突然ショートショート「鋼こむらがえり」
スタントマンの男は昔から、鋼のような肉体を売りにやってきていた。
特撮ヒーローに憧れて20歳でこの業界に飛び込み、気づけば30年以上が経った。男、この時51歳。
今日は遊園地でのヒーローショー。悪役での登場だ。子供たちを感動させる、お手伝いの役目を担う。
最初の頃に感じたジレンマを、何度繰り返してきたかわからない。
しかし今ではこれも一つの姿なのだと気づいていた。やられることで子供たちに感動を与える、もう一つの「ヒーロー」。
出番がやってきた。
「あ、悪のボリュームカット怪人の登場だ!」
「頑張れ、ボイスマン!」
目の前でヒーローと対峙する。いざ、足を動かそうとした時のことだった。
「ぐっ……!」足がこむらがえりを起こした。鋼のようなあの足が。
「今だ、ボイスアタック!」
その隙をついて、男はあっけなくやられた。
「ばかな……この俺が、こむらがえり?」
男は戸惑った。ここ10数年間経験したことのない激しい痛みに。
そして男は悟った。己のやりすぎを。
(了)(416文字)