【TOLOPANの真髄に迫る vol.15】理想のテクスチャーを追求した生地ベースのキッシュ
トロパンでキッシュを始めたのは2年前。
コロナになってからのことだった。
世の中が、旅行に行けなくなったこと。
自分自身が、海外に行きたいこと。
そんなきっかけから、トロパンのキッシュを構想した。それも、あくまで生地をベースにしたキッシュ。
考える上で、まずは縛りを取っ払った。
アパレイユやメイン都市という縛りを取る事で、イタリア、スペイン、南アジア、南米と様々な地方の地元料理をベースの生地に合わせたり、キャロットケーキやチーズケーキ、ガナッシュなどのデザート系を作ってみたりと様々なアイテムが生まれた。
「これ、キッシュなの?」
と聞かれれば、違うかもしれない。
しかし、キッシュで一番大事なのは
「生地」だと思い、こだわりたい。
特にテイクアウト。
タルトにしてもデニッシュにしても、
底の生地が泣いてしまってはいけない。
それでは何を食べてもテクスチャーの部分を美味しくは感じられない。
なので、僕は生地をベースに考えたキッシュ作りを始めた。
理想のテクスチャーとは?
パリッパリ。カリッカリ。
1日経っても泣いていない、薄い生地。
デニッシュで、それでいてラスクのような食感。
これを実現した上で、フィリングの濡れ感を活かすことができるのは「デニッシュ生地」だと確信していた。
まずは、クロワッサンの生地を2mmまで伸ばし、φ240mm、高さ50mmのセルクルに合わせる。
一番重要なのは焼成。デッキオーブンの輻射ではなく、強制対流と間接加熱が伴い、ダンパーを開けての水分の抜けも良いことからスチームコンベクションオーブン(UNOX)の選択が決まる。
当初の試作から、感触としては悪くない。
冷めたても理想的だった。
ただし10時間経過したものに納得がいかない。
底が泣いていて、高さのある部分の生地はフワフワになってしまった。
味の面でも、冷めた時が特に気になった。
クロワッサン生地が冷めると、バターの重さとフィリングの塩味が湿った生地のテクスチャーと相まって重たくなっていた。
焼成も、生地も、失敗。
生地の良くなかった点は、バターの強さ。
では、量を落とせば?
と思った時に閃いたのは、クロワッサンとパンオショコラを折る時に出る端の「残生地」。
クロワッサンには、グラニュー糖。
パンオショコラには、きび砂糖。
これも混ざるとより複雑になる。
一番にテクスチャーの部分に着目すると、一直線に落とした、細い生地を伸ばす前の並べ方が大事になる。
キッシュの生地の周りの部分には、バターの層がたくさん入っているところ。中心部分には、逆にバターの少ないところ。
断面がむき出しになっている残生地では、特に焼成時にバターが流れ出す。これが狙いだ。
狙って流して揚げ焼きにする事でのラスク感。
中心にくるバターの少ないところは、焼成時間を伸ばすことでクリスピー感を生み出せるはずと仮説を立てる。
「揚げ焼きになる条件」
「クリスピーになる時間」
「卵が入るアパレイユを入れてからの、スチームを入れながら下げた温度帯とスチーム量」
「空焼きと本焼きの時間」
空焼きは、残生地の残糖量にもよるが、予熱実戦180℃でダンパーが100%。
115℃に落として、1時間半。
低い設定からの窯入れは温度が上がりづらいところを狙い、徐々に落ちていき、100℃〜115℃で生きた生地からラスク状態の空焼きがスタートし、約20分で落ちきる。
これで丁度良い食感になる。
そしてアパレイユを入れて125℃〜135℃でスチームを30%出して焼く。これは直接対流からの表面温度を落とし、卵にスが入らないようにするため。
それを大体、50分〜60分。
最後に高温のオーブンに2〜3分入れると、バターが流れ出しクリスピーな底に溜まり、揚げ焼きが成立する。
そして流れ出た油脂が時間経過して酸化しないように、水の切れの良いクックパー(旭化成)をグリルに敷いて、移し替え。
この最後の何気ない移し変えが商品の美味しさの決め手になる。
また、試食。
冷めたてでの比較でも明らかに良い。
生地とフィリングとのテクスチャー差がでていて、第1食感での咀嚼音から食欲が上がる。
10時間経過。変わらず。
18時間経過。風味が少し落ちる程度。
僕は、イートインで食べるキッシュをテイクアウトでも表現するという理想を実現できた。
フィリングの惣菜の方は、代田の信頼のおけるシェフ宇野が全てを担当してくれている。
(ので、代田にもぜひ足を運んで楽しんで欲しい。)
今の理想を具現化でき、満足はしている。
が、次の課題はカリカリに焼いても割れない厚み。
2mmを1.5mm にするだけ。
しかし、この0.5mmがより理想になっていくように思える。
理想とは、すぐに達成できないもの。
理想を無限化するのは、
自分の好奇心と持続する忍耐力
によるものだと僕は思う。