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Story of Kanoso#31「さすらいの手品師」

     ここは彼礎かのそ西にし大岩おおいわ、彼礎都市高速のガード下。

    一人の大学生らしき女がスマホを見ていると、 そこに一人の男がやってきた。

    「土居樟葉どいくずはちゃん。さぁやって来たよ」
「来てくれたのですね!?」
「もちろん。さぁ、報酬を頂こうか」
「じゃあこれで」女はジャケットに蝶ネクタイ姿の男に、チョコレートを渡した。

   男は軽く咳払いをした後、陽気なテンションで喋り始めた。
「さぁ、やってきてくれてありがとう樟葉ちゃん。さぁ、これを見て!」
男は女に向かってハンカチを見せると、中から鳩を1羽飛ばした。

   「わぁ、すごい!本当すごいッス!」
男は上機嫌になって、それから30分に渡り手品を続けた。
「では最後のものにいこう。これは私が20年追い求め続けてできた、手品人生の集大成。よーく見るんだよ!」
「はい!」

   男は大きなカバンからビーチボールを取り出すと、空に放り上げて、頭で割った。
ボールの割れる音がガード下に響き、中から紙屑が降り落ちる。

    「す、すごい…!」
「楽しんでもらえて何より。では私はこれで」
「ありがとうございました!」
男は地面に敷かれ、紙屑の落ちたビニールシートをまるごと畳むと、やってきたタクシーに乗って去っていった。
手品のように素早い去り方だった。

   彼はチョコレートと引き換えにどこにでも現れ、手品を披露する「さすらいの手品師」マイケル森井もりい
連絡とチョコレートの用意さえできれば、本当にどこでも現れるのだ。

(了)(650文字)


あとがき

   今回は1日に制作しました。
この日、大阪某所(樟葉じゃない)での所用に向かったため、全編を京阪電車と駅で制作。
手品師の名前が森井なのは名前を考えるタイミングで守口市もりぐちしという駅に来ていたから。
客の名が土居樟葉なのは電車が土居どいという駅を通過し、樟葉くずはという駅に向かう準急だったから。
  …本当ですよ。
   それにしても手品師がどこにでもやってくるとは。
面白くなりそうですが、再登場は未定です。

Writen in the City commuter“2951“(Operated by Keihan Electric Railway)


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本作品はフィクションで、実在する人物・地名・各種団体や企業等とは、一切の関係がありません。



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