私的偏愛録 其の二十 田中泯
田中泯を知ったのは、映画『メゾン・ド・ヒミコ』がきっかけだった。
オダギリジョー、西島秀俊目的で観た映画だったが、強く印象に残ったのは、田中泯の所作、立ち振る舞いの美しさだった。
あれから十数年。わたしは新潟の十日町にいて、雪上で踊り舞う田中泯を観ていた。
なめからに、そして力強く雪上を駆けめぐる泯さんに皆が釘付けであった。(わたしには雪玉を抱えた泯さんが光ってみえる瞬間があった。眼科行かなきゃ)
ふと、われわれ観客に向かって語りかける泯さん。「寒いでしょう。ねぇ。一緒に踊りませんか」
さっきまで近寄ることすら憚られるほどの踊りをしていたとは思えないくらい、気さくに話しかけてくださる泯さん。その笑顔と声をきっかけに、観客たちは今まで泯さんが踊りを作り上げていた雪上にいくつもの輪をつくり、皆思い思いに踊り駆け回った。
大地の芸術祭「雪の良寛」に参加して改めて分かったことは、田中泯の踊りの美しさと、刹那的に消えてしまう「えん」の温かさだった。