石の壁と小鳥
ここはかつて石材のスレートの採掘が盛んだったところで、スレートを積み上げた壁や柵が村の風景の特徴だ。ある朝、パートナーと散歩に出かけたら、 小鳥が細い茎のように柔らかそうな片足を、重くて硬いスレートのわずかなすき間に突っ込んでバタバタしている様子に出くわした。 足が挟まって壁にぶら下がっている!しばらくばたついて、疲れて逆さにだらんとぶら下がり、再びばたばたもがく。私達は石を動かそうとしたけれど、ビクともしない。小鳥は怖がってじたばたする。
家に戻って何か道具を持ってこようとしたとき、背後からカフェの店長が自転車でやってきた。「店にある自転車用のツールで石を動かせそう」と言う。手渡されたのは鉄の棒。彼の奥さんは昨日からお客さんたちからその小鳥の話は聞いていたそう。小鳥、よく一晩我慢したなあ。
ふと「127時間」という実話を基にした映画があったことを思い出した。ロッククライミング中に岩に腕を挟まれて身動きできなくなった登山家が、最後は自分で腕を切り離して生還する。小鳥にとっては、このスレートの壁は人にとってのキャニオンのように、脅威なんだと知る。
私たちが鉄の棒を石と石の間に差し込んで少し動かしたら、1ミリほど石がずれて、その瞬間小鳥は飛んでいった。石が間違った方向に動いたら小鳥の脚は登山家の腕のようにもぎ取られるかも、と思い息を飲んだ瞬間。ほっとした!小鳥はデリケートなようでいて、結構タフだ。2羽のオスが山道で、激しく取っ組み合いしている様子を見たこともある。とにかく強くないと生きていけない。
それ以来同じ道を散歩するときは、壁の隙間を注意してみるようにしている。