大和撫でし子
大和撫でし子
ソファーの縁が
すり切れている
ダイとリュウが
はずみをつけて飛んでいる
ソファートランポリンだ
喚声がうず巻いている
掛時計の針が息をひそめ
午後零時をさすのをこばんでいる
テレビの上の大和撫でし子が
葉を剝いている
オッ ヤロ! ヤロ!
フミオくんとユックンが飛びこんでくる
四つのソファーで八本の足が
ポンポン跳ねている
家中が濁流に飲まれているみたいだ
空気がひっくり返っている
わたしはテーブルに腰かけてクミにミルクをやっている
まんまるの眼をむいてクミはミルクを飲んでいる
日本社会党の宣伝カーが走っている
工事中の道路の土が
掘りおこされてはダンプカーに積まれている
こんにちは赤ちゃんのレコードを鳴らして
牛乳屋がとまっている
八号棟のベランダ群に
ビッシリ洗濯物が干されてある
九十世帯の干しものが一度に視界を占拠する
乳首の先が痛んでくる
髪がじわじわと逆立ってくる
クミがミルクを飲み終えるまでだ
四人のチビはドンドンバンバン
アヒルの大合唱だ
クミが少し残った哺乳瓶を手で払いのけた
クミを腕にしっかり抱いて立ち上がる
コラー! ヤメロッ!
時計の針がピッタリ正午を指し
葉っぱも
ダイもリュウもユックンもフミオくんも
宣伝カーも
ダンプカーも
牛乳屋も 瞬間
ふっとんだ
わたしの怒声が
ズドンとソファーに命中している
詩集「生える」より (26)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?