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【TOLOPANの真髄に迫る vol.7】TOLO流カヴァー曲が生み出したくるみパン

グランドメニューのこだわりをお伝えする
連載企画の第 7 弾。


今回は、くるみパン。


田中シェフの修行時代に遡って
くるみパンのルーツを辿っていきます。


……………………………………………………


衝撃が走ったのは、20年前。

ふらふらとパン屋には勤めながら
遊びがまだ中心だった頃の話。


親友と青山をバイクで小道に入ったところに、
ギャラリーのようなパン屋を発見した。

どのパンもシンプル。
でも、何かが違う。


そう感じたのが、デュヌ・ラルテだった。


全部の商品が珍しかった。
クロワッサン、ブリオッシュ、ハード1品、レーズンもの、くるみものを買い代々木公園で2人で食べた。


全てのパンに、感動した。


でも、特に不思議だったのは
くるみのパン。

くるみのパンなのに、
紫色ではない。中身が白い。

味も、コクはしっかりとしてるのに
とてもクリアである。

エグミが全くない、生のくるみを
食べているような衝撃的な感覚に襲われた。



この経験がきっかけとなり、
デュヌ・ラルテで修行を始める。


「自分もこんなかっこいい職人になりたい」


そう常に想い続けたのは、
師匠がくるみパンを生み出す工程を、
食い入るようにずっと見ていたから。


一定の反復の動作の、手早さ。精度の高さ。


僕は、見ていただけだった。
ただただ、見ていただけだった。


くるみを茹で、アク抜きを手早くし、
ザルにこぼし、酸化を防ぐために、
− 45 °Cのショックフリーザーに入れる作業。


これを2回繰り返す。
くるみのエグミを絶つために。


ただただ、見ていた。

でも「見ていた」作業風景が
猛烈に脳に焼きついている。


これが、僕にとって最高の財産だ。


デュヌ・ラルテで、
衝撃を覚えたくるみパンのルセットは
僕は今でも知らない。知らないからいいのだ。


井出さんは、引き算のスペシャリスト。
柴田さんは、引き算から性別を活かすスペシャリスト。


TOLOPANの田中は、バランスでいく。


それは、音楽でいう
カヴァー曲で人を感動させること。


僕の最高の財産となった、記憶と勉強量。
そして、そのパン達を心から愛したこと。


そこから生まれたのが、
TOLOPANでの、くるみパン。



粉はどこでも手に入る。
一般の方でも買える、カメリヤを使う。

小麦タンパクとは、グルテニン、グリアジンのグルテンだけを考えがち。
だが、その他のグロブリン、アルブミン、プロテオーズというたんぱく質も後に旨味になる、
アミノ酸に関係していることに着目した。

これは焼成の段階は、特に重要。

今の時代の流れだと職人は灰分値に目がいく。
しかし、メイラード反応という130℃〜150℃で生まれる、素晴らしい複雑な芳香はタンパク質あってこそのもの。

キャラメル化を軸にしない=焼き込まないパンは、たまらない香りになる。

焼き込みはこういった、小麦タンパクの量で決まるのだ。

安いものを旨くする。

これが職人なのではないか、と思う。


また、パン生地には生クリームを配合。
抜けた脂肪分を補う程度に調整している。

くるみには、
少しのグレープシードオイルと岩塩を。

これは引き算の井出さんや柴田さんはしないであろう、TOLOPANならではのバランス方法。




「何かの良い条件が重なる時、
このパンの割れ目は黄緑色になるんだ。
その時が本当に美味しい時だ」


デュヌ・ラルテでの井出さんの言葉を、
ふと思い出した。

毎日全種のパンを1スライスずつ食べた3年間。

井出さん、柴田さん、僕の
3人で食べた唯一の3ヶ月。


それが今の僕にとって
かけがえのない財産なのだ。

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