【TOLOPANの真髄に迫るvol.30】冷めたときの完成を目指した、モチ食感の本格派カルツォーネ
カルツォーネとは、簡単にいえばピッツァを折りたたんだもの。
ピッツァを三日月型に成形して両面焼きにし、
メインの具材としてトマト、モッツァレラチーズを入れる。
モッツァレラには「ストッキング」「ズボン」「靴下」などの意味がある。
見た目や作っている過程から連想して名付けられたのだろうと勝手に想像を膨らませている。
ピッツァとは小麦、塩、水、酵母で作るもの。
そう、使うものはパンと全く同じなのだ。
しかしピッツァをパンと同じ括りで考えている人は少ない気がする。
素材だけみたらパンなのに、「ピッツァ」というジャンルを確立している。
他のパンでもこういう現象がよくあるものだ。
例えば、クロワッサンやブリオッシュ。これらもパンなはずなのに、パンというよりも「クロワッサン」「ブリオッシュ」の方がしっくりくる。
それは特別な想いのようなものが隠されているのかもしれない。
トロパンではピッツァではなく「カルツォーネ」を置いている。
なぜ、タルティーヌやピッツァではないのか。
それはテイクアウトでの劣化対策に焦点を当てたからだ。
パン屋では、パンを買った後いつ食べるかは自由なもの。タルティーヌやピッツァは、表面に出る具材の華やかさで惹きつけることができる一方で、具材が常に空気にあたってしまうため乾きやすい。具材が乾きしなびていけば、時間が経って食べるときに美味しく感じられないはず。その点カルツォーネは中に何が入っているかが見えないものの、折りたたんだ形状のため劣化対策はばっちり。見た目の華やかさをとるよりも味が美味しい方が、中長期的にみたら人は離れづらい状況になると確信していた。
また他のパン屋さんを覗いてみると、
カルツォーネではなく「パンピザ」を置いているところが多いように思える。
ではなぜトロパンでは「パンピザ」ではなく、
ナポリピッツァと同じ括りの「カルツォーネ」にしたのか。
これは逆にパンピザを置いているお店に、なぜパンピザを置いているのかを聞いてみたいものだ。パン屋さんは粉の種類、酵母の種類、発酵のとり方まで理解している。それなのに、なぜ本格的なナポリピッツァにはいかず「パンピザ」というお菓子のような嘘ものに走ったのかと聞いてみたい。
これはオーブンの熱量の問題や、あくまでもパン屋さんで買うピザというニーズにあわせたこと、パンピザが生まれた当時は発酵コントロールのバリエーションが少なかったことなどの理由があるのではないかと予想している。
ここからはトロパンのカルツォーネについて。
配合はポイントだけお伝えしようと思う。
粉は府金製粉の「もち姫」を5%入れている。
アミロペクチン含有量がもち米と同様で、アミロースが少ないのが特徴。これを入れることでモチ感が出る。しかし入れすぎると焼成中80°Cを超えた時、水に溶けたアミロースが流れ出してデンプン粒とデンプン粒の繋ぎの役割を果たす。逆に少ないと繋ぎがない分、気泡が潰れるように維持ができなくなるので5%の配合にしている。
劣化対策として上白糖を1%配合。
塩は元々2.4%にしてたが、最終的には2.25%にした。
塩2.4%だと、熱々で食べた時に抜群の塩気となる。ただテイクアウトを考慮して、冷めた時に美味しく感じる2.25%にしている。
ミキシングは極力捏ねないように。モチ感だけが残りヒキの原因にはしたくないからだ。
トマトソースは、裏濾しした液体のみを使用。にんにくを使わず、クミンで香りづけをしているから仕事中でも召し上がっていただけるはず。
モッツァレラは冷凍のダイス状のものを。風味のために入れているので、たっぷりと包んでいる。
さらに味のアクセントとして2つの要素を潜ませている。
一つはクリームチーズとゴルゴンゾーラをあわせたペースト。これをを端、真ん中、端に置いて、香りと旨味の強い部分を作っている。
そしてピッツァといえば王道のフレッシュバジルを。ちぎって合計4ヶ所に入れている。メチルチャビコール、リナロール、オイゲノールを含むため、トマトとの相性が抜群なのだ。
焼成は僕の相棒UNOXの出番。
重要なのは表面の粉の香り、軽さとモチ感。フィリングと生地の間のほんの少しの甘みとレア感。高温で蒸気を入れ一気に持ち上げ無風を作り、その時間もなるべく短くしてまた一気に高温焼成をして5分30秒焼き上げる。オーブンの蓄熱版のおかげで濡れない蒸気と熱量が保てるからこそできる焼成だ。
「カルツォーネ」を作るときに思うのは、
やはり僕たちはテイクアウトのパン屋だということ。
冷めて風味が落ちたときにこそ、真っ向から味で勝負ができる。
これはどこか人生を重ねる過程と似ているとは思いませんか?