【TOLOPANの真髄に迫る vol.13】究極の「普通」をこだわり抜いたパンキャレ
パンキャレとはパンカレのことだ。
少し発音に寄せた言葉で、
つまりは「四角いパン」「角食」のこと。
日本人が一番よく知っているパン。
朝食用のパンの連想。
「朝の麦」
「晴れた日」
「サラダとスープ」
「いれたてのコーヒー」
他にも、こんなイメージが湧くかもしれない。
「トースト」
「ジャム」
「仕事の段取り」
「電車での想像」
休日であれ、平日であれ、
朝食は一瞬の豊かさを意味している。
人の豊かさに触れているからこそ、職人は気を抜くことができない。
パンキャレを作ったきっかけは、
おばちゃんの声からだった。
トロパンオープン2日前の2009年7月1日。
試作やら洗い物やら、しまいでバタバタしていた頃。商店街でお店をやっているおばちゃんが入ってきて「とにかく白くて、安い食パンを作ってね」と言った。
いくらくらいがいいか尋ねると、
「300円台!」とのことだった。
既に購入していた1.5斤型ではギリギリだなと思ったが、「試します」と伝えた。
とにかく普通にスーパーで売っている食材だけで、どこでも手に入るもので美味しくしよう。職人という所の、腕の部分を試される時だった。
小麦粉はまず、迷うことなく「日清カメリヤ」。
師匠達が大事にして研究を重ねてきた粉だ。
そこに加えるのは、普通の食塩に、普通の砂糖、脱脂粉乳、水、サフの赤のインスタントドライイースト、そして森永のバター。
・小麦粉はカメリヤ100%
これで小麦たんぱくから分解されるアミノ酸を生む。
・塩は1.55%
やや低め設定は、次の砂糖の低めの配合との兼ね合い。
甘く感じやすくする目的と、毎日を重くしないのが目的。
・砂糖が2%
老化防止はもちろんだが、一番の目的は、イーストの食い付きを良くし、酸化を促し、いい匂いを生み出すエステル化合物をつくって、更に芳香を高めることだ。
・脱脂粉乳6%
少ない配合にすると、牛乳よりミルキー感を出しやすい。
また、牛乳の固形分と乳糖は生地の目詰まりの原因になる。というのも、乳糖はイーストを分解できないからだ。そのため、6%という乳糖少なめの水をメインとして、イーストの炭酸ガスとアルコールに分解できる状態にし、歯切れの良い気泡を生みだす。
さらに、この数字は乳糖の甘みとクラストカラーへ繋がるものでもある。
・水が75%
固すぎず柔らか過ぎず、適度な弾力と伸展性を生む数字。これが、日常食となる角食において重要だと考える。
・サフの赤のインスタントドライイーストが0.8%
培養温度、栄養供給、酸素の供給を考慮し、ミキシング時に一気に増殖させるため麦芽糖構成型の赤ラベルを選び、パンチ後に、嫌気発酵でのアルコール発酵に切り替えることが目的。
・森永無塩バター10%
味と香りの核となり、老化防止にも繋がる。軽い食感にしっとり感を出すための配合。
と、自分でまず食材を入れる理由を考える。
そこから配合し、試作をし、発酵の温度や時間、分割重量、焼成プログラムを組む。
こうして配合の分析を行うと、後の流れが全て決めていきやすくなる。
最期に、分割重量だけは少し悩んだ。
角食は、飽きのこないのが魅力。
1.5斤で550g。
キメの細かさはあるが、これだとムギュッとしたもちもち感がありすぎる。
これでは常食パンには向かないだろう。
1.5斤で500g。
少し生地に無理はさせるが、気泡が大きくなり、日常食にあう歯切れになる。
こうして、6枚スライスで3人用、トースト用の朝食パンが出来上がった。
ちなみに当時は380円で、現在は430円で提供している。
自分が休日に食べる時は、シンプルにいただく。
甘味、旨味、少しの塩味、バターの香りとエステル化合物。
皮目のメイラード反応。キャラメルの香り、この状態は残しつつも、白い部分の周りにだけ高温でサッとトーストすることでメイラード反応とキャラメルの香りが生まれる。中身はまだ白く、レア。そこの熱々のところに、冷蔵庫から出したてのバターを薄くスライスし、溶け終わる前の状態で終えるのが、僕は好き。
合わすのは、濃いのだけど酸味がゼロで、自然な甘味とコーヒーの苦味、マイルドな抽出の本当に心地の良い大坊珈琲を静かに飲むのが好き。
それも、ビル・エヴァンスを聴きながら。
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「豊」を作るということは、難しい。
作り手は、もっと、もっと。
考えて、考えて、作らねば。
人を豊かにすることは、本当に難しいことなのだから。
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