで、数分で意識が戻ってくる。
当施設は入居者が100名ほどだが、平均すると月に1回は誰かが排便ショックを起こすくらい頻度が高い。
高齢者は便秘がちな人が多いので、下剤の内服も多い。下剤の効果で、排便が多量にあると起きがちなので、一度起こした人には排便コントロールが慎重に行われる。
ある日、90代男性がトイレでの排便後に突然失神した。血圧が低めだったが、数分で意識が回復しその後の経過は特に問題はなかった。排便ショックと思われた。
翌日、深夜2時に急に不穏状態となった。
「トイレに連れて行け!」
「お前がやれ!!」
認知症があり、歩行はできない方なのだが、立位は短時間なら可能なADL(日常生活動作)レベル。
トイレで排泄を済ませる一連の動作は1人ではできない。
スタッフは怒らせないように配慮しつつ、転倒しないように介助に入った。
車椅子から便座に移乗する際に「触るな!」と男性は言ったが、介助しなければ転倒するのは明らかで、スタッフは後ろ側から抱える姿勢になったという。
すると、男性はスタッフの腕に噛み付いた。
そのスタッフはキモが座っていて、噛まれたまま介助を続けたそうだが、その後も暴言は続きベッドに戻るまでに1時間かかった。
翌日の昼間には、セクハラが始まった。
女性スタッフに
「ここに来て!おま○ちゃんしよう!おま○ちゃん!」
必要以上に触って来るので、スタッフは身の危険を感じて男性をダイニングへ連れ出した。
「え?そっちでするの?」
しつこく続ける男性と距離をとり、離れて見守った。
以前はそのような発言はない人だったので、突然の事にみんな戸惑った。しかしその翌日まで、暴言暴力、セクハラ発言は続いた。
あまりに酷いので、往診で来ている精神科医に相談した。
医師は最近の記録を丁寧に読み、「これって排便ショックの後に急に起きてるよね。排便ショックの後遺症じゃないかな。脳が混乱しているのかも。」と見立てた。
精神科医からは、とりあえず夜は眠って生活のリズムを整えるべく軽い睡眠薬が処方された。
その後、精神科医の見立て通りに症状は落ち着いていき、2週間で元の状態に戻った。良かった...
恐るべし排便ショック。
排便コントロールは丁寧に、と心に刻みます。