見出し画像

群発頭痛について

どなたも身体や心の内面など、誰に言うこともなく抱えている悩みや痛みなどがあるかもしれません。

そのなかには、治療などで改善したり治せるものもあれば、完治は難しくうまく付き合っていくしかないものもあると思います。

ぼくも、子どもの頃から付き合ってきた持病があります。

それは「群発頭痛」(cluster headache)です。

「群発頭痛」とは聞いたことがない方も多いかもしれません。

偏頭痛などの一般的な痛みでもそれなりにきついものですし、その経験は多くの方があると思います。

しかし、「群発頭痛」の痛みは、偏頭痛などの一般的な頭痛の痛みとは比べものにならないものとなります。

その痛みは、心筋梗塞、尿路結石とあわせて、“世界三大激痛”と呼ばれているそうです。

こんな痛みが続くくらいなら死んだ方がマシだと思うため、別名は「自殺頭痛」と呼ばれています。

画像1

発作が起きると、眼球の裏を針の付いた太い針金が動き回りえぐられるような激痛が15分〜数時間と続きます。目は充血し、痛みと血管の拡張から涙がこぼれ、平衡感覚にも支障をきたし、おう吐します。

また、“群発”と名が付いている通り、一度発作が起きると、1〜2ヶ月ほど、毎日激痛が引き起こされる発作の群発期に入ります。1日に数回発作が起きることも珍しくありません。

発作の期間は、光や音や匂いなどのすべての刺激が、激痛を引き起こす要因となります。

そのため、昼間でもカーテンを閉じて、音もたてず、匂いもしない環境に身を置くことで、できる限り発作の要因を抑える必要があります。

と言っても仕事を休むわけにはいきませんので、一日中サングラスをして過ごすようにしています。また、できるだけ神経がたかぶったり血管が拡張しないように気を付けて過ごします。

それでも群発期には、毎日の発作は避けられません。

しかも、その原因は未だ解明されていないため、対策も難しく、群発期に入ると、発作の間は嵐が過ぎ去るのをただ待つしかありません。

画像2

この「群発頭痛」という持病に苦しむ人は1000人に1人とされ、日本で5万人〜40万人いるとされています。

痛みの直接的なメカニズムは、眼球の裏にある太い血管が拡張し、目の周りの神経などを圧迫することだとされていますが、そうなる根本的な原因ははっきりせず、いくつかの要因があるとされています。

単純に血管の拡張と書きましたが、拡張の前に血管の収縮があった場合に、一度縮んだ血管に拡張によりいっきに多くの血流が流れ込み、それが神経を圧迫する激痛に繋がるという話も読んだことがあります。

ですので、極度の緊張のあとの緩和や、急激な寒さのあとに暖まったときにも、群発期が引き起こされやすい傾向にあると思われます。

群発期の引き金は他にも、飲酒、喫煙、身体の疲労、精神のストレス、などあらゆる原因が挙げられていますが、それを軽減したら必ず発作が起きないということではありません。

自分は喉のために喫煙はもちろん、飲酒もほとんどやらなくなりましたが、群発期を避けるためというもう一つの理由もありました。

身体の疲労や精神のストレスは仕事をする以上ゼロにはできませんし、それどころか誰よりも多く、長く働き続けなければアーティスト業を成り立たせることはほぼ不可能です。

ですので、動けるときは無理をしてでも人の何倍も動き続けるというスタンスでやってきました。

群発期が来てしまうと、仕事は休まないとは言え多少は無理ができないペースになってしまうため、とにかく常に一日一日を最後の覚悟で限界まで悔いのない仕事量と仕事の内容を課してきました。

その結果、振り返るとこれまで多くの仕事をハイペースでやってこれたのだと思います。

平穏な人生がはなから無理なら、安定して長生きするために“守り”に入るより、“攻め”続ける人生を選ぶことにしました。“攻め”続けて得たことで世の中に還元していく人生なら、きっと良い人生に出来ると思ったからです。

そう思うと、この悩ましい持病も、自分が生きられる有限の人生の中で、最大限に生きて作品を残しライブを届けていくという一番の夢を叶える“相棒”とも思えます。

「いつでもできるからいつかやればいいや」と思えず、「やれるときにやれるだけやる」「やりたいことを目一杯やる」と常に思って道を選択してこれたのは、ある意味では、いつもナイフを突きつけられ、時限爆弾が埋め込まれたような体質が、人生は無限ではなく有限であることを忘れさせないでいてくれたお陰だと言えます。

このことは忘れがちですが、皆に平等で、普遍的で本質的な大切なことだと思います。

誰しも必ずいつかは死んでしまう。そしてそれがいつかは分からない。今日かも明日かもしれない。でも日常ではそれを忘れてしまいます。

いつかはやってくる死を身近に意識させてくれる“痛み”は、悪いことばかりではなかったのかもしれません。

画像3

幼少期に体験した心臓の病である「川崎病」は、助かった命をどう使って世の中に恩返ししていくかを幼稚園の段階で考えさせてくれました。

それも完治してしまうと、つい日常のなかで惰性に生きてしまうこともあります。

いつ来るか分からない「群発頭痛」は、再び日常の有難さや、いつ来るか分からない痛みや死を意識して一日一日の意味を思い出させてくれます。

とは言え、「群発頭痛」で死ぬことは基本的にはありません。

泣き叫びのたうち回る発作を見た人は、死んでしまうと心配になると思いますが、嵐はやがて過ぎ去ります。

また、効果のある薬もあります。

「イミグラン」です。

画像8

拡張した血管を収縮させ、炎症を抑える薬を、鼻から直接噴射します。

この薬を使ってからしばらく休めば発作は緩やかに治り、次の発作が起きるまでは活動を再開できます。

この薬が実用できるようになったのは自分が成人してからで、それも最初は保険適用外だったと記憶しています。

一日に2回までしか使えず、3時間ほど間を空けなくてはなりません。

この薬と出会ってからは、お守りのように持ち歩いていました。

また、専門の外来などでは薬の使用と併せて高濃度の酸素吸入を施し痛みが緩和することもある。

「群発頭痛」という病名や、イミグランを知ったのは、大学生の頃に大学の病院ででした。

主治医が、頭痛を研究している先生で、その痛みは「群発頭痛」ではないかと教えてくれたのです。

子どもの頃から20年以上も悩んできた痛みの名前が分かっただけでも、とても救われる思いでした。

「ただの頭痛で大袈裟な」「また頭痛?」

激痛を誰にも理解されずに、頻繁に起こる発作のなか、その痛みとともに孤独も抱えていたからです。

友達と遊んでいても、勉強をしていても、家族で旅行をしていてもその痛みは突然やってきます。

部活や受験やサークル、これまでの音楽活動も、常に発作と隣り合わせの中で向き合ってきました。

ですが、やればできるものですし、やり方によってはきっと逆境をチャンスに変えて、通常より大きな成果を上げられると思って取り組みました。

また、自身の経験を活かし、自分にとって知らないことや理解できないことでも、相手が何かに苦しんだり悩んだりしているときは、相手の立場になり最大限に想像して慮り、寄り添うように心掛けて生きてきました。

社会の中や暮らしの中で光が当たらない状況にある人や場所に光を当て、その声に耳を傾けて、またその人が自分らしく生きられるようにという役目に喜びを感じるのは、自分がそのような暗闇を経験してきたからかもしれません。

哲学者のニーチェも群発頭痛に苦しんだことが知られており、ニーチェの思想「 Amor fati 」(運命愛)もその経験によるものだとも言われているそうです。

結果として、文学者や思想家に多い持病であることからも、自分には必要な経験だと改めて思うところがあります。

自分の力ではどうにもできない苦痛に際したとき、運命というものを考えずにはいられませんし、必然的に人生の意味と向き合い、それを表現する役目を見出すことは想像に難くありません。

画像8

さて、病気の名前を知ったことで、調べてみると、珍しいながらも同じ痛みに苦しんでいるひとは世界中にいることが分かり、それは少しだけ勇気にもつながりました。

先に書いたように原因は解明されていないとは言え、自分のケースでは、ココアやワイン、葡萄ジュース、オリーブオイル、チョコレートなどを多く摂取したあとなどに群発期が来ているようにも感じました。

血管を拡張させるポリフェノールなどもやはり一因のように思い、摂取量を気を付けるなど生活習慣などを改善するようにしました。

飛行機や新幹線などによる移動が短期間に続くと、気圧の変動により、やはり群発期が引き起こされることがあるため、なるべく気圧の変動が激しい窓際ではなく中心部の座席に座ることも大切です。

そこに身体的や精神的な疲れやストレスなど、あらゆる要因が絡み合っているため、原因は特定されませんが、できることは少しでもその原因を減らすことでしかありません。

また、群発頭痛に関する研究で世界を代表される東京女子医科大学・脳神経外科の清水俊彦客員教授によると、帯状疱疹ワクチンにより群発頭痛を抑えられるという研究結果も報告されるなど、明るい光も見えてきています。

全国から頭痛に苦しむ方々が清水先生を頼り、毎日数百人の患者さんの治療にご尽力されています。

画像5

幼少期は毎日のように発作が起きていましたが、大人になるにつれ、群発期は数年に一度になっています。

今年は4年ぶりに群発期を経験しており、薬を使いながら嵐が過ぎ去るのを待っています。

何かに集中しているときは痛みが起きにくいのか、仕事中などはなんとか影響なくやれています。

夜中や明け方に発作が起きることが多いですが、うまく付き合っていきたいと思います。

振り返ると、大人になってからの数年に一度の発作は、その後に人生が新たに大きく拓けるときに起きていたように感じます。

偶然かも知れませんが、プロデビュー前や、拠点を大きく移して独立する前、メジャーデビュー前などの年に群発期が来ていました。

そして今年ですから、来年はコロナも終わり、また新たなスタートとなるようにも感じています。

画像7

今回、このようにカミングアウトしたことは、決して同情を誘いたいなどという理由ではありません。

川崎病のことを書いたときも、実際にいま我が子がその病気と闘っている親御さんから、勇気をもらったという声をいただきました。

今、元気に、夢だった歌手として生きている姿は、同じ病に向き合う人に、大丈夫だというメッセージを届けられるかもしれないと思い、隠す必要はないと思いました。

この特殊な頭痛も、少ないながら、苦しんでいる人が世界中にいます。

どんなに元気に見えても、人の身体や心は外からは見えにくいものです。

もしも、身近に頭痛などの痛みに苦しんでいる人がいたら、それは想像以上の痛みかもしれません。

ただの頭痛と思わずに、寄り添ってあげてください。

握ってあげる手の温もり、かけてあげる優しい言葉、それはどんな薬にも勝る“安心”となります。

“安心”は“勇気”を生み、本来のちからが引き出され、どんな苦しみもきっと乗り越えられます。

画像9

もちろん頭痛に限らず、すべての痛みや病、悩みにおいてです。

そして、「群発頭痛」はもちろんのこと、他者と共有することが難しい痛みや病、悩みと向き合っているすべての皆さん、共にがんばりましょう。

もう既にがんばってきたと思いますし、これ以上は何をがんばればいいか分からない状況かもしれません。

できることは、希望を捨てず、前向きに、もう一度生きてみることだけかもしれませんし、まずはそれだけで、そこからでいいと思います。

やがて暗闇にも光が射します。

闇は闇だけでは存在できず、闇あれば必ず光があるからです。

画像10

あなたは一人ではありません。必ず乗り越えられます。

ぼくもこれからも、他者の心に寄り添い、有限の人生を思い出させてくれる痛みに感謝して、大好きな音楽を通して意味あるメッセージを届け、存分に生き切りたいと思います。

画像6


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
明日もあなたに良いことがありますように♪
















よろしければサポートをお願いします! コロナによりライブ中心の音楽活動は難しくなりました。 しかし変革のチャンスにして、レコーディング、撮影、配信機材を整えています。いただいたサポートを更なる向上と持続に活かし、ますます有意義であなたにお楽しみいただけるnote発信を続けます。