[暮らしっ句]春近し2[俳句鑑賞]
「春近し1」は、昨年の記事。早いものでもう一年~
徴(しるし)編
玄関に縄跳びの縄 春近し 皆川盤水
昨年も取り上げましたが、視点が変わったので。
同居しているお孫さんのものと思われましたが、この季語に限らず、同居しているお孫さんの行動を詠んだ句は結構、あります。年寄りにとっては未知のことや意外なことが多い。しかしながら、おそらく会話はあまりない。その分、観察が鋭くなるわけですね。これはなんじゃ? と。そんなことが呆け予防にも役立ってたのかも~
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竹垣の縄のゆるびや 春近し 小池とみを
こちらも「縄」。独居者の場合は身近なモノを家族や友と思って暮らすのがコツのようです。竹馬の友ならぬ「竹垣の友」!
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春近し 昨日の日和 今日の雨 松崎零衣
春近し 気圧の谷のせめぎあひ 池野凉子
まさに今の天候。雨が多くてうっとおしいなあとか、急に空模様が変わるから大変とか、ついそんなふうに思いがちですが、春の兆しと受け止めれば、いわばクリスマス前の気分。
イライラしてたら嫌なことばかりが目についてくるといいますが、そうならないためには、おもしろい発見が大事。そこからさらに楽しい展開をイメージ出来ればしめたもの。
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自転車に電話番号 春近し 山田暢子
これ若い方には意味不明でしょう。昭和の時代、近所の自転車屋さんで買うとペンキで住所氏名、電話番号まで書いてくれたのです。プライバシーの感覚が今とは全然、違いました。
どういうシチュエーションでその連絡先が役に立つのか?
そうですねえ…… 出来心で自転車盗んだ人が、自分の物にせずに、用が済んだら乗り捨てていく。それを見かけた人が持ち主に連絡してくれる……そういう世の中だったんじゃないですか。今の言葉でいうと「シェア」です。ゆるやか~に。
謝って済むならケイサツ要らん! とも云いますが、「きっと急いでたのね。ゆるしてあげるわ」という人が多かった社会が確かに実在した。
そういえば、被災地に監視カメラ1000台設置するんだそうです。あ、うちの近所の野菜の無人販売所にも監視カメラが設置されてました。「シェア」だって有料サービスになる時代……。
それはともかく、自転車に書かれていた連絡先の光景を思い出しただけで、うれしくなりました。春が来るからうれしくなるのか、うれしくなるから春が来るのか、さてどっち?
と、こんなことをいうとまたトンデモ野郎と云われそうですが、次の句をご覧下さい。
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春近しとは信じられずに臥しにけり 能村登四郎
病んだ方へのバッシングと受け取られかねませんが、臥しているから春が感じられない。ますます気持ちが滅入ってくる。もしそんなことになっていれば、悪循環。
うちも介護中ですが、かなり強引に散歩に連れ出します。それが今のところ功を奏しているので経験談です。出かける前にグズっても、外から帰ってくると絶対、上機嫌になりますから。
独居で衰弱してくると自分の気持ちだけでは外出もままならなくなりますが、せめて庭先でもとか。鉢植えで育てるとか。ともかく出来ることを少しでもやるのが大事。……と、自分自身にも云い聞かせています。たぶんあっというまに自分も老後……
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ポスターの画鋲四色 春近し 大霜朔朗
それがどうした?という人もいるでしょう。そもそも気づかない人が多いかも知れません。でもね、ある種の人々は、そうやってひそかに連絡を取り合ってるんです。
「ねえ、楽しくやってる? くじけちゃダメよ。どんな小さなことでも気分を上げることしときなさい。そのうちいいことあるから~」
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さらさらの赤子のお尻 春近し 羽賀恭子
「春が近くなると赤ちゃんのお尻がさらさらになるの?」
もし子どもにそう質問されたら、それだけで幸せの花びらが舞い込んできたようなもの。そういうのが心を豊かにしてくれる。買わなくても気づけばもれなく貰えるシアワセ「ポイント」~
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春近し 猫の足跡 梅紋様 岩永充三
「うまいこと云ったわね」
「何をいうか。見たままを詠んだんだ。本当に梅模様の足跡だったんだ」
「そうね。アナタがそんな気の利いたこと云うはずがないものね。わたしの勘違いでした。ごめんなさい。
わたしもどっかへ出かけてこよっと。じゃあ、バイ!バイ!
女房の足音、梅の音って書いといて~」
出典 俳誌のサロン 歳時記 春近し
春近し
ttp://www.haisi.com/saijiki/harutikasi1.htm
見出し画像は、み(31888)さんのご作品。
ありがとうございました。