【TOLOPANの真髄に迫るvol.28】ゴーフルの思い出から生まれた桜あんパン
何故、あんパンを平たくしたの?
とお客さまからよく聞かれる。
平たくしたのは祖母の影響が大きい。
僕の生まれは西宮市の阪急宝塚線の「門戸厄神駅」裏に住んでいた。門戸のおばあちゃんのお仕事はお琴のおっしょさんであったために、よく和菓子や洋菓子を貰ってきてくれた。特にいつもあった茶色の綺麗な缶、その中身は「神戸風月堂」の「ゴーフル」だった。
パリパリっと小気味の良い音と食感。
そして甘いクリーム。
子どものころの小さな手には
大きく見えたゴーフル。
いろりや土間のある小さな家で食べた記憶の中には、子どもながらに凛とした優しい安心感が残っている。思い出は大人になった今でも頭の中に情緒になって、現れる。
桜あんぱんは7,8年前の桜の時期に開花した商品だ。あの当時は忙しくというよりも、まだ実力不足で追われている最中だった。そんな中でも、桜を見にきてくれるお客さんにわかりやすい季節ものをトロらしく出したいと思い試作した。アイデアや道に詰まるといつも頼れるものは決まって、親、祖父母の「限りなく自由である」という考え方だ。それを思いおこすと形式にとらわれずに、自分の思い出をパンで再現できるようになる。
桜あんぱんは今年からは違う生地にリニューアル。昨年までは「モダあん」の生地で、卵の入らないブリオッシュ、バターを中心にブルーノワゼット臭がたつものであった。焼きの感じと見た目はゴーフルだったのだが、フィナンシェのような香りがリッチすぎて桜あんとの味のバランスが気になってリニューアルに至った。
桜あんは毎年決まって石川県のナカノフーズさんの桜あん。白生餡と桜花漬、桜葉の風味と塩の感じと舌触りで、これぞ和の塩梅だと思い使わせていただいている。
では生地をどうリニューアルしたのか。
まず少しイマフンの全粒を入れる事での香りと食感、サワーとルヴァンリキッドを使ってエステルを作りやすくする。バター50%卵不使用の生地に対し、バターの香りが直球で活きる生地にしていく。サワーやリキッドからのエステル乳酸発酵の香りをあわせて起こる芳香は、優しいフロマージュの香りだけ引き出す。バターのみ使用したブリオッシュの欠点は、劣化した時に「においの戻り」や「酸敗」だった。そこで林原のトレハロースを使用するように変更し脂質変敗の抑制につなげた。脂質のうち弱い二重結合部分を持つ不飽和脂肪酸は変質しやすく、酸素に触れると酸化が進みすぐに不快な臭いを放つ。この不快なもとは揮発性アルデヒドの発生によるものだ。あと、トレハロースには「ガラス化」という特徴がある。加熱により低水分になると、食品の表面を保護し酸素から油脂を守ってくれる。だから砂糖の量を極力落とし、きび砂糖3%の配合が可能になった。
油脂を多く使用した生地でただ単に砂糖を減らすことは変敗の原因になるため、テイクアウト商品においてやみくもに糖を減らすのは危険だ。
焼成では、もともとは天板でプレスして以前のオーブンで20分ぐらいかけて焼いていた。しかしUNOXオーブンは蓄熱板が入っている事もあり、予熱高めで下げて天板を外してから一気に昇温させるやり方が可能だ。しっかりと焼き上げるのにかかるのが15分に短縮された。
ゴーフルとは少し違う、まわりがカリカリッと歯切れ良く硬くはなく、はみ出した焼かれた餡がたい焼きを思わせるような生地。薄く焼かれた間の桜あんは生地50に餡50g。全面に入っていて、ここに関してはまさにゴーフルそのもの。塩梅のとれた餡に、生地の食感や風味もいい塩梅がとれた。
小さいころの思い出から生まれた桜あんぱん。
職人としてまだまだの途上の中、
祖父母を想い「自由に駆け巡らせてもらうよ」
と、心の中で伝えたい。