漬けもの屋がおすすめする、飲む点滴こと、甘酒の話。
毎年暑い夏の疲れ、これからやってくる寒い冬、そして季節の変わり目と体調に気を付けたい時にたびたび話題となるのが「飲む点滴」と言われる「甘酒」です。
漬けもの屋がなぜ甘酒? と思われるかもしれませんが、同じ発酵のお仲間ですし、実は甘酒の原料も取り扱っているですよ……ということで、今回は甘酒についてお話ししたいと思います。
「酒粕(さけかす)」が主原料になる酒粕甘酒
そもそも甘酒は主に「酒粕甘酒」と「麹甘酒」の2種類にわけられます。それぞれで製法が大きく異なり、その違いが味や風味として出ています。
代表的なのが酒粕から作られる「酒粕甘酒」でしょう。酒粕は、米・水・麹から作られるのですが、ここまで聞いてあれ?と思われる方もおられるのでは。
そうです、これらは日本酒をつくる原料。ここにさらに「酵母」を加えることで日本酒になります。酒造りの工程で分解された糖をもとに、酵母が糖をアルコールへと変えていき、もろみが生まれます。このもろみを絞ったものが日本酒。その搾りかすが酒粕になります。
この搾りかすの酒粕には、一度工程で出来たはずの糖はすでに酵母のえさとなってアルコールとして消えてしまっているので、甘味が残っていません。なので、酒粕から甘酒を作る時にはお砂糖を入れて作ります。熱が加わっているので、アルコールは飛んでいるけれどもアルコール(日本酒)の香りがするのは、こうした工程を経て作られたものなのでアルコールの香りが残っているからなんですね。
うちでも酒粕は扱っているのですが、これからの時期、どんどん板粕(板状にのばしたもの)やバラ粕のご注文が増えてくる時期です。
大人となった今となっては、甘酒を飲むだけでなく、この板粕独特の風味にもひかれます。子どもの頃に親も食べていたのですが、板粕をストーブであぶって、お砂糖をかけて食べる美味しさ。他にはない独特の味です。
ちなみに酒粕甘酒は粕を溶かすだけでできるので、神社やお祭りなど多くの人に飲んでもらって体を温めるにはもってこいのお手軽さが魅力です。
私も小さい頃、神社などでふるまわれる酒粕甘酒を飲んで、ふわっとかおるアルコールの香りで大人の飲み物だとドキドキしたことがあります。実際には加熱させるのでアルコールの度数で言うと1パーセント未満なのですが。
砂糖を使用しない麹甘酒のこと
もう一つの甘酒は、「米麹」を原料とした甘酒です。こちらは砂糖を使用していないのに優しい甘味がして、初めて飲んだ時は衝撃的でした。
砂糖が入っていないのに、どうしてこんなに甘いのかというと、「発酵」が関係してきます。
麹の甘酒の原料は、米、麹、水だけです。これらの原料が発酵の過程で麹の消化酵素によって、米のでんぷん質が分解されてブドウ糖に変えられ、甘く変わっていくのです。それが甘酒のドロッとした正体です。
甘酒の甘味のもととなるブドウ糖を作るのに必要な消化酵素が、「アミラーゼ」と言われる酵素。このアミラーゼが米や麹のでんぷんをブドウ糖に分解します。分解というのは、アミラーゼがはさみの役割となって、くさりのようにつながっているでんぷんをチョキチョキと切っていき、小さくなったものが糖となります。糖=甘酒の甘さを作ってくれるのです。
「飲む点滴」と呼ばれる甘酒の力
甘酒の製造過程で、お米のでんぷん質はブドウ糖に変えられます。つまりすでに消化されてぶどう糖になっているので、とっても吸収が早いんですね。吸収が早いので、朝飲むとすぐに脳へブドウ糖が運ばれて、エネルギーとなることで朝からパワーが出る。甘酒が「飲む点滴」と言われる所以はここにあるかと思います。
しかも甘酒には、体内で合成できない9種類の必須アミノ酸がすべて含まれているというのです。疲労回復や免疫力アップ、ストレスの軽減まで多岐にわたっていい影響があるとか。しかも添加物も砂糖もないなんて! 甘酒、スゴイ!!
甘酒の歴史はとっても古い
神社などで振る舞われることもあって、いかにも深い歴史がありそうな甘酒ですが、その想像通りにルーツは古く、奈良時代の『日本書紀』に、288年頃、古代の先住民が応神天皇に「醴酒」(こさけ)を捧げたとの記述があるそうです。醴酒とは米や麹などでつくったお酒で、まさに麹甘酒の原点とも言えるもの。
室町時代になると甘酒の行商も現れるようになったという文献もあり、さらに江戸時代には庶民の間に麹甘酒が浸透したそうです。この頃にはすでに製法が確立されていたようで、甘酒づくりを内職にする武士も少なくなかったとか。当時から甘酒はお饅頭やお漬物にも使われていたのですよ。
今でこそ冬に飲むイメージが強い甘酒ですが、江戸の庶民には通年飲まれていたとのこと。それがよく分かるのは、俳句です。
なんと甘酒の季語は、、、夏。
特に夏場の必需品で、夏バテ予防や疲労回復のための栄養ドリンクとして重宝されたのですね。その甘酒の絶大なる効果を認めた幕府が、甘酒の上限価格を設定までしたとか。ちなみに今の値段で大体160円~240円くらいだったようです。手ごろな価格で飲めて体にいい、お薬代わりの甘酒の存在感たるやです。
ご自宅でも自家製甘酒を
最近は甘酒も人気になってきて、家で作られる方も多いのではないでしょうか。とまりのつけものでも、炊飯器で作る簡単な甘酒の作り方をご紹介しています。
漬けもの屋としておすすめの、とにかく簡単な甘酒の作り方。混ぜて、あとはほっておくだけの簡単レシピです。
今年の夏、長かったですよね。この疲れを労るためにも、甘酒でもゆっくり飲みながら、秋の夜長を過ごしてみるのはいかがでしょうか。