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【日本語訳】ウェイファインディング:運動学習プロセスへのエコロジカルダイナミクスアプローチ

割引あり

*有料記事ですが翻訳部分はすべて無料で読めます。

前回の翻訳記事からほぼ一年が経ってしまいました。
今回はカール・T・ウッズの「ウェイファインディング」についての論文の翻訳になります。
英語からの翻訳ですが、私は英語が全くできないので大変でした。
今回も、できるだけ著者の選んだ言葉、表現を残しつつ、分かりづらいところは訳注を足しながら理解しやすくしたつもりです。
エコロジカルダイナミクスアプローチを勉強されている方にとっては、当たり前のことで、おさらいのようになるかもしれません。
ウェイファインディングはエコロジカルアプローチの概念として言語化できておくと便利だと思うので、サッカー関係者だけでなくスポーツ指導者は概要だけでもつかんでおいて損はないと思います。
有料部分では、今の自分の近況やこの論文に対する自分なりの意見などを書いています。

では今回も、温かい気持ちで辛抱強く読んでいただければ幸いです。

注)景観や風景という意味の”Landscape”(ランドスケープ)という単語がたくさん出てきますが、この翻訳記事では「景観」という訳のほかに、多くの場合「環境」という訳し方をしています。また実践者という意味の”practitioner”という単語も理解しやすい「指導者」という訳をしています。

ウェイファインディング:

動的な環境をナビゲートする生態学的視点が、スポーツにおける学習者と学習プロセスについての理解をどのように豊かにするか 

Carl T. Woods , James Rudd , Sam Robertson and Keith Davids

訳:辻野智哉

要旨

ウェイファインディング(道を見つける)とは、ある景観(ランドスケープ)内のある領域から別の領域へと意図的かつ自己調整された旅に出るプロセスを指します。このプロセスは、個人が特定の環境ニッチ内に埋め込まれた時間的に構造化された機能的行動を利用する能力によって促進されます。(訳注:つまり個人がその環境に適した行動を適したタイミングで行う能力に依存する)

このようにして、個人は相互作用を通じてパフォーマンスの景観(環境)を体験し、その多くの特徴を検出し活用することで「道を見つける」ことを学びます。本意見記事では、人間が環境内でどのように動くか(ナビゲーション)を生態学的および人類学的に概念化し、エコロジカルダイナミクスの視点からスポーツにおける学習者と学習プロセスの理解を比喩的に深めることができると主張します。具体的には、スポーツの指導者を(学習の)ランドスケープデザイナー、学習者をウェイファインダー(パフォーマンスの景観内で新たに出現する問題で構成された未知の領域を、深く身体化され埋め込まれた知覚-行動カップリングを通じて巧みに自己調整する方法を学ぶ個人)と見なします。(訳注:つまり指導者を学習の景観(環境)デザイナー、学習者をウェイファインダーとみなす。ウェイファインダーとは新しい状況や問題に直面した時に知覚-行動カップリングを通じてどのように解決、適応していくかを学ぶ者である)

このように学習者と学習プロセスを再構築することで、指導者は学習者に探索の自由を与え、新たに出現するパフォーマンスに関するの問題を巧みにナビゲートするための行動の機会を知覚し利用することを学ばせる学習デザインをより良く設計できると考えます。論文の最後では、学習者をウェイファインダーとして、スポーツにおける学習プロセスをウェイファインディングとして位置付けた練習環境を設計した 2 つの実践例を紹介します。

キーワード: エコロジカルダイナミクス、ウェイファインディング、アフォーダンス景観、学習デザイン、知覚-行動カップリング、知識


キーポイント

  • この論文は理論的にはエコロジカルダイナミクスの枠組みに位置づけられ、スポーツにおける学習者をウェイファインダーとして、その後のパフォーマンスと学習プロセスをウェイファインディングとして再概念化します。

  • この再構成を通じて、スポーツ指導者は学習者が練習においてパフォーマンス環境を探索し、利用可能な行動機会を知覚し利用する機会を提供する学習デザインをより良く実践できるようになり、学習者が自らのパフォーマンスに関連する問題を積極的に自己調整する力を身につけることができるようになります。

  • スポーツ界全体から 2 つの例が紹介され、パフォーマンスと学習プロセスを再概念化するというこの提案に命を吹き込みます。


序章

「…ウェイファインディングは、(私たちが)この世界に存在するという驚くべき事実を私たちに突きつける活動であり、私たちに顔を上げて注意を払い、周囲と認知的および感情的に相互作用することを要求します。」

– M.R. オコナー

エコロジカルダイナミクスは、学習とパフォーマンスに関する現代的で学際的な理論的枠組みであり、生態心理学、動的システムの制約、複雑性科学、進化科学の概念を統合しています。 これは、スポーツ、身体活動、教育におけるサポート指導者の役割を、個人とパフォーマンス環境の相互関係を強調する形で再概念化することを提唱しています。この枠組みの中で、熟練した行動、学習、専門知識、才能などの関連概念は、パフォーマーとその環境の制約との間に形成される、機能的に適応可能で進化する関係の創発特性として捉えられます。 熟練した行動は、文脈から切り離された身体の反復的な動きとは見なされませんが、動的な身体と環境の相互作用であり、それを通じて個人が意図されたタスクの目標を達成するために自己調整します。

この生態学的枠組みでは、自己調整に必要なプロセスは、個人の知覚、行動、認知、感情とパフォーマンス環境のダイナミクスの間の深く絡み合った関係の発展と活用によって支えられます。 環境内の情報が個人の行動を形成し、またその逆も同様であるため、個人と環境は相互に依存するものとみなされます。このオントロジー(存在論)の枠組み内での学習は、個人が環境とその中での自分の位置についての知識を徐々に深め、行動能力を絶えず変化するさまざまな制約に適応できるかを探索するプロセスとして理解されます。したがって、スキルの獲得は、エコロジカルダイナミクスの枠組み内でスキルの「適応」として再定義されています。

スポーツにおいて、この枠組みの中で活動する実践者(トレーナー、教師、コーチ、スポーツ科学者、アナリストなど)は、パフォーマンス準備における自分の役割を再構成し、問題をどのように「解決すべき」かについての宣言的知識を伝える者ではなく(訳注:つまり伝統的な知識伝達型指導)、学習者(学生やアスリートなど)が関わることができる環境のデザイナーへと進化するように求められます。 練習条件が適切に設計されている場合、学習者は、現在の行動能力に基づいて、意図したタスクの結果を最も効果的に達成する方法を発見するために、特定の設計された練習環境との相互作用を積極的に自己調整します。

ここで私たちは、自己調整は「能動的な」プロセスとして理解することがより良いと考えています。このプロセスでは、慎重なタスク操作や情報に基づく練習設計を通じて、指導者が学習者と協力し、(必要に応じて)指示、軽い促しを用いることにより、学習者の注意を環境内の特定の要素に向けさせ、行動を最大限に引き出すことが必要です。

(訳注:自己調整は能動的ではなく受動的に起こるもの、つまり意識的かつ積極的に行われるもので、それには学習者が適切な環境特性を認識し活用できるように、指導者が慎重に練習のタスクを操作し、選手に合わせて練習をデザインし、時には注意が特定の要素に向くように指示や軽い促しが必要です。)

この意見記事では、エコロジカルダイナミクスにおけるこれらの生態学的概念化が、パフォーマンス準備におけるサポート実践者(指導者)の役割を再定義するだけでなく、学習者と学習プロセスについての理解を再構成するよう私たちに求めていると主張します。

この再構成を導くために、私たちは指導者をデザイナー、学習者をウェイファインダーとみなします。 知覚、認識、感情、行動の間の深く絡み合った関係に支えられ、環境(つまり、競技や練習課題)内の未知の領域(つまり、パフォーマンス関連の問題)を巧みにナビゲートする個人として比喩的に位置づけられています。 私たちが議論するように、ウェイファインディングは本質的に新しい概念ではありません [10、13-15] が、エコロジカルダイナミクスの視点でスポーツにおける学習と熟練した行動を理解するのに適用可能な意味を持っています。 学習プロセスの理解を再構成することで、学習者が新たなパフォーマンス環境の未知の領域を探索し、自己調整する自由を与える学習デザインをより適切に設計できるようになるかもしれません。


ウェイファインディングと自己調整

固定された地点間のナビゲーション以上のもの

文字通りの意味では、ウェイファインディングは、ある地域から別の地域へと人を移動させる目的を持った意図的かつ自己調整された動きとして捉えられています【14】。著名な社会人類学者ティム・インゴルド【10】によれば、ウェイファインディングは単に空間内の固定された地点間をナビゲートすることとして理解されるべきではありません。インゴルド【10】によると、このような表面的な理解は、景観を「通過」することで計画された目的地に到達することに重きを置く「輸送」に似ています。これとは対照的に、ウェイファインディングとは景観を「通り抜ける」動きであり、この区別は本論文にとって重要です。というのも、個人が景観を通り抜ける際に相互作用を通じてその景観を学び、ただ表面的に移動するのではなく、深く根ざした、進化する個人と環境の関係を発展させていくからです。より明確に言えば、ウェイファインダーにとって重要なのは「旅」であり、単なる「目的地への到着」ではないのです【10】。

彼の著書『環境の認識』において、インゴルドはウェイファインディングに関するこれらの考えを音楽演奏に結びつけています。音楽家が感情的に音楽のビートとテンポ(エコロジカルダイナミクス内で情報的制約と見なされる)と関わり合いながら、自分の演奏を広範な音のオーケストラに「適応する」ように調整することが、ウェイファインディングを体現していると説明しています。即興演奏をする音楽家が進んでいる特定の「道」は、展開していく音楽の演奏の中にあり、彼らが渡り歩く「眺望」は曲のビートとテンポの中に包含されています。確かに、このウェイファインディングの解釈は文字通りの意味(道を見つけるという意味)からは離れています。なぜなら、音楽アンサンブルが景観の中の異なる地域を物理的に移動しているわけではないからです。しかし、比喩的ではあるものの、音楽家は曲の間に現れる情報に注意を払い、それによって音とタイミングの即興演奏を続けることで、作り出される音の「景観」をうまく「見つける」ことができます。この根底にある動的なプロセスは、音楽家と音楽(演奏者と環境)の相互作用に捉えられており、それが彼らが曲の中で道を見つけるのを助けます。ここで、私たちはウェイファインディングをインゴルドと同様の視点に基づいて解釈しています。確かに、この解釈の試みは「ウェイファインディング」の文字通りの意味から多少離れていることを認めます。しかし、私たちは、この再概念化が、スポーツに適用され、エコロジカルダイナミクスの理論に基づいた場合でも、ウェイファインディングの根底にある動的なプロセス(例えば、環境に応じて柔軟に対応する能力)は失われずに保たれていると主張します。具体的には、スポーツにおける競技パフォーマンスの環境は絶えず進化し起伏に富んでおり、アスリートはそれに応じて、出現する制約にパフォーマンス行動を適応させることで、これらの環境の中でウェイファインディング(道を見つけること)を学ばなければならないと提案されています。このエコロジカルダイナミクスのウェイファインディングの解釈は、常に変化を続ける競技パフォーマンス環境の中でのアスリートの自己調整プロセスを理解するために有益であると主張します。

このような動的な視点でスポーツにおける学習プロセスを再概念化するには、個人が身体的特徴、気候、社会文化的規範、ルール、地域の歴史といった環境の情報的制約について深い知識を身に付け、それらがどのように絡み合って自己の認識と行動を形作るのかを理解する必要があります。これは、さまざまな環境との相互作用の機会に対する「長期的な調整と注意力」([16], p. 225)を進化させながら培われるものです。したがって、本論文を通じて、スポーツ競技や活動は比喩的にパフォーマンスの「景観(環境)」として理解される可能性があると主張し、その具体例を示そうとしています。新たに生じ、消えゆく問題や課題は、その後、アスリートや学生がナビゲートすることを学ぶ多くの「領域」に表れますが、これは指導者によって予め定められた道を辿るのではなく、利用可能な行動の機会に対して応答的になることを徐々に学ぶことによって実現されます。これにより、ウェイファインディング(道を見つけること)が具現化されるのです。


ウェイファインディングの生態学的視点

実際、この根拠の生態学的視点は、心理学者ジェームズ・ギブソンによって形成されました。彼は、従来の二元論的な信念、つまり人間が世界をナビゲートするのに役立つ「認知マップ」を脳内に持っているという固有の信念を否定しました。彼は、心と環境の間や知覚と認識の間には、分離は存在しないと主張し(現在「organismic asymmetry」と呼ばれている)、ウェイファインディングが知覚、認知、行動の間のリアルタイムなカップリングと具現化を示していると述べました。彼は、パフォーマンス環境をナビゲートする個人が、記憶に保存された内部表現や「認知マップ」ではなく、特定の環境ニッチに特に絡み合った時間的に構造化された行動に依存していると提案しました(訳注、つまり特定の環境に適応するために、環境に合わせた行動を取る必要がある)。地域間の距離が広大で、単一の視点から環境全体のレイアウトを認識することはできないため、彼は個人が景観を体験することで景観内の地域をナビゲートすることを学ぶと主張しました。

この定義の起源は、コンパスやグローバル・ポジショニング・システム(GPS)などの現代の技術デバイスなしで人々がどのように世界を航行したのかという生態学的視点に基づいています。この段階では、読者に、伝統的で機械的、独裁的な指導やコーチングの教育方針をコンパスやGPSデバイスに例えて考えてもらい、ウェイファインディングをスポーツ環境における学習プロセスと結び付けています。つまり、外部の情報源(指導者、トレーナー、コーチ、または親)からの明示的な知識伝達によって、学習者がどのように行動すべきかについての理想的な動きのテンプレートを指示されることを指しています。このテンプレートは、空間内の固定された場所に到達するためにGPSデバイスによって選択された「最速」の目的地ルートを追うことと同様です。

これらの考え方は、スポーツの指導者が、学習者のパフォーマンス環境との相互作用をグローバル(全体)からローカル(部分)の方向で決定するような、学習者にとってコンパスやGPSデバイスのように機能し、その結果、学習者がローカルからグローバルの方向で環境と対話することでそれを経験する能力を妨げ、環境を通じて自己調整する能力を低下させる可能性があることを示唆しています。この点を補強するために、読者の皆さんに、ナビゲーション目的で GPS デバイスを最後に利用したときのことを考えていただきたいと思います。あなたは、ナビゲーションに役立つ環境の微細な特徴(つまり、GPSデバイスが伝える情報「以外」の特徴)にどれほど注意を払っていましたか? この明示的なナビゲーションツールの使用は、ナビゲーションを通じてこれらの環境特徴に注意を向けるよう促しましたか?それとも、現在のルートをあなたにすでに指示されたルートと比較して連続的に通知することで、持続的な依存を促しましたか?これらの質問が修辞的であることを踏まえ、スポーツの学習者が、もし外部のグローバルな情報源(指導者、トレーナー、教師、コーチなど)によって「ナビゲーション」(つまり、積極的な問題解決)が継続的に(再)組織されている場合、パフォーマンス環境内の情報豊富な微妙な点を見逃す可能性があることを考えてください。


ウェイファインディング:認知行動カップリングに基づく

熟練したウェイファインディングは、一つの地点から直接的には知覚できないほど広大な距離を(自己)なナビゲートすることで定義できるため、私たちはそれがギブソン【2, 17】の人間行動に対する知覚行動カップリングアプローチに基づいていることを理解します。特に、ウェイファインディングを成功させるには、環境と深く関わることが必要であり、それはパフォーマンス中に積極的に自己調整する能力をサポートします。つまり、問題を解決し、情報を探し出し、知覚し、アフォーダンス(環境の提供する可能性)を利用し、自分の意図と環境の制約に基づいて目標指向の行動を(再)組織化することです【21】。

この視点は、環境に関する「知識の理解」と「知識の情報」を区別するギブソン【2】の洞察からいくらかの支持を得ており、これはウィリアム・ジェームズの初期の考え【22】と一致しています。 特に、環境に関する知識の情報は、メルボルン・クリケット・グラウンド(MCG)がオーストラリアにあることを知るなど、ある事柄について知る情報を提供します。この情報は、MCGがどこにあるかという質問に対する口頭での回答に最も役立ちます。対照的に、環境に関する知識の理解とは、外部の技術的なナビゲーション補助を使用せずにMCGに到達するための熟練した知覚と行動を指します。後者の知識タイプは、未知の領域を熟練してナビゲート(積極的に自己調整)するためのタスク目標を達成するための環境特徴の理解を必要とします。このため、誰かに旅行先への指示や指導(宣言的に明示されたナビゲーション補助の使用)をすること、あるいはもっと適切に言えば、パフォーマンス関連の問題を解決する方法(伝統的な、規定的な教育やコーチングのチャネル)を教えることは、「実際に行う(doing)」ことで学ぶ経験に取って代わることはできません。

ここで重要なのは、私たちがウェイファインディングを単に学習者を環境に置いて「自分で道を見つけさせる」プロセスだと主張しているわけではないということです。これは、エコロジカルダイナミクスに一致する教育法を(意図的にまたは無意識に)歪曲したものです【23】。むしろ、ウェイファインドを教えることは、指導者が学習者の注意をその環境の重要な特徴(ウェイファインディングの補助として定義される【24】)に向けさせることによって、その環境についての知識を深める手助けをする、具現化され組み込まれたプロセス【10】であると私たちは主張します。

これは、ウェイファインディングを行う際に遭遇する問題に対する同じまたは非常に似た解決策(すなわち目的地)に到達するための無限の方法があるという概念を利用する「実際に行う(doing)」という機能主義的な経験です【25】。例えば、積極的に自己調整する個人は、同じ目的地(例:前述のMCG)に到達するためにさまざまなルートを取ることができます。同様に、積極的に自己調整するサーファーは、競技中にさまざまなカット技を使って同じ得点を獲得することができ、積極的に自己調整するクリケットの打者は、非常に異なるショットの組み合わせを使って同じ得点を獲得することができます。私たちはこれらのスポーツの例のそれぞれにおいて、個人が物理的な景観の地域を横断する文字通りの解釈ではなく、より比喩的かつ動的な意味でウェイファインディングを実証していると主張します。例えば、サーファーは波の動きや風の方向といった重要な情報制約を巧みに検出し、それがサーフボード上での行動の機会を形作ることによって得点に関連する急なパフォーマンス問題を解決するために、波が割れるところを積極的に探索します。

エコロジカルダイナミクスの中では、この行動の絶え間ない適応はシステムの縮退という概念で捉えられてきました。これは、複雑性科学に根ざした動的な概念であり、同じ結果が異なる構造的構成や要素を用いて達成できることを説明します【5】。この動的な視点から見ると、巧みなウェイファインド(道を見つける)方法を学ぶには、行動を誘発する常に変化する状況に敏感であり続けることが必要で、その意味で自己調整には環境が提供する行動の機会に対してオープンであることが求められます。そのため、エコロジカルダイナミクスに基づくウェイファインディングのプロセスは、環境の制約と学習者の意図が試行ごとに毎回ほぼ同じでない限り、繰り返しによる暗記学習で身につけることはできません。しかし、実際にはそれらが同じであるようなことはほとんどありません。 著名なロシアの生理学者であるニコライ・ベルンシュタイン【26】はこの点をよく理解しており、練習は「反復なき反復」のプロセスとして捉えるべきだと主張しました。つまり、学習プロセスは動作のテンプレートの反復で構成されるべきではないということです。彼はむしろ、「反復なき反復」なしの動作訓練は「単なる機械的な丸暗記に過ぎず、これは長らく教育学で信用されていない方法だ」と提案しました(【26】p. 134)。

この練習の概念化は、ギブソン【2, 17】がウェイファインディングを環境の特性を示す情報に対する継続的な適応(すなわち、検出)のプロセスとして捉えた理由と一致します。しかし、ギブソンは、ウェイファインディングのプロセスを、私たちがここで行おうとしている環境のアフォーダンス(行動の機会)の利用と明確に関連付けていませんでした(図1を参照)。

人々が風景の中を移動する際、意図した行動が知覚を導き、その逆もまた然りです。したがって、ウェイファインディングのプロセスは行動の機能的適応に必要な情報を継続的に動的に探し、探求することを伴います(図1)。熟練したウェイファインダーは、環境からの情報に絶えず反応し、その情報が利用可能なアフォーダンスとの相互作用を促すような状況で、自分の知識を深めながら「道を見つけて」いきます。このように考えると、スキルの習得はむしろスキルの「適応」としてよりよく理解できるのです【9】。

図1 ウェイファインディングとその循環的プロセス

このような熟練したウェイファインダーを、パフォーマンス環境において利用可能なアフォーダンスを活用するための行動の情報を発見する者として動的に理解すること(図1参照)は、スポーツにおける異なるパフォーマンスレベルの学習者のための学習プロセスの再構成と一致しています。

エコロジカルダイナミクスに基づいたウェイファインディングの視点を理解することで、指導者は、知覚と行動に頼って効果的に機能する、非常に適応力があり、感情的にも関与し、やる気があり、自己調整できる個人を育成する必要性を認識するようになるかもしれません。

この学習の再概念化は、学習デザイナーとしての指導者(実践者)に明確な影響を与えます。スポーツにおけるそのような自己調整型のウェイファインダーを育成するためには、指導者は学習者がタスク目標の達成に向けて知覚し、利用することを学べるようなアフォーダンスを含んだ、情報豊かな「環境」を(共同)設計する必要があります。そのため、言葉の文字通りの意味とは異なる点を認めながらも、スポーツパフォーマンスに適用し、エコロジカルダイナミクスの理論に基づいて考えた場合、ウェイファインディングは、環境の機能的特性やそれが提供する機会に継続的に適応していくプロセスと理解することができると主張します。これは、学習者がスポーツ指導者によって設計された新たに出現する問題や課題を「ナビゲート」する中で実現されるのです。


アフォーダンスの知覚と利用によるウェイファインディング

アフォーダンスの概念とそのウェイファインディングにおける中心性をよりよく理解するためには、ギブソン【2】の動物の環境に関する概念化を考慮することが重要です。ギブソンは、動物の環境は情報に富んでおり、「多様な行動の機会 」を持っていると主張しました。これをアフォーダンス【17】と呼びます。アフォーダンスには客観的な特性と主観的な特性があり、環境のエネルギー配列の構造から得られる情報を動物が検出することで、その動物に特有のものとなります。【27,28】

この考え方で重要なのは、アフォーダンスを特定する情報が、動物と環境の相互作用【28,29】の特性として理解されるべきだということです。ギブソン(【30】, p. 411)は、「アフォーダンスは行動を引き起こすのではなく、行動を制約し、制御する」と提案しています。例えば、この論文で探求されたアイデアに共鳴する形で、ウォーレン【31】は、個人が傾斜や斜面、表面が異なる環境をどのように移動するかを調べました。彼は、階段をどうやって登るか、あるいは登るかどうかは、個人の行動能力や身体の特性に直接関係していると報告しました【31】。

ウォーレン【31】の研究によると、アフォーダンスには身体的特性(たとえば、手足の長さ)と行動的特性(たとえば、力の出力)に基づく特性があり、個人の行動能力が変化・発展するにつれて進化することを明らかにしました【27】。この観察は、アフォーダンスが異なるタイミングで個人に行動を促す可能性があることを示しています。スポーツ指導者にとって、学習者がアフォーダンスを探して活用するよう促す練習課題を設計することは大きな課題であり、その際には、発達中の学習者の行動能力(有効性)と練習課題がうまく機能的に一致するようにすることが重要です【32】。 この設計の課題は、スポーツにおけるパフォーマンス分析とスキル適応の統合を必要とし、学習者の発達状況と学習環境の特定の制約との間に密接な適合性を確保することを意味します【8】。 学習者の行動能力(有効性)と環境のアフォーダンスの適合性は、学習者が最も魅力的で促進的なアフォーダンスを知覚し、それを活用するために必要な関連情報を見つけ出す注意力を教育することで発展します【33】。

現在のアフォーダンスに関する考え方では、アフォーダンスは単なる行動の機会を提供するだけでなく、行動への誘いをもたらすとされています【34】。具体的には、建築の設計と現象学の概念を組み合わせて、ウィタゲンら【34】は、アフォーダンスは行動の機会を提供するだけでなく、目的を持った設計(建築において)によって、行動を誘発したり、逆に抑制したりすることができると主張しました。これについては、さらに実証的な研究が必要ですが、この提案は、アフォーダンスの概念の中心にある「行為者と環境の相互関係」を強調しつつ、特にウェイファインディングに関連する興味深い問いを明らかにします。それは、「特定の個人に行動を促す特定のアフォーダンスの特性とは何か」 という問いです。

この問いが様々な制約に基づいていることを認識しながらも、ウィタゲンら【34】は、アフォーダンスの誘引的な性質に影響を与える可能性が高い4つの要素を強調し、それがウェイファインディングにおけるアフォーダンスの役割に関係していることを明らかにしました。それらは、(i) 個人の行動能力(アフォーダンスを特定する情報の関係性を強化する)、(ii) 種の生存に関連する進化的視点、(iii) 文化、(iv) 個人の歴史¹です。本論文のテーマに関連して、アフォーダンスの誘引が個人の現在の行動能力によって影響を受けるという考え方は、練習のデザインにおいて重要で、これにより、専門家の指導者が、発展途上のウェイファインダーを適切に誘導し、場合によっては軽く促すことで、学習者が身体的、感情的、認知的、知覚的なスキルを調整するに役立つアフォーダンスの利用へと導く方法が示されています。 その結果、発展途上のウェイファインダーが自己調整力を高めていく過程は、指導者が慎重に設計した、行動を促すような練習環境を通じてサポートされるアクティブなプロセスとなります (図1参照)。この人間のパフォーマンスに関する説明は、学習者をウェイファインダーと捉え、また学習プロセスをスポーツに適用しエコロジカルダイナミクスに基づくウェイファインディングとして十分に理解するために、指導者が「アフォーダンスの設計者」として自らを捉える必要があることを示唆しています。これは、練習の一般的な場面から特定の状況までを含む広い範囲にわたる環境を設計することを意味します。

¹ ここで、読者の皆さんに、M.R. O’Connorの『ウェイファインディング』という本【35】と、Ingoldの『環境の知覚』という本【10】を紹介したいと思います。これらの書籍には、古代文明が卓越したェイファインディングをどのように形成したかについて、詳細で興味深い洞察が含まれています。


スポーツにおける学習としてのウェイファインディング

指導者はデザイナー、学習者はウェイファインダー

スポーツの指導者は、子どもやアスリートの成長を促進するために、パフォーマンス、学習、発達といった複数の時間スケールにわたるプログラムを設計していることを理解することが重要です【7】。デザインの観点から、指導者にとって最大の課題の一つは、文脈にかかわらず(体育からハイパフォーマンススポーツまで)、断片的なスナップショットではなく、パフォーマンス、学習そして発達が相互に関連し、一貫性を持ち、それによりフィジカルリテラシー(身体的な能力と理解力) を支えるプログラムを開発することです。学習者と指導者は、ウェイファインディングの共同理解を深め、代表的な、つまり現実に即した共同設計という信念を共有します【36】。これにより、指導者が中心的な役割を果たし、学習者に問題解決のための指示を与え、継続的な再現と遵守のために逐次的なフィードバックを提供する、学習プロセスを機械的に捉える伝統的で階層的な学習者と指導者の関係から脱却することになります【37, 38】。この伝統的なアプローチは、指定された「最良」または「最速」のルートから外れた場合に、それを「間違った」道と示すナビゲーションデバイスに似ており、この考え方は、現在では移動手段(トランスポート)に近いものであり、ウェイファインディングを反映したものではないことが理解されています【10】。

スポーツのパフォーマンス環境は常に進化しています。この変化に対応するために、学習者と環境の相互作用を重視し、指導者は学習プロセスで学習者が利用可能なアフォーダンスを探求し活用できるよう促す練習環境を設計することができます。この意味で、「間違った」道は存在せず、学習者は設計された環境の中でパフォーマンス問題を解決するためのさまざまな可能性のある方法(つまり、「ルート」)に表されるシステムの縮退を探索し続ける機会があるだけです。そして、学習者は自分の行動能力や環境の制約に合った、当面のニーズと意図を満たす特定の解決策(つまり「目的地」)を自由に選択できます。 このようなアプローチの一例として、高度なパフォーマンスを求めるスポーツでは、指導者がラグビーやサッカーなどのチームスポーツにおいて、チームメイト間でより難しい、または創造的なパスを試みることを奨励する練習環境を設計し、学習者が相手の守備を突破する方法を探求し体験するように促すことが挙げられます。実際、これらのアスリートが他の練習場に(ウェイファインディングの文字通りの意味で)物理的に移動するわけではありませんが、対戦相手の守備を突破する方法を探すように、現在のパフォーマンス環境内で異なる領域や地域を探索して道を見つけるようなものであり、これは指導者によって操作される制約の変化によって形作られるプロセスです。

エコロジカルダイナミクスに基づいてウェイファインディングを教えるということは、指導者が学習者の環境に対する理解を深めるために取り組む、具体的かつ実践的なプロセスであり、その際、より専門的なパフォーマンス環境から、より一般的なパフォーマンス環境までの連続体にまたがるアフォーダンスを扱います。専門的で高度なパフォーマンス環境(連続体のより専門的な端)では、アフォーダンスはより少なく、より特定的であり、このタイプの練習は、エリートレベルのパフォーマンススポーツに適しており、エリートアスリートは、競技に近い環境から重要な情報を特定し、その検出能力を洗練させるために多くの時間を費やしています。一方、より一般的なパフォーマンス環境(連続体のより一般的な端)では、より多様で幅広いアフォーダンスが存在します。ここでは、体育の授業に参加する生徒たちが「動く方法を学ぶこと」に最大の時間を費やすことになります(【39】、p.8)。体育プログラムがより一般的であるほど、スキル適応や運動システムの自由度の間でのシナジー(再)形成の機会が増えます【9】。シナジー(再)形成の経験は、機能性をサポートするために、運動のアトラクター(協調の安定状態)の幅を広げます。つまり、運動の柔軟性が高まることで、子どもたちは出現する問題をより効率的に、創造的に、適応的に解決できるようになり、彼らにとっての相互作用の機会が増えます。学習者のためのこの再形成されたアトラクターの環境は、子どもたちが複数のスポーツや身体活動の環境で熟達し、自信を持つようになる可能性を高めます(つまり、パフォーマンス環境の中でさまざまな問題を積極的に自己解決する方法を学びます)。より専門的なパフォーマンス環境では、エリートアスリートは、競技中の外乱に対してより抵抗力のある安定して深いアトラクターベル(スキルや動作の安定したパターン)を作り出しながらも、内在する柔軟性を保つことができます。

スポーツ指導者は、探究型指導、戦術ゲーム、協同学習、発見学習、問題解決(problem-solving)など、適切な指導スタイルを使用することで、学習者が特異性-一般性の連続体のどこに位置していても、パフォーマンス環境に関する学習者の知識を深め、ウェイファインディングを促進することができます【40】。これらの多様な指導スタイルは、学習プロセスの中心に学習者と環境の相互作用を置き、学習者がパフォーマンスを通じて、適応し、自分自身のニーズに最も合った動きの解決策を創造することで、実験的な学びを促進します。また、学習者は、指導者が活動に慎重に設計した問題を通して、ウェイファインディングを学んでいきます。熟練した指導者は、特定の質問【41】を使うことで、学習者が外部に注意を向けられるようにし、学習者の自己組織化傾向を活かして、特定の課題目標を達成するための動きをコーディネートできるように学習体験を向上させます【42】。

質問を使う方法は、スポーツの学習プロセスをウェイファインディングと考えるとき、非常に効果的です。さらに興味深いこと、質問は何世紀にもわたって人間のスキルを教育する手段として使われてきました【10, 35】。特に、何もないように見える北極の風景において、周囲の温度や風向・風速のわずかな変化によって生じる雪の性質や形状の微妙な変化に個人の注意を向けさせる注意深い質問を通じて、巧みなウェイファインディングが教えられてきました【10, 35】。未知の地域であっても、この情報豊かな雪の形成(ギブソン的視点ではアフォーダンスとして位置づけられます)の検出と利用を、質問を通じて教えることで、経験の浅い狩猟者でも道を見つけることができるようになるのです【10, 35】。私たちは、この事例が、スポーツにおける指導者が質問を使って学習者の注意を教育する方法と同じだと考えています。たとえば、クリケットでボウラーの指のボールへの置き方や、ホッケーの試合中のディフェンダーの位置を検出することです。 この情報の検出により、選手は自分の動きを(再)組織化し、パフォーマンス環境の未知の領域、つまり、新たに生じる予測できないパフォーマンスの問題を解決するために、それを活用して道を見つけることができるようになります。

ここで重要なのは、質問に対する答えは口頭での回答(ギブソンの環境に関する知識の概念を反映)ではなく、行動の(再)組織化(シナジーの再形成)の機会によって答えられるべきだという点です。このように、教育者やメンターは学習者のために問題解決(つまりナビゲート)をしているわけではなく(パーソナルGPSデバイスのように振る舞うのではなく)、情報豊富なアフォーダンスに注意を向けさせることで、環境のニッチに関する知識を深めさせ、ウェイファインドを手助けしているのです。言い換えれば、質問の使用は、ウェイファインディングを支える行動機会の知覚と活用に向けて学習者の注意を教育する基盤として機能する可能性があるということです(注意の教育に関する詳細な洞察については【43】を参照)。したがって、スポーツの指導者は、見なければならないものを教えるのではなく、慎重に設計されたパフォーマンス環境を通してどこを見るべきかを示すことによって、ウェイファインダーの探求を導き、教育する「道を示す者」と見なすことができます。

この論文の残りの部分では、スポーツにおける学習をウェイファインディングとして位置づけ、異なるアスリートの発達段階において、指導者がどのように学習者が(環境の領域として位置づけられる)未開のパフォーマンス関連の問題を自分で積極的にナビゲートできる環境を設計できるかを示す例を紹介します。具体的には、実践者がウェイファインディングの概念に導かれた学習デザインを実行した、アフォーダンスの連続体の両端から 2 つの例、つまり体育のカリキュラム内の学習デザイン (一般性) とハイパフォーマンススポーツの環境での学習デザイン(特異性) を示します。ただし、これらの例を詳述する前に、私たちのウェイファインディングの適用が、物理的な環境内の移動を伴う文字通りの意味ではなく、エコロジカルダイナミクスに基づいていることを強調しておきます。むしろ、ウェイファインディングを、学習者が環境の中で情報を探し、検出し、それを活用して進化する環境内の領域に位置づけられるパフォーマンス関連の問題を解決(つまりナビゲート)するためのプロセスとして捉えています。


例 1 — 一般性:幼児期の体育教育におけるデザイナーとしての教師とウェイファインダーとしての学生

幼稚園や初等教育の体育の授業において、私たちは、ほとんどの時間を連続体の一般性の端に費やし、特異的な実践には少ない時間を費やすことを推奨します。たとえば、体育のために着替えや準備をしたり、教室で並んで遊び場(体育館など)に入る準備をしたりすることです。子どもたちが遊び場に入ると、教師はその連続体の一般性の端に時間を費やします。そこで、慎重に設計されたカリキュラムは、時間的およびリズミカルな動き(ダンスなどを通じて)、姿勢制御やバランススキル(たとえば、体操を通じて、転がったり、跳んだり、重力に逆らった動きなどを通して)、および手と目の協調(たとえば、ボールゲームを通じて)の発達をサポートするために、充実した個人的に挑戦的な問題(ナビゲートすべき領域)を提供することができます。このような充実したプログラムの集大成として、子どもたちは自らの動きの特徴を発達させながら、パフォーマンスの主要な要素である安定性、柔軟性、リズム、敏捷性、パワーを発達させます【44, 45】。これらの子どもの行動能力への進歩的な変化は、ウェイファインディング行動を支える「新しい」相互作用の機会を提供する可能性があります。たとえば、より顕著な手と目の協調能力を発達させた子どもは、ボールゲームにおいて介入的な行動を必要とする新たな問題を解決するためのウェイファインドの機会が増えるかもしれません【39】。

ウェイファインディングをサポートするために、教師は子どもに対して、何をすべきかを具体的に教えるのではなく、例えや共通のテーマに基づく質問を用いて、問題解決や探索を促すことができます。例えば、野生生物をテーマにした授業では、子どもたちがヘビになりきり、床に近づいて体を動かしたり、器具の上や下をくぐったりすることで、環境を異なる視点から認識できるようにすることができます。また、他の動物についての知識を探求することで、遊び空間の環境に対する認識の変化に合わせて、対照的な動きの機会を得ることができます。

例えば、サルを例えとして用い、子どもたちが自分たちの環境の「高い」場所をウェイファインドできるように手助けできます。子供たちは手足や腕、脚を使って、バランスを取ったり、ぶら下がったり、異なる障害物の間を渡ったりして、自分の環境を「ナビゲート」することが促されます。このようなアフォーダンスの環境は、連続体の中でも一般性の端に近い部分に位置します。なぜなら、特定のスポーツに依存せず、課題に対する具体的な制約がほとんどないため、子どもたちが自分の行動能力の範囲内で多様な機能的な動きを示すことができるからです。このようなより一般的な運動経験は、子どもたちが豊富なアフォーダンスを利用できる多様な環境の中で、継続的なシナジーの(再)形成を通じて、動きを学ぶ機会を提供します。

授業内で共同設計されたミニゲームも、例えや質問のような指導方法と組み合わせることで、ウェイファインディングを促進することができます。例えば、子どもたちはヘビが宝物(お手玉)を川(体操マット)を越えて運ぶという想像力豊かなゲームを作るかもしれません。教師は、宝物を濡らしてはいけない(お手玉をマットや床につけてはいけないルール)というような情報的な制約をゲームに追加し、また子どもたちが宝物を運ぶために、サルに見つからないように別の方法で水を渡らなければならないというルールを設けることができます。このような活動は外部に注意を向けさせる一方で、問題解決が活動の中心にあり、機能的な動きの解決策の想像力豊かな(再)組織化を必要とします。このアプローチでは、外部から「正しい」または「最適な」動作の解決策が示されることはなく(処方的な問題解決方法の反映)、むしろ、教師は課題の制約を変更したり、課題の目標を変えたりして、学んだスキルを不安定にし、学習プロセスに常に変化を加えることで、学習を促進します(学習者の環境の中の領域を再構築する)。この指導法がうまくいけば、学習者は新しいアフォーダンスを認識し、それを利用してスキルを適応させるようになり、パフォーマンス環境の新しい未知の領域に挑むことができます。このような操作は教師の裁量に委ねられていますが、子どもたちが同じ課題に対して異なる動作解決策を示すこと(異なる「ルート」で同じ「目的地」に到達すること)が許容されること、そして制約が変わる(器具の変更など)とスキルが一時的に退行するのは避けられないということを教師は理解することが重要です。また、スキルが機能的で、授業の成果(子どもたちの意図を満たす)を達成している限り、その解決策はウェイファインディングの目的には許容できるものであるということを心に留めておくべきです。


例2 — 特異性: 高パフォーマンススポーツにおけるデザイナーとしてのコーチとウェイファインダーとしてのアスリート

上記とは対照的に、高パフォーマンススポーツにおいて専門化を進めているアスリートの場合、大部分の時間を連続体の特異性の端に費やし、一般性の側には少ない時間しか費やさないことを推奨します。例えば、より一般的な練習デザインは、アスリートに多様で創造的な問題解決の方法を探求する機会を与えるかもしれません(パフォーマンス環境の非常に異なる領域をナビゲートしながら)、それは安全でありながらも依然として不確実な状況の中で行われます。 連続体の特異性の端では、コーチは意味の豊かなパフォーマンス環境(つまり、競技で経験する制約を表現するもの)をデザインし、アスリートが特定のパフォーマンスに関連する問題を解決するのに役立つより微細なアフォーダンスの性質を特定する能力を微調整できるようにします。このデザイン目標を達成し、アスリートのパフォーマンス環境内の特定の領域に関する知識を深めるために、コーチは制約の操作や適切に狙いを定めた質問などのさまざまな教育的手法を使用することができます(前述の例で論じられたものです)。これらのアプローチが適切に使用されると、アスリートはパフォーマンスの中でより積極的に自己調整し、アフォーダンスの環境で最も引き寄せられるものに対して注意を払い、情報を検出し、利用し、活用することができます(図1に示されている通りです)。

この例では、クリケットのコーチが打者とそれに続くバッティングチームが、規定された投球数の中で特定の数の得点をするという課題(パフォーマンス環境)をデザインしています。この微妙な違いを加えたチャレンジは、T20(20オーバー)ゲームの後半、フィールドチーム(守備チーム)が得点を防ごうとしている状況を描いて用いられる場合があります。打者は物理的に景観の異なる地域を移動しているわけではありませんが、このようなタスク設計は(比喩的に)ウェイファインディングを可能にします。なぜなら、打者(およびバッティングチーム)は、動的でおそらく未踏の領域(つまり問題)をパフォーマンス環境の中でナビゲートし、全体的な問題(規定された投球数の中で対戦相手を上回る得点をしてゲームに勝つ)を解決する必要があるからです。このパフォーマンス環境は非常に動的であり、ミスショットやウィケット、フィールドチームによるパワープレイの使用、ボールの配置、天候や光の変化などの制約が、打者が得点する方法を絶えず形作り(または制約し)ます。つまり、打者が対峙するボールはすべて彼らにとって「新しい」領域です。さらに、この環境設計は、バッターに対して激しい守備のプレッシャーの中で絶えず得点する方法を提供する情報を探すことを即座に促します。

打者の探索を導くために、コーチは、打者が好むヒッティングゾーンにフィールダー(守備)を配置することでフィールドを操作することができます(実際の試合で守備側が採用する戦略を模倣した方法です)。この環境の操作は、打者にフィールダーがどこにいるかを認識させ、その位置を避けて得点するショットを打つよう挑戦させます。さらに、フィールダーの位置が変わることで、打者の得点方法に対する認識も変わり、(比喩的に)パフォーマンス環境に対する視点が変わります。フィールダーの位置認識をさらに促すために、コーチは打者にフィールダーがどこに配置されているのか、フィールドの配置に基づいて投手がどこにボールを投げるか、そして特定のフィールドの隙間をどのように利用してショットを適応させるかを質問することができます。それぞれの質問で、コーチは打者がフィールド内で、タスク目標を達成するために最も効果的なアフォーダンスを特定できるよう手助けすることで、打者の知識を深めようとしています(つまり、彼らに自分の認識、感情、行動を積極的に自己調整することを教えているのです)。コーチは打者に何を見ればいいかを直接指示する必要はなく、代わりに「どこを見るべきか」を理解させることでウェイファインディングを促します。これは、打者にどのショットを打つべきか明確に指示していないため、打者は直面するさまざまなフィールド(問題)の中で自由に行動を探求できるからです。例えば、打者がミスショットした場合、次のボールでよりリスクの高いショットを試して、より多く得点しようとするきっかけになるかもしれません。これは、打者が絶えず変化するフィールドの中で、自分の道を見つけ出さなければならないことを示しています。したがって、学習プロセスは、コーチが動的な問題(未踏のフィールド)を含む特定の練習環境をデザインし、さまざまな教育的手法(ウェイショウイング)を用いて打者の探索を導き、その後、打者が自らの行動能力に基づいて情報を検出し、最も適したアフォーダンスを利用しながら、その問題を通してウェイファインドできるようにすることで成り立っています。


両方の例の要約

特異性-一般性の連続体の異なる端に位置しているにもかかわらず、両方の例でスポーツ指導者は、アフォーダンスのデザインと、個々の選手がシナジーを(再)形成する機会を提供するという同じ原則を採用していました。したがって、スポーツにおける学習プロセスがウェイファインディングを通して捉えられる場合、指導者は学習者のために事前に決められた「ルート」を地図のように描く必要はありません。また、学習者を「自分で解決しろ」という開かれた指示やガイドのない状態でパフォーマンス環境に置く必要もありません。むしろ、両方の例では、学習者にとって意味のある豊かなパフォーマンス環境がデザインされており、指導者は、学習者が多様な問題(環境の領域)をナビゲートしながら、自分の認識、行動、認知、感情を積極的に自己調整できるように促していました。学習者をウェイファインダーとして位置づけ、スポーツにおける学習プロセスをウェイファインディングとして捉えることで、(連続体のどの端に位置していても)指導者は両方の例で学習者の相互作用を促す活動をデザインすることが求められました。このアプローチにより、学習者は運動システムの自由度を常に再組織しながら、環境内の未踏の領域(つまり問題)をナビゲートするために役立つアフォーダンスを認識できるようになります。 この視点から、学習者は環境とのつながりを継続的に深める生涯にわたる旅に乗り出しているので、環境のニッチ内で「迷子」になることは決してない、と私たちは主張します。

さらに、学習者は、自分が選んだ「ルート」に沿ってタスク目標を達成するための行動の機会を示す情報を検出しながら、安定した動きのパターン(運動システムの要素によって形成されるシナジー)を巧みに適応させる方法を学んでいます。


結論

冒頭のM.R.オコナーの引用で強調されているように、巧みなウェイファインディングは、個人が環境につながることによって行動を自己調整する方法を学ぶ、具体的(身体的)かつ埋め込まれたプロセスです。このつながりを通じて、個人はその環境の多くの微細な違いを検出し、経験することを学び、これらの環境の微細な違いを利用して、環境内の未踏の領域をうまくナビゲートする方法を理解します。

より単純に言えば、「旅」こそがウェイファインダーが自分の道を見つけるために利用する知識の成長に必要なものです。この解説の意図は、スポーツの指導者や応用科学者にこの概念を紹介し、ウェイファインディングとエコロジカルダイナミクスの視点での学習者および学習プロセスの理解が一致していることを示すことでした。実際、私たちの提案は比喩的な性質が強く、個人がナビゲートする方法を学ぶ地域や領域をパフォーマンスの問題として、より広い環境をスポーツのタスクや活動と概念化しました。したがって、私たちのウェイファインディングの視点は、個人が動的なパフォーマンス環境をナビゲートする方法を学ぶ根本的なプロセスにより適しており、これらのプロセスをエコロジカルダイナミクスの視点からスポーツにおける学習者の理解と結び付けています。このようにスポーツにおける学習者の理解を再構成することによって、指導者はパフォーマンス環境のニッチとのつながりを深める学習デザインをより適切に実行できると主張します。この意味で、学生やアスリートは、人間が高度なテクノロジー支援を用いずに世界をナビゲートする方法を学んだのと同じように、遭遇していないパフォーマンス関連の問題を継続的に自己調整することを学びます。なぜなら、ナビゲーション、スポーツ、または人生において「...ウェイファインディングは出発前に知っていることではなく、進むにつれて知ることである」からです【10】。


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訳者あとがき

お疲れ様です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
ここからは有料記事になりますが、正直大したことは書いておりません。
(訳すのにかなり時間がかかったので、)もしよければ朝ごはんをおごる気持ちで応援していただければ今後の励みになります。

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