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【TOLOPANの真髄に迫るvol.25】13年以上磨きを重ねた「芸術的な」ベーコンエピ

「エピ」とはフランス語で「穂」のこと。

フランス人とはつくづくお洒落である。
小麦粉で作るパンだから原形である小麦の穂に見立てた成形にしている。

パン作りは芸術ではない。
しかし芸術的な部分を感じることは多々ある。

職人の動きにしても芸術的である。

毎日精度の高い反復。
鍛錬された知識と技。
無駄のない動き。

これがまさに芸術的であり、
芸術的な職人の動きとは
すなわちプロ中のプロの動作のことだと思う。


芸術とはお金で価値が決められないものだ。

それに対して、パンはお店に並べば単なる商品になる。パンは芸術ではない。

しかし、芸術的なパンは存在する。
商品になるまでのアイディアが部分芸術であり、
それこそが芸術的なパンなのだと思う。



トロパンの芸術的なパン「ベーコンエピ」

オープン当初の約13年前からブラッシュアップし続けているパンだ。

ベーコンの炒め油を入れている「イケジリーナ」の生地で作っている。具材はベーコン、マヨネーズ、粒マスタード、グラナパダーノ、ブラックペッパー。素材は特に変わったものを使用していない。

ベーコンは一枚の長いものを3等分にしている。これは長いままだとハムやベーコンは出てきてしまうためだ。始めから切っているから派手さはないが、カットすることで確実なあたりを作り出している。

コクを出すために、マヨネーズを一線で少し。

粒マスタードは両端、中央の3箇所に。食べ始めのインパクトと食べ終わりの余韻を残すため。

グラナパダーノは、カリカリの食感と香りの高さで食欲の増長につなげる。

ブラックペッパーは、たくさんというよりは外に出ない程度に。ベーコンの脂身の甘味に対してのアクセントになるように。


具材にこれだけのこだわりがあるのだ。
これを成形で台無しにしないように。

ベーコンが生地の最初から最後まで入るように意識しなければならない。「ベーコン」という名前が入っている以上、どこを食べてもベーコンが当たるようにと考えている。

そして全部がくるまれて一つの棒のようにした時に手粉を端に強調し、少し普通のパンより多めに付ける。これは、後で焼成の終わり際に高温状態にで2度かけるガチョウの油(グレスドワ)で揚げ焼き状態になった時の食感を良くさせるためだ。

いよいよ穂の形へのカット段階。
カットは6カット分ハサミを入れるのだが、これには明確な理由がある。
具に対するパンの抜群な生地量、ベーコンとチーズの中の甘味と溶け方、外側に出てくるベーコンとチーズの焼かれた珍味と香りの高さ。これを実現するには6カットがベストだと考える。
8カット、10カットだと見た目は華やかだが珍味感が強く、その分甘味が抑えられてしまう。これだと1本食べるのが重たくなってしまうのだ。

甘味はヒトを病みつきにする効果を持っているため、こちらを5段階の数値で4にして。珍味はアクセントなので1にする。これが100gというTOLOPANのベーコンエピでの一人前の生地量と計算が合う。


焼成の一番のポイントは、2回目に揚げ焼きのグレスドワをかけた後。2台目のコンベクションオーブンを230°Cにセットし移し替え、高温で一気に焼き上げる。すると焦げのないベーコンやチーズの良い香りの中に、少しフォアグラ臭が入りいい塩梅になる。




これからの時期、目黒川の桜が見頃になる。
そして葉桜になり、新緑を迎える。
どちらにしても散歩がしたくなるものだ。

そんな時にちぎりやすく、片手でも食べられるこのパンを持って外の空気で自然に触れてほしい。
車の音、人の声、川の音、葉の形、ふまれた桜の花びら。いろんな一面を摘み取って、穂の形が生まれたように外の空気に触れると情緒が生まれる。

自然をヒトの感性で捉えたものが芸術になる。
そんな気がしている。

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