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作者の頭の中を冒険してみよう!謎の散歩ゲーの世界

steamやitch.ioといったゲーム配信サイトには有象無象のゲームが転がっている。
美麗なグラフィックのもの、重厚なホラー作品、初めて聞くルールの作品、古今東西様々なアートスタイルをごった煮にしたような作品。その中でも、作者が作った世界を歩くタイプのものは、作品の数だけ多彩で探しがいがある。今回は見つけてきた中から何個か紹介したいと思う。

3次元の広がりを獲得した手描き2次元の世界「Vasilis/Marginal Act」


目まぐるしく変わるアニメーションの風景が印象的。パースや作画スタイルを鮮やかに飛び越えて乱立する建造物群の中を、毎秒形をガタガタ変えながら歩いていく人々の姿は、さながらオシャレなパラパラ漫画。見ていると2次元の景色がパタパタとこちらに立ち上がってくるような感覚があり、眩暈がしてくる。2014年のウクライナの政治的な動きに触発されて制作されており、ストーリーはシリアス。暴動の続く市内を、夫を亡くした主人公の老婆が散策してゆく。

不穏で詩的な世界へ迷い込もう「DESCEND/Ompco」

薄暗い世界をひたすら散歩するゲーム。まず現れる洞窟は、画面にさざめくノイズも相まり、おどろおどろしいといっても差し支えないほど。
どんどん進んでいくと、建物の内部のようなところに出る。だだっ広い虚無のビルの中をひたすらぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる…。
こういう怖そうなところを歩くウォーキングシミュレーターはわりと大量に落ちている。ただ、偶然見つけたトレーラーがあまりにもカッコよかったので、ここで取り上げた。トレーラーはこちら。



目がチカチカする蛍光色の部屋と海「NO FUN HOUSE/Cassy McQuater」

画面を立ち上げると現れる極彩色の部屋。目がチカチカする建物の中には、球形に積まれた観葉植物・ベッド等々、もろもろ家具が置かれ、壁には絵画が。家具に近づいてみると、休憩してみますか?という表示が出て、yesをクリックすると突然出てきた海を眺めてぼんやり過ごすことが出来る(しかしこの海もすごい色をしているので始終目に負担がかかる)。
絵画を選択すると、外のフィールドへ出ることが出来る。このフィールドもサイケな世界で、不可思議な色をした空や岩、ピンクの雨がぱらぱら降り、湖の底にはスマイルマークの絵文字がひたすら敷きつめられる。岩場に唐突に置かれた家具群からはまた家へと帰ることが出来る。あちこち歩き回るもよし、海を眺めて酒やスナックを摘むもよし。サイケな世界を心ゆくまま堪能しよう。

詩情+不穏+アスレチック+愛、不器用に綴る瑞々しい思い出「Awkward Dimensions Redux/StevenHarmonGames」

いくつかのステージに分かれており、ホラー系・都市散策パズル系・近未来アスレチック系・謎解き美術館系・はたまたシューティング系などなど、それぞれゲーム性を変えていて面白い。(ノイズと叫び声が飛び交う古くて暗い空間を奥へ奥へと進んでいったり・立ち並ぶカラフルなビルの外階段やわずかな足場をジャンプして、箱庭の都市を散歩したり・赤いライトが錯綜するサイバーパンクの構造物を駆け抜けたり…)
作者の個人的な日記というテーマが根底にあり、学生生活の中で体験したことや彼の行った活動が、直接的でなくても如実に追体験できる。例えば誰もいない教室で言葉を連ねていくプロジェクター、時折挿入される実際のポラロイド写真、キャンプファイヤーを囲み、ポツポツと話し声の聞こえる夜。時に詩情と悲しみに溢れる文章が綴られ、散策しながら読んでいく。
実はエモと青春を体現したかのようなゲーム。

経典をあなたに教えてくれる体感絵本「A Museum of Dubious Splendors/Studio Oleomingus」

ゲームを始めると、プレイヤーは不可思議な内装の部屋に降り立つ。部屋はいくつもあり、置かれたオブジェも多彩だ。そこから様々なテキストを読むことができる。何のテキストかというと、グジャラートの詩人、Mir Amar Hassanが口頭で語った物語である(ウルドゥー語とヒンディー語が巧みに使われているため翻訳が難しく、書物にする段階で勝手に編集されてしまったりと、いろいろと揉めた。そのため、このゲームに使われているテキストもオリジナルのものかは断言できない…という背景がある)。テキスト量は膨大で、読んで理解するのがちょっと大変だが、美麗な部屋のグラフィック、音楽、雰囲気込みで十分楽しめる作品。

暗い海を芒洋と進んでゆこう「The White Ship/Zachariah Chandler」

ドット絵と暗闇、単純に配置されたシンプルな世界観が美しい。陸地に降り立つ人物を動かし、やがて広い海原へ、ギイギイと軋みを上げながら、白い船が乗り出してゆく。向かう先ははたして…

線の配置ひとつで黒い背景の中に広大な世界が感じられる、巧みな表現だ。静かに楽しめるおすすめのゲーム。

飛び交う車、雨に濡れた黒と黄色の目抜き通り「t- e ni hтm-are of·`a c ty/Pol Clarissou」

こちらはAmbient Mixtape 16というプロジェクトの一環として制作されたゲーム。”After Hour”というテーマを共有し、その制約のもと各クリエイターが作品を作っていったそう。
雨のそぼ降る中、夜のライトアップされた街を歩いてゆく。プレイヤーのすぐ横を車が駆け抜けていく。動き出すと急に背景のドットが荒くなり、立ち止まるとまた鮮明に戻る処理も面白い。
音楽もよく、さらさらと微かになり続ける雨音や水たまりを走る車の走行音がいい感じに街の空気を演出してくれる。ザクザクと歩き、雰囲気に浸ろう。

近未来の車両から見える風景「Nightline/Colorfiction」

シミュレーションゲームというジャンルが存在することに、steamを覗くようになってから気づいた。これはいうなれば近未来の鉄道の乗客シミュレーター。起動するとカッコいい音楽と共にスタイリッシュにライトアップされた車内が映し出され、車窓から外の風景も眺めることが出来る。大きめの液晶で見るとかなり映えそう。何かの作業をしている横でラジオのように映し出しても楽しめるかもしれない。いざ、サイバーパンクの車窓旅行へ!

最後に、一部のラインナップから察した方もいるかもしれないが、インディーゲームの豊かな世界観にふれるきっかけをくださったアニメーション作家、ソーシキ博士さんに向け感謝の言葉を載せて、この記事を締める。

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