【TOLOPANの真髄に迫る vol.8】「使えない」を「スペシャル」に変えたベーグル
グランドメニューのこだわりをお伝えする
連載企画の第 8 弾。
今回は、ふくこむぎのベーグル。
この回も、開発当時のお話を
田中シェフに語っていただきます。
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「ふくこむぎ」
その存在を知ったのは、3年くらい前。
福井県にある、カリョーという製菓材を扱う会社からの依頼でセミナーをしに伺った。
カリョーの新谷社⻑や営業の斎藤さんという女性に本当に何から何までしてもらって、感謝を最後につたえたところ、新谷社⻑から
「福井県の⼩⻨が使えないという意見が多く、仕方なく捨ててしまっているのです。今回こちらをお送りしますので、なんとかなりませんかね?」
と相談されたのが始まりだった。
皆が「使えない」という⼩⻨。
緊張感が⾛る。
その時、覚悟のようなものを持った記憶がある。
封を開け、⾹りをかぎ、粉を握り、舐めてみる。
初めての粉を扱うときの、いつもの動作。
「少し弱そうだな」
と感じたのものの、そこまでの違和感は感じない。
まずは、普通にミキサーで捏ねてみる。
やはり、つながりづらい。
という結果だった。
次は、配合の同じままで。
その代わり低速をいつもの3倍かけてみる。
少しコシがでてきたところで、ミキサーボールから離れ、フックに絡み付いて、普通の⽣地になった。
3 回⽬は、しっかりと繋げずリバースシート(折り込み機)に通すやり⽅で。
3 つ折を 3 回⼊れる。
ただこれだけで、何の違和感もないパンが仕上った。⽔和とグルテンの付け⽅が他の粉と違うだけで、
「全然使える」
という解答がでた。
いやむしろ、「スペシャルな粉」だといえる。
しっかりとは捏ねないことで、薄力粉としてもいい仕上がりになる。つまりは、パンにもお菓子にも使える万能な粉なのだ。
さあここで、⼤事な試⾷の段階。
⽢みは少し出る。
だが、⾹りは弱い。
だとしたら、良い所だけを使うことにしよう。
他の粉や副材料の味を引き出す役割を担ってもらえばいいのだ。
そして、ここで初めてルセット製作に。
粉はライ⻨と全粒粉をプラスして、
嫌味のないタイプを作るときの⻩⾦⽐に。
ベーグルは、そのままより何かをあわせて 100 点を⽬指すタイプのパン。
つまり大切なのは、主張を少なくすること。
その点において、ふくこむぎは理想的であろう。
次に、本来であればボイルと焼成を考える段階。
しかし、4年前の僕の相棒のFMIのUNOX社のベーカーズトップのオーブンは優れもので、 「ゆでる」という作業が出来るオーブン。
「ゆでる」「焼く」を同じ1つの機械で行える。
つまりは、ツヤ出しにハチミツ⽔を刷⽑で塗り、後は機械設備に任せることになる。
こういう話は書くだけではなかなか伝わりづらいかもしれない。しかし、この相棒のおかげでものすごく簡単な作業に変わり、とても楽になったことをお伝えしたい。
そうして出来上がった、
ふくこむぎのベーグル。
シンプルなふくこむぎが、全粒粉とライ麦の
香ばしさを引き立てる味わい深い美味しさ。
表面はハリがあって香ばしく、
弾力のあるしっかりとした生地感に。
シンプルだからこそ、
そのまま食べても、サンドしても美味しい。
今回紹介した僕の相棒、
UNOXには本当に感謝している。
「コンテンポラリーなパン屋」
という自分の理想を具現化できたから。
というのもUNOXのおかげで、
スタッフに「学び」の環境を提供できたから。
TOLOPANでは独⽴志願者がほとんど。
作業が楽になった分、更に違うタイプのベーグルを何種類も作り、「学び」を楽しめるようになった。
感謝したいのは、UNOXだけではない。
竹谷光司先生の「新しい製パン基礎知識」という本にもとても助けられ、本当に感謝しかない。
この本のおかげで、「諦めない」を作り出せた。
だからこそ、「ふくこむぎ」と真剣に向き合えた。
ミキサーの中で回すだけがミキシングではないのだと気づけた。
⼈⽣に必要な
「楽しい」
「おもしろい」
「幸せ」
「⾃由」
を⼿に⼊れるためには、
「感謝」し、
「努⼒と継続」し、
「理解」することが必要だと思う。
「ふくこむぎのベーグル」
それは、ただの⼀種類のパン。
でもその⼀種類のパンには、
こういう事が全て詰まって凝縮されている。
「⼈⽣に必要な」を⼿にするためには、
何千個の中の1個、1個のパンを、
どこまでも真剣に取り組むことが大切。
それが、幸せの一歩になる。
これが「ふくこむぎ」を通して僕が思うことです。