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第2章 ジュニアスポーツにおける親の過干渉とその多面的な影響~ジュニアスポーツと保護者~

The Anonymous Coaching Knowledge は、効果的なコーチングに必要な知識とスキルを提供するシリーズです。

導入

ジュニアスポーツの現場では、子どもたちの成長を願う親の熱心な応援は欠かせない要素です。しかし、その熱意が過度な干渉へと変わり、子どもたちの心身やチーム全体に悪影響を及ぼすケースが少なくありません。「過干渉」とは、親が子どもの自主性や自律性を尊重せず、過度に介入し、コントロールしようとする状態を指します。例えば、試合中にベンチから絶えず指示を出したり、練習方法やチームの戦略に口出ししたり、他の選手やコーチを批判したりする行為などが挙げられます。

ある少年野球チームでは、試合中に常に大声で指示を出す父親がいました。その指示は監督の指示と異なり、子どもは混乱し、委縮して本来の力を発揮できませんでした。また、サッカークラブでは、レギュラーになれないことに不満を持った母親が、監督に抗議するだけでなく、他の保護者にも不満を言いふらし、チームの雰囲気を悪くしていました。

本章では、心理学、社会学、教育学の観点から、ジュニアスポーツにおける親の過干渉が子どもたちの心理状態、対人関係、そしてスポーツパフォーマンスに与える多面的かつ複雑な影響を分析します。

本論

子どもへの心理的影響

  • 自尊心の低下: 過度な期待や他の子どもとの比較は、子どもの自己肯定感を著しく低下させます。「もっと頑張れ」「あの子に負けるな」といった言葉は、子どもにとってプレッシャーとなり、「自分はできない」という無力感を植え付けます。常に親の評価を気にするようになり、自分自身を肯定的に捉えられなくなります。

  • 内発的動機づけの低下: 本来、スポーツは楽しむものであり、内発的な動機づけ(「楽しいから」「もっと上手くなりたいから」という気持ち)が重要です。しかし、親の過干渉によって外発的な動機づけ(「親に褒められたいから」「怒られたくないから」という気持ち)が強まると、スポーツ本来の楽しさが失われ、やらされ感が強くなります。

  • ストレスと不安: 過度なプレッシャーは、子どもに深刻なストレスと不安をもたらします。試合前になると緊張で眠れなくなったり、食欲不振になったり、腹痛を起こしたりするケースも見られます。常に失敗を恐れるようになり、本来のパフォーマンスを発揮できなくなります。

  • バーンアウト: 長期間にわたる過度なプレッシャーは、燃え尽き症候群(バーンアウト)を引き起こす可能性があります。これは、心身の疲労困憊、感情の枯渇、達成感の喪失などを特徴とする状態です。スポーツに対する意欲を完全に失い、競技を辞めてしまうこともあります。

対人関係への影響

  • コーチとの関係: 親がコーチの指導方法に口出ししたり、選手起用に不満を述べたりすると、コーチとの信頼関係が損なわれます。子どもは親の言葉とコーチの言葉の間で板挟みになり、混乱し、どちらを信じていいかわからなくなります。また、親の態度が子どもに影響し、コーチの指示に反抗したり、コミュニケーションを阻害したりする可能性もあります。

  • チームメイトとの関係: 親が自分の子どもばかりを特別扱いしたり、他の選手を批判したりすると、チームメイトとの間に不和が生じます。いじめや孤立につながることもあります。また、親の過度な競争意識が子どもに伝染し、チーム全体の協調性を低下させることもあります。

  • 家族関係: 子どものスポーツ活動に親が過度にのめり込むと、家族関係にも悪影響が及ぶことがあります。親は子どものスポーツのことばかりを考え、他の家族とのコミュニケーションが不足したり、兄弟姉妹が疎外感を感じたりすることがあります。また、子どもの成績によって家庭内の雰囲気が左右されるようになり、家族間の関係が悪化することもあります。

スポーツパフォーマンスへの影響

  • 逆効果: 過度なプレッシャーは、本来のパフォーマンスを妨げる要因となります。緊張や不安によって集中力が低下したり、体が硬くなったりし、ミスが増えることがあります。また、失敗を恐れるあまり、思い切ったプレーができなくなることもあります。

  • 柔軟性の欠如: 親から常に指示を受けている子どもは、自分で考え、判断する力が育ちにくくなります。新しい技術習得や戦術への対応が難しくなり、状況に応じた柔軟なプレーができなくなる可能性があります。

  • スポーツに対する興味の喪失: 親の過干渉によってスポーツが「楽しいもの」から「苦しいもの」に変わると、スポーツそのものに対する興味を失ってしまいます。結果として、競技を早期に辞めてしまうことにつながります。

チーム全体への影響

  • チーム内の雰囲気: 親の過干渉が蔓延すると、チーム内に緊張感が高まり、不健康な競争意識が蔓延します。選手同士の信頼関係が損なわれ、チームワークが低下します。

  • チームの成績: 短期的な成果にこだわるあまり、長期的な選手の育成が疎かになることがあります。目先の勝利にとらわれ、基本的な技術や戦術の習得を軽視するような指導が行われることもあります。

  • コーチの負担増加: 親とのコミュニケーションやチーム内のトラブル対応に多くの時間を費やさなければならなくなり、本来のコーチング業務に支障をきたします。コーチが精神的に疲弊し、指導意欲を失ってしまうこともあります。

まとめ

本章では、ジュニアスポーツにおける親の過干渉が子どもたちの心身、対人関係、そしてスポーツパフォーマンスに与える多面的かつ複雑な影響について論じてきました。過干渉は、子どもの自尊心を低下させ、内発的な動機づけを阻害し、ストレスや不安、バーンアウトを引き起こす可能性があります。また、コーチやチームメイト、家族との関係にも悪影響を及ぼし、スポーツパフォーマンスの低下やスポーツへの興味喪失につながることもあります。さらに、チーム全体の雰囲気や成績、コーチの負担にも影響を及ぼします。

過干渉を防ぐためには、親教育プログラムの実施やコーチングのあり方の見直しが必要です。親は、子どもの自主性や自律性を尊重し、過度な期待や干渉を控えることが重要です。コーチは、親との良好なコミュニケーションを図り、チームの方針や指導方法を丁寧に説明することで、親の理解と協力を得ることが大切です。また、子どもたちがスポーツを心から楽しめる環境を提供することが、最も重要な課題と言えるでしょう。今後の研究では、文化的な背景やスポーツの種類による影響の違いをさらに詳細に分析していくことが求められます。

お知らせ


ジュニアスポーツと保護者シリーズの第4章以降は、定期購読で公開予定です。全10章の予定となっています。
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