「豊かさの基準」とは?②
前回の続きになります。
前回はGDP(国内総生産)とHDI(人間開発指数)という2つの物差しを使って、日本や諸外国の「豊かさ」について考えました。
「豊かさ」というと我々はとかく経済的な豊かさを考えがちですが、世界3位の経済大国である我々は果たして本当に幸せなのか、というのが大きな論点です。
GDP(国内総生産)
さて、国の経済規模を表すGDPですが、上記の通り日本は現在世界第3位です。
では、今から約30年後の2050年はいったいどうなっているのでしょう?生徒たちにベスト10の変動を考えさせます。
GDPの変動についてはいろいろな試算がありますが、21世紀政策研究所の試算によると1位はアメリカを抜いた中国で、日本は1つ順位を下げて4位となっております。
「なんだ、それでもまだ世界4位なんだ。あんまり気にすることないじゃん」
という声も聞こえたりするので、GDPのからくりについて教えます。
GDPは大きく分けて二種類あり、われわれがいつも目にするのは「名目GDP」と呼ばれるものです。GDPは「国内で生産された付加価値」を表す指数なので、当然のことながら人口が多い国が有利になります。
一方で、名目GDPを国民一人一人で割った指数を「一人当たりGDP」と呼び、こちらの方がリアルに各国の国民の豊かさを表すと言えます。日本はいったい何位なのでしょうか。生徒に考えさせます。
ちょっとグラフが見えにくいですが、日本はなんと28位となっています。(え、世界4位って幻だったの・・・)
北米や西欧諸国が日本より上にいるのはわかりますが、韓国やスロベニア、リトアニア、そしてイスラエルよりも低いというのはいったいどういうことでしょう・・・、と生徒たちは困惑し始めます。
あれ、日本って経済的に豊かな国ではかなったの??
そこで、以前に教えた貧困問題に立ち返ります。
一人当たりGDPが世界28位って、日本は全然豊かじゃないじゃん、って思い始める生徒も出てきます。逆に、日本は「貧しいのか」という問いも当然生まれる中で、改めて貧困問題について触れます。
一度日本から離れて、グローバルな見地で貧困問題を見たときに、世界において貧困は劇的なまでに減少をしています。世界中の人たちの努力のおかげで、1990年から25年で世界の貧困率は26%減少しました。
世界規模で見ると、われわれは確実に「豊か」になっているのです!
一方日本は・・・。
そして前回HDI(人間開発指数)のところで触れた、「教育へのアクセス」に関連して、世界の大学進学率を共有します。
こちらのデータは留学生が含まれているなど差し引かなくてはいけない部分もあるのですが、いずれにしても日本の大学進学率は世界においてそれほど高くないことは事実です。
また、こちらのグラフには表れていませんが、大学院進学率は他国よりもかなり低いです。これは、修士が就職においてあまり意味を持たないからに他なりません(特に文系)。アメリカなどでは、今では学士号だけではマックジョブ(マクドナルドの店員のような単純労働)にしかつけないなんて言われたりすることもあり、大学院に行って修士号を取る学生が多く存在します。
そして、前回の投稿でも書きましたが、日本では大学生と言えば18歳から22,23歳という特定の年齢層が通う場所と認識されていますが、世界ではリカレント教育(学校教育から離れた後も生涯にわたって学び続け、必要に応じて就労と学習を交互に繰り返すこと)も一般的で、25歳以上で大学に通う人の割合を比べてみると、その差は圧倒的です。
ポルトガルが1位というのは少し意外でしたが、お隣韓国が学びなおしの文化があることも興味深い事実です。最近はKpopや韓流ドラマなどのおかげで、韓国に興味を持っている生徒も増えているので、韓国の社会情勢(日本をはるかに超える”受験地獄”や韓国経済を牛耳る財閥の話。国の経済規模が小さいゆえの過酷な就職活動。そこからくる英語学習熱、さらには留学熱、などなど)を話すことも結構あります。
このあと、アフリカに目を向けて「アフリカは本当に貧しいのか?」ということを探求しますが、ここでは割愛して次のトピックへ。
世界幸福度ランキング
ここで「豊かさ」を測る3つ目の物差しの登場です。その名は「世界幸福度ランキング」!
まず最初に世界幸福度ランキングの元ネタとなった「Gross National Happiness」に関する動画を生徒に見せます。英語の説明になりますが、生徒たちはだいたい理解はできます。(AIが自動翻訳もしてくれます)
ご覧いただければわかりますが、Gross National Happinessはブータンが国を挙げて開発した「幸福」を数値化した指標になります。これを基に国連の持続可能開発ソリューションネットワークが発行しているのが幸福度調査のレポートで、これをランキングにしたものが「世界幸福度ランキング」です。
では、気になる日本の順位は??
その前に、上位トップ3を当ててみましょう!
圧倒的に北欧勢が強いですね。大人の皆様であれば、北欧の国々が超福祉国家で、高額な税金と引き換えに充実した生活が整えられていることはご存じのとおりかと思います。
そして、前回の復習になりますが、HDI(人間開発指数)を思い出させます。北欧からはノルウェー、アイスランド、スウェーデンがトップ10にランクインしていました。
この辺りから、生徒たちはみな北欧に興味を持ち始めます。
そして忘れてはいけない我が国ニッポン。とりあえず、トップ10には入っていませんでした。(生徒たちもいろいろな事情が分かってきているので、日本のトップ10入りを予想する者はほとんどいません)
なんと50位にも入っていません。ここまで来ると「ベリーズ」とか生徒たちが聞いたこともない国も入っていますが、それらの国よりも幸福度が低いということです。もう泣けてきますよね(T_T)
韓国や中国に勝ったからと言って喜んでられません。なんと日本は世界156位中54位にランクされているのです。
ここで、生徒には「なぜ日本はこんなに幸福度が低いのか」を徹底的に考えさせます。ヒントはこのランキングのスライドの1枚目にあります。幸福度を数値化するにあたってどんな指針が用いられているかを記していたのです。(賢い生徒はそこから持論を展開していきます)
ちなみに上記は2018年のランキングですが、2023年は47位に上がってました。(でも、最近のジェンダーギャップ指数では史上最低ランクでしたね・・・)
というわけで、この授業を通して、生徒たちの「日本は豊かだ」という固定概念をぶち壊します。そのうえで、改めて「豊かさ」とは何かを考えてもらい、自分たちなりの「豊かになるためのPathway」を思い描いてもらいます。
そして、以下のような課題を生徒たちに与えます。
4人でグループを作り、自分が気になった国について5分間でグループ内でプレゼンをします。プレゼンの観点としては上記のようなヒントを与えますが、自分の興味のある点を調べ、他人が聞いて面白いプレゼンにすることが条件となります。この活動を通して少なくとも4か国について知ることができ、グローバルな視座が高くなります。
上記の活動が終わったら、最後の課題となります。まず下記のファイルを生徒に黙読してもらいます。
2006年とだいぶ古めの資料なのですが、本質を表していると思っているので、今でも使っています。(MTVがこのような調査を行っていたこと自体が驚きです)
これらのすべての活動を通して、「自分にとって豊かさとは何か」を定義させ、それを実現するための方策をレポートにて述べさせます。もちろん、これは『解なき問い』ですので、正解などありません。解なき問いに自分で答えを導き出す、そんな経験を中高時代にたくさん積むことで、社会に出てからも自分らしく、社会に変化にひるむことなく堂々と生きていってほしいと思っています。
今回の授業はこれで終わります。最後までお付き合いいただきありがとうございました。