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[暮らしっ句]花の雨[俳句鑑賞]

怪し編

最初は さりげなく

 さがし物 わからぬままに 花の雨  中川美代子

 探し物、普通は気になるものです。痒みのようにつきまとってくる。それがこの時は(ま、いいか)と思えたわけですね。忘れたんじゃないところがミソ。実はこれ達人の境地(※)かも。花の雨がそこにいざなってくれた。

※たとえば座禅。雑念があふれ出てきますが、いちいち気にすると部屋に迷い込んだ虫を追いかけ回すようもの。実は気にしないというのが一番だったりする。虫なら、まだ対処出来そうですが、騒音ならほぼ無理。世の中、いろんなことがある。コントロール出来ることの方がごくごく一部。「気にしたら負け」ということはある。が、簡単ではありません。それが出来るようになれば、達人~
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 ひと駅を尼僧と隣る 花の雨  宮倉浅子

 便宜上? 美人のシスターだとしておきましょう。電車の中で隣合わせになりました。それだけで特別なシーン。物語がはじまる予感。
 しかし、そのような期待を作者は冒頭で断ち切ります。「ひと駅」ですから、何も起こらなかった。では何を詠んだのでしょう? 文字の中に手がかりはありませんが、おそらく尼僧は、もうひとりの作者…… 作者には、尼僧になることを考えたことがあったのではないでしょうかね。
 つまり、この尼僧は「If の ジブン」

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 醒めていく酔にも似たり 花の雨  徳田千鶴子
 受け入れる それだけのこと 花の雨  三木千代

 上の句は、男性でも思い当たるシチュエーション。
 しかし、男性の場合、下の句のような考えにはならないと思います。性別で考えるのはよくない時代になりましたが。。

酔いを覚ます 花の雨
暗示にかける 花の雨
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 花の雨 出店仲間の立ち話  外山節子

 雨で客が来ないので店の者同士でおしゃべり。昭和なら、のどかな情景という解釈でよかったと思いますが、今時のチェーン店なら、そんなムダはありません。客が途切れたときにやることはびっしりある。
 じゃあ個人商店? 平均的な個人商店の状況は別の意味でもっと厳しい。倒産、廃業の危機だからです。そう考えると、このおしゃべりは、沈み行く舟の中で、おしゃべりを続けているという、ある種の狂気の描写……

 と、思わず極端な解釈をしてしまいましたが、この構図、思えば年寄りも同じ。(どうせ何やっても若返ることはないし、そのうち死ぬんだ。それより○○って知ってるか? 使わないとソンだぜ……) などと目先の世間話にうつつを抜かしているようだと……。
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 田を売つて 栄えゆく町 余花の雨  兒玉充代

 意味としては「この町は呪われている~」と云ってるも同然。詩人って、こういうことをさらりと云う。

 儲ける仕組みを築いた人の繁栄は持続しますが、売った金は減る一方。凡人にとっては、贅沢しないのが一番賢明な方法だったりする。
 でも、大金を手にした人の多くはついつい使ってしまう。その町が「栄えている」もそのおかげです。つまり、普通なら「栄えている」ことはいいことですが、この場合は「あとで大変だぞ」のニュアンス。

 オマエが気にすることじゃない?

 いい質問ですね~ なんでこの構図に反応したかというと、どこかの国がそういうことをやってるからです。

 国の資産を売るわ、借金で相場を上げ続けるわ……
 これいわばすべてツケ。それを一体誰が支払うのか……
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 花の雨 亡きあと 鈴を如何にせむ  品川鈴子

 一瞥すると、鈴? 故人の遺品? 遺品整理の時に出てきた鈴を鳴らして、ありし日のことを偲んでる? なんてことを思ってしまうわけですが、作者の名が目に入った瞬間に景色が一変。

(わたしが死んだ後、わたしをどうするつもり?)

 全身麻酔、手術どころではありません。死ぬんですから。
 それだけでもゾッとしますが、ここには肉体のこと以外のことも含まれているようです。

(わたしの魂をどうしてくれるの?)

 そう云われても困りますよね。でも、考えてみれば、ちゃんと祀れば魂も安らかでしょうし、放置されればさ迷いそう。
 ということはですよ。魂を生かすも殺すも、生きてる者たちということに。作者はそこに気づいてしまったのでしょう。

(あなたたち、わたしの魂をどうしてくれるの?)

 最後は、ちょっとお口直し
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 花の雨 夜の音ぬすみ 降りにけり  成瀬櫻桃子

 雨音はショパン~ はわが青春のメロディの一つですが、この場合は、花の雨音が「夜の音」とそっくりだったという。そこだけみればロマンチック。それに留まらないのは「ぬすみ」としているところ。

(花の雨って、盗んだものなのよ。おとなしそうな顔をしてるけど、図々しいったらありゃしない!)

 そんなふうに毒があるから詩になるんでしょうね。

「お嬢さん、どうして盗んだりなんかしたの? ”夜の音”だって著作物なんだから。個人で愉しむ分にはいいけど、他人に配っちゃいけないね」

「すみません。どうしても届けたい相手がいて……」

「夜になったら”夜の音”が聞けるでしょ? 誰だって……
 誰よ、その相手って?」

「……サンです」

「聞こえない」

「サンです!」

「サンさん?」

「サンサンと降り注ぐ方のSunです。夜を知らないんです!」


 

出典 俳誌のサロン 歳時記 花の雨
歳時記 花の雨
ttp://www.haisi.com/saijiki/hananoame.htm

見出し画像は、soejiさんの作品です。
ありがとうございました。

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