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[空想]シン仮想美術館とネオ・キュレーター 2/4

新人「今どき、そんなのはあり得ないっスよ。今多くの若者が夢中になっているゲーム知らないんスか? 『フォートナイト』とか。世界で3億人以上がプレーしてるんスよ。特殊な話をしてるんじゃいっス!
 実写以上の迫真の映像がめまぐるしく展開するんですから。今から作るなら、絶対、そっちっス!」

部長「そんな予算があると思うか?」

新人「あのね、部長。今時は市販のソフトで制作するんで、十年前のゲームのクオリティなら、若い奴らでも十分作れます。空飛ぶスクーターでギュンギュン飛び回るくらいのことは、簡単っス」

部長「美術館の中を飛び回るのか?」

新人「たとえばの話スよ」

部長「うむ。しかし、それもおもしろいかもしれんな。仮想現実なんだから、人間とスクーターのサイズを小さくすればいいわけだ。30分の1くらいに縮小すれば、館内をギュンギュン飛び回れるな」

新人「…………」

部長「ストリート・ビューみたいな感じで、美術館の中をチマチマ進んで、見たい絵があったらクリックして全画面表示にするとか、解説見たければ、またクリックして表示させるとか、そういうのは正直、どうかとは思ってたんだ」

新人「空飛ぶスクーターで、モナリザとか観るんスか?」

部長「モナリザの目が動くという話を知ってるか?」

新人「怪談っスか?」

部長「違う。どこから観ても、モナリザから視られている気がする、という話だ。絵の中の目玉が動くという話じゃない」

新人「それが何か?」

部長「空飛ぶスクーターなら、右に飛んだり左に飛んだり、急上昇したり急降下したり、瞬時に出来るじゃないか」

新人「出来ますね。急旋回や宙返りだって出来ますよ」

部長「ほんとうにモナリザの視線が追っかけてくるのか、確かめるのにうってつけじゃないか。リアルでは絶対に出来ないことだしな」

新人「空飛ぶスクーターで作品を見て回るんスか……」

部長「仮想現実らしいじゃないか?」

新人「立体作品なんかは確かにおもしろそうスね。股の間をくぐったり、上空から見下ろしたり……」

部長「穴があったら、入ることもできるしな」

新人「やっぱり、部長って、そういう人生だったんスね……」

部長「…………」

新人「解説はどうするんです? そっちのニーズもあるでしょ。解説を読みたくなったら、クリックすれば表示されるようにするんですか?」

部長「どう思う?」

新人「そんなことしたら、ホームページ観てる感覚に戻ってしまいますよ」

部長「そうだな」

新人「空飛ぶスクーターに、人工知能のナビが搭載されていて、ソイツがなんでも教えてくれるっていうのは、どうっス?」

部長「なるほど。それなら、臨場感が途切れないな」

新人「画面自体を、空飛ぶ乗り物のコックピットにすりゃあ、操作性もいいっスよ。敵が出てきても、撃ち落とせますしね!」

部長「キミたちは、クルマ運転してるときでもそんなこと考えてるのか?」

新人「いつもじゃないっスけどね。そう思うと愉しいじゃないスか? それに、クルマのデザイン、絶対、そういうイメージで作ってるだろ! てのもありますよ。
 クルマはクルマ、ゲームはゲームじゃなくて、その時代、時代で共有してるイメージがあるんっスよ」

部長「よし、そのイメージで行こうじゃないか。場合によっては、敵が出てきて、撃ち落とすようにしてもいいぞ」

新人「マジっスか!」

部長「それは同意しているのか、反対してるのかどっちなんだ?」

新人「反対なら、『マジっスか……』 です」

部長「キミたちが雑なのか繊細なのか、私にはわからん」

新人「ビミョーなんですって。オレたちは」

部長「そのビミョーなキミたちに、私が合わせなければいけなのか?」

新人「それはハードル高そうっスね。わかりました。オレのほうが部長に歩み寄ります」

部長「そうしてくれたまえ。キミが来てから、酒を飲まないと眠れなくなってるんだ」

新人「…………」

部長「まあいい。フェルメールは知ってるか?」

新人「一応……」

部長「窓際の光景が多いが、何んでだろう?」

新人「オレが知ってるわけないじゃないスか!」

部長「キミに訊いてるんじゃない。空飛ぶスクーターのナビに質問しているんだ」

新人「そりゃあ、あらかじめ答えをインプットしておけば、答えられますけど、そういう話じゃないんスね。
 あ、そうだ。なんでも答えてくれる超絶便利な人工知能があったな、確かGPT-3……」

部長「自分で考えて答えを出す人工知能か?」

新人「いえ、質問の答えをネット上から集めて解答してくれるっス。そういうのを実装すれば、あらかじめ答えを用意しておかなくても、ネットにさえつながってれば、どんな質問でも答えてくれますね」

部長「なんだか、調子が出てきたな。そういうのは、まだどこの美術館のホームページでもやってないだろ?」

新人「やろうと思えば、いつでも出来ますけどね。GPT-3自体は、確かオープン・ソースですから」

部長「なんだ、その『オープン・ソース』というのは?」

新人「有志がボランティアで開発して、出来上がったものを無償で公開する仕組みです」

部長「そんなことして、どんなメリットがあるんだ?」

新人「命令されないで自分たちのやりたいもの作れると云うこと、つまり、やりがいですね。あと、テストをみんなでやってくれるとか、アフターサービスしなくていいことも、大きいでしょうね」

部長「ふーん。よくわからんが、我々もタダで使えるが、競合相手も同じだというわけか。それはちょっと残念だな」

新人「というか、思ったんスけど、エンターテイメント路線でやるなら、ストーリー作ったほうがいいんじゃないっスか?
 でないと、客の自由にさせたら、はじめは愉しいでしょうけど、すぐに飽きますよ」

部長「どういうことだ?」

新人「十分間、ゴーカート運転するのと、ジェットコースターに三分間乗るとのでは、どっちが愉しめます?」

部長「なるほど、そういうことか。いろんなコースがあってもいいが、おまかせコースは必要だな。半時間程度で、しっかり堪能してもらえるような……」

新人「そうなると、ロールプレイですね。あらかじめ用意されたストーリーに沿って、ゲームをする感じっス」

部長「たとえば?」

新人「その、フェルメールの絵を観ていると、パッと窓が開いて、空飛ぶスクーターがそこに吸い込まれる……」

部長「窓の向こうは、十七世紀のデルフトか!」

新人「そうなんスか? オレは知りませんけど、当時の町です」

部長「ということは、その瞬間から、空飛ぶスクーターは、タイムマシーンになってるわけだな!」

新人「そうっスね。単に、当時の風景を一枚見せるより、そっちのほうがおもしろくないっスか?」

部長「つづけてくれ」

新人「そうなると目指すは、フェルメールの工房…… いや、それよりも真珠の耳飾りをつけた女性を追っかけるほうがいいっスね。上空から、青いターバンを巻いた少女が見えるわけっス。もちろん、その彼女の後を追います。彼女の正体は何者なのか!」

部長「何者なんだ?」

新人「それは、ライターの考えることでしょ!」

部長「なんだ、思いつきで喋っただけか……」

新人「今はそういう時間でしょ? ブレーンストーミングやってるんじゃないんスか!」

部長「そうカリカリするな。キミには、期待してるんだ。もう少し、そのロールプレイというのを説明してくれ」

新人「ストーリーは一本の単線じゃなくて、何カ所か分岐点があります。プレーヤーはそこで選択を迫られ、そこで次の展開が決まります。が、どの選択をしようと決められた時間内で、山あり谷あり、ちゃんとラストも迎えることになります」

部長「それなら、ホームページでは無理そうだな」

新人「ストーリー・ゲームということなら、やれるんですけどね。ただ、テキスト・ベースになるんで、仮想現実に比べれば地味になりますね」

部長「そうなると、スクーターに搭載されるナビがかなり重要なものになりそうだな」

つづく


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