「膝小僧」
「膝小僧」
午前三時
一歳三ヶ月の
リュウの熱が三十九度を下がらない
下痢は糸を引いて続いている
濃緑色の重湯のようだ
口をあけ苦痛を吐いて眠っている
昨夕病院へ連れて行けば
ここまでひどくならなかったろう
頭の下に手を入れて水枕をさわってみる
先刻かえたばかりなのにもうあつい
台所に立って冷凍室から氷を取り出す
これで四回目だ
急に眠気の底から怒りが噴きあがる
製氷皿の氷をガチガチ音たててはずす
わたしもバラバラに解体されたい
ぐっしょり疲れきっている
足元で熱気がふれる
はっと見るとリュウがヨタヨタしながら覗きこんでいる
八十センチ足らずの身長で
わたしの膝小僧をしっかりつかんだ
火のようなものが全身をつらぬく
かっと見開いたリュウの悲鳴
とどまることなく
膝小僧をうつ
ー膝小僧ー 「生える」沢田登美子詩集より