【TOLOPANの真髄に迫るvol.37】バター醤油の余白を残した、70点のコーンパン
僕の好きなコーンパンは、
ドンクのハードタイプのもの。
ドンクの仁瓶さんが生み出すコーンパンは、すごく素朴だ。コーンの甘味を感じやすく、歯切れがいい。それでいて咀嚼させる生地だから、小麦の香りも楽しめる。なんとも絶妙なバランスだと思う。
デュヌラルテのオープンから2年と少し。
グランドメニューの「マイス」は、完全に引き算のコーンパンだった。コーンのプチプチと弾ける食感と旨味。生地、質、香りどれをとっても素晴らしいのだが、特にコーンのプチッと感が秀逸だった。
使っていたコーンは、缶詰の「グリーンジャイアント」。水分がとても少なく、生のコーンよりもプチっと感があり、甘味が強いのが特徴だ。
納品が来たらまず、1個ずつ缶詰をダスターで拭き上げ逆さにして棚に置く。これはシルバーの部分の擦れから出る黒ずみの鉄くずをぬぐい、逆さにすることで水分を全体に回す作業だ。仕込みで使用する直前でまた拭き上げ、逆さを戻して一気に缶を開けていく。
コーンの選択に妥協なく、缶詰を置く、開けるだけでここまでベストを追求し作業をする井出シェフの姿は神がかりだった。
そんな思い出がふと蘇った。
僕がトロパンでイメージしたコーンパンは、
まさに「とうもろこしごはん」だ。
とうもろこしごはんには、
オプションを楽しむ醍醐味があると思っている。
オプションの代表格はバター醤油。
甘みのあるとうもろこしがひょっこり顔を出すほっかほかのごはんに、コク深いバターの風味と香ばしい醤油の塩気が染み渡る。それはもうとにかく絶品だ。
これをパンに置き換えると。
厚目にスライスしたパンを軽くトーストして。あっつあつの表面に、バター1欠片、醤油をたらりと。
こんなふうに、ペアリングを楽しむコーンパンにしたい。
だからあえて完成品は70点の仕上がりに。
オプションを楽しむ余白を残している。
作る前から完成イメージはあった。
モチ感のある生地の食感、砂糖は入れず乳糖の優しい甘味とコーンの甘味を強調しようと決めていた。モチ感はトーストした時に絶妙になるように。コーンは弾けた時の汁の旨味より甘味が主体となるように、北海道産の冷凍のスイートコーン(甘味種)を急速凍結し、甘く香りの良いモリタン冷凍カーネルコーンを関東商事から仕入れている。
生地は液種にした。湯種にすると水分量とモチ感は上がるのだが、微生物を殺してしまう温度帯であるためだ。液種はでんぷんが膨潤する45°Cくらいの水で脱脂粉乳を溶き、粉を入れてゴムヘラで混ぜる。雑菌繁殖を防止したいため、32°Cまで一気に下げる。FMIマルチフレッシュ(ブラストチラー)に入れ、32°Cになったらルヴァンリキッド(レモン)を加えてかき混ぜる。好気的な増殖は行わず、密閉容器で嫌気的に容器と生地の間の酸素だけの少しの増殖とでんぷんの少しの酸化による乳酸を少し生成させるために12時間ほど19°Cで置く。これで水和の速さによる消化の良さと、甘味の中に少しの酸味を作ることができる。
本捏ねで使う油は、竹本油脂の太白胡麻油に。
これは、イタリアパンのような皮目のサクみが欲しかったのと、香りと味を邪魔しない風味の油がよかったためだ。ミキシングの最後に加えるコーンは60%にして、贅沢な「とうもろこしごはん」のような生地ができあがる。
クッペの形なのでトーストするときには上品にスライスでもいいし、縦に真半分で厚目のトーストでもいい。これにバターと醤油(特にパンから作る自家製のパン醤油)を合わせたら至福になれるはず。
パンの味わい深さとヒトの味わい深さには、
共通点があると思う。それは育て方である。
時間をかけ十分丁寧に用意したもの。
インスタントに粗雑に誤魔化したようもの。
育て方によって明確な違いが生まれてくる。
毎日出来上がってくるパンから、
しっかりと丁寧に見てきてよかったなと
毎日感じるのです。