ミスト 第一話「失」
俺はあの時、
これから起こる悲劇を想像していなかった。
「カイル兄ちゃん、こっちこっち!」
「どうしたメルト、何か見つかったのか?」
メルトが指した先には、
巨大な獣の角が落ちていた。
「うわ、すげえ!
これ親父が欲しがってた魔獣の角だぞ!」
「よかったぁ、お父さん喜ぶね!
持って帰ろうか!」
そう言うと、メルトは自分の身長の何倍もある
魔獣の角を持ち上げた。
「おい、こんなデカいの1人で大丈夫か?」
心配そうな表情でカイルが言った。
「大丈夫、大丈夫、
私お母さん譲りで力持ちだから!」
そう言いながら角で目の前が隠れているのも
お構いなしに、メルトは走り出した。
「相変わらずのパワーだな…」
カイルがそう呟いた瞬間、
ドゴオオオオオンと隕石でも落ちたかのような
大きい音がした。
「メルト!大丈夫か!」
メルトが走って行った先に、
大声で呼びかけるも返事がない。
不吉な予感がしたカイルはすぐさま
メルトが向かった先に走った。
「これは‥」
そこには大穴があった。
カイルは、
父親に言われたことを思い出した。
「いいか、カイルにメルト
森にはな大穴がいくつかあるんだ
そこは霧の外に繋がってて怪物共が
うようよしてやがる
まぁ大穴に落ちただけじゃしなねえ
なぜなら、穴の先には蜘蛛の巣があって
それがクッションになる。
けどな、普通の人間じゃ、あの蜘蛛の糸からは
逃れられねえ、
そうなったら最後後は怪物が来て食われるのを
待つだけだ。
だから、素材集めに行く時は気をつけて
行くんだぞ。」
以前、父親の仕事の手伝いを初めて頼まれた
時にこう言われたのだ。
「これ、親父が言ってた穴だ!
メルトが危ない!助けないと!
そう思ったのと同時にカイルは大穴に
身を投げた。
大穴の暗闇の中を
カイルの体が勢いよく落下している。
そして10秒ほど経った頃、落下の勢いが消えた。
「ふぅ、下に着いたみたいだな」
どうやら死なずに大穴の下まで来れたようだ。
カイルが辺りに目をやると、
そこには大穴の大きさ以上の範囲に
蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
「すげえ蜘蛛の巣だ
そんなことよりメルトを探さないと!」
メルトを探すためカイルは起こそうとしたが、
カイルの体は蜘蛛の糸にぴったりくっついており
一切身動きが取れなかった。
「くそっ、なんだこの糸!
張り付いてくるぞ」
カイルがジタバタするほどに蜘蛛の糸は
より強力にカイルの体に張り付いた。
それでも諦めずにカイルは動こうとするが、
抜け出すことに必死になっていたカイルの目の前に巨大な蜘蛛が立っていた。
「なんだコイツは!?」
「ケヘヘ、美味そうな人間ハッケーン!」
蜘蛛はそういうと右手の大きな鎌をカイルの首元に突き立てた。
身動きも取れず、
目の前には動けても倒せそうにない巨大蜘蛛。
カイルはそんな絶望的な状況に死を覚悟した。
「妹、助けようと穴に飛び込んで
穴の下で蜘蛛の糸に張り付かれ
身動き取れなくて蜘蛛の餌。
俺の最後バカみてえだな」
カイルはそう呟きながら少し笑いながら静かに目を閉じた。
「イタダキマース!」
「¨紫電¨」
蜘蛛が鎌を振り上げた瞬間、
蜘蛛の体が雷に斬られたように
真っ二つになった。
「ふう、間一髪だったね。
君、大丈夫かい?」
蜘蛛を真っ二つに切り捨てた男がカイルに
声を掛けた。
しかし、カイルは微笑んだまま動かない。
「ありゃ、返事しないなあ
死んだ?
マリン、これどうしたらいいと思う?」
困った男が仲間の女に問いかけた。
すると女はカイルの胸に手を当てた。
「どうやらショックで一時的に心臓が止まってる みたいですわ。それにしても殺されそうな瞬間に笑うなんて気色が悪いですわね」
マリンがそういうと、
「よかった生きてたか、じゃあ心臓を動かしてあげようか。」
と言って男はカイルの心臓に手を当て、
「¨軽雷¨!!」
そう叫ぶと、男は手の先から電気を出し、
カイルの胸に当て続けた。
すると、数秒後
カイルの心臓が動き始めた。
「これで目覚めると思うんだけど‥」
第一話 完
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