空間・ひと・地域・文化をつなぐ──。100年後を見据え変化し続ける街の都市空間とは
JR東日本がすすめる高輪ゲートウェイ駅周辺一帯の品川開発プロジェクトの開発概要・背景について発信するこのnoteでは、あたらしい街をかたちづくる思想やコンセプトを、「TokyoYard PROJECT」の取り組みや着工開始直前に開催された「5 Days CITY」の様子とともにご紹介してきました。
>>https://note.com/tokyoyard
今回は、あたらしい街の都市空間づくりに焦点をあて、開業に向け本格着工に移るフェーズとなった高輪ゲートウェイ駅前の敷地にどのような施設が実装されるのか、またなぜそれをつくるのかを、JR東日本 品川開発プロジェクトチームの村上祐二がお伝えします。
4つの街区で構成される、あたらしい街
敷地面積約9.5ヘクタール、2024年度にまちびらき予定のあたらしい街は、以下の機能をもつ1街区から4街区で構成されています。
時代とともに変化しつづけるための、まちづくりガイドライン
これら施設を開発するにあたって、JR東日本の都市空間づくりの根幹に据えているキーワードが、「パブリック・レルム(puclic realm)」です。パブリック・レルムは、建物の所有・関係にかかわらず広く不特定多数の人々が利用し、認知する空間領域。つまり「空間」づくりの先にある「場所」づくりをあらわす言葉です。
このようなキーワードを都市空間づくりの中心に据えた背景には、公共空間と建物それぞれの利用者や役割を必要以上にセグメントしすぎること、また地域の文脈を十分に読み解かずに開発することで、建物が人の流れや交流、文化を断絶してしまうといった、大型都市開発に起こりがちな課題への懸念がありました。
大規模な都市開発には、建物をつくる際の数多くの規制やステークホルダーとの権利調整が存在します。その煩雑さゆえ、空間をそれぞれのパーツごとに区切って効率的に進行する開発になってしまいがちです。
しかし、「独立した街をつくる」「建物だけで構成される空間をつくって終わり」というまちづくりは、この街に駅をつくり、覚悟を持って地域に根を下ろすべきJR東日本がやることではありません。人々が交流し、新たな価値観と行動を生むひらかれた場所をつくることが、あたらしい街の都市空間づくりにおいてはもっとも重要だと考えました。
JR東日本が考える、これからできるあたらしい街のあるべき姿は、「100年続く、やってみようが、かなう街」です。これからの100年ではあらゆるものが絶えず変化を繰り返していくでしょう。そんななかでも、この街が時代とともに変化し続け、何十年とかけてゆっくりと文化を育み、人が変わらず豊かであるためにはどのような空間をつくるべきなのか。わたしたちは、建物をつくる前にこれらをじっくりと考える必要がありました。
事業者のみならず、関係行政、隣接事業者・インフラ事業者、ビジネスパートナー、そして地元の生活者や来街者など、この街に関わる多くの方々が、100年後に向けた問いを前に迷わないように普遍的な共通指針が必要である。こうして2017年につくられたのが、「品川駅北周辺地区まちづくりガイドライン」です。そのなかでも重要視しているのは、「エキマチ一体の基盤形成」「多様な都市機能導入」「先導的な防災・環境都市」の3点です。
以降は、これらを具体的にどのような施設に落とし込んでいくのかをご紹介します。
駅・街・東西南北の周辺地域を繋ぐ結節点に
東京をはじめとした大都市部の開発に起こりがちな課題については先述しましたが、JR東日本がこの品川一帯において解決しなくてはならない固有の課題も存在します。
あたらしい街ができるこのエリアは、江戸時代に東海道の「高輪大木戸」が設けられ、明治5年には日本ではじめての鉄道が開通。その後は海を埋め立て車両基地として役割を長い間果たしており、鉄道用地としての歴史が背景にあります。しかし車両基地は、高度経済成長期の鉄道のあゆみを支える一方で、高輪ゲートウェイ駅を挟んだ北部の高輪地区と南部の芝浦港南地区を行き来しづらくしてしまう要因ともなっていました。
この課題を解決するにあたり鍵となるのは、高輪ゲートウェイ駅と街、そして周辺地域をシームレスに繋ぎ、人が循環する空間を生む「エキマチ一体の基盤形成」です。
周辺地域を繋ぐ整備としては、分断されてきた東西、また南北の周辺地域を繋ぎ、新駅・あたらしい街が地域コミュニティとしての役割を果たすための基盤整備を計画しています。
具体的には、高輪地区へ通り抜け可能な高輪ゲートウェイ駅前の歩行者広場や街区間デッキの整備、残った車両基地の上空を横断する歩行者専用道の新設、既存の地下道改築によって、高輪地区と港南地区が繋がり、歩行者・自転車の東西往来を可能にします。また、地域交通機能を担う高輪ゲートウェイ駅前の交通広場の整備を予定しています。
さらに、今後モビリティの導入なども検討していくことになりますが、以前にはウォーターズ竹芝の船着場と連携し舟運ネットワークを活用した実証実験も行っており、移動の選択肢を提供することで都心部の道路混雑を回避し、より広範囲で人の流れをスムーズにすることができると考えています。
現代の都心の開発ではあまりみられない土地区画整理事業を通じて道路整備からスタートし、さらには駅とまちを一体的につくる開発は大きな特徴といえます。広域な敷地を有することで、より長期的視点に立ったまちづくりをゼロから行うことができるのは、地域に根ざしていくための武器ともなり得ます。
周辺地域だけでなく、いかに街のなかの各地点をゆるやかに繋ぐかも非常に重要です。駅・街区間の移動をシームレスにするための高輪ゲートウェイ駅正面の広場整備、それを中心としたデッキレベルの歩行者ネットワークを予定しており、建物とパブリックスペースの行き来をより円滑にするための方策を検討しています。
また、街のなかの大きな特徴のひとつが地下駐車場ネットワークです。敷地の細長い形状ゆえに道路基盤がわかりづらく目的地に向かうまでにエリアをうろつく方が出てしまう懸念があります。それを解消するために、あたらしい街の各棟の地下を駐車場・車路で結ぶことで駐車場を一体化することで各施設のアクセスをスムーズにし、地上の交通量を軽減する目的があります。特に、街に不可欠な物流についても、トラックが地下を使ってスムーズに配送できるネットワークを整備します。
加えて、港区を中心に長い時間をかけて地域の駐車ルールの検討がなされた結果、駐車場の収容台数を一般的な大規模商業施設と比べて半分以下にできる制度が実現しました。これは、車を多く呼び込む街にするのではなく、駅を中心として公共交通が利用でき、歩行者が移動をしやすい低炭素な街をつくりたいという思いが起点になっています。
文化と歴史を育む、賑わいの連続性
まちづくりガイドラインでは、オフィス施設や商業施設にとどまらない、文化創造施設やビジネス支援・ビジネス交流機能など、多様な都市機能の導入を開発指針のひとつとしていますが、今回は文化創造施設に焦点をあてて施設をご紹介します。
この街は何か特定のビジネスに特化した街ではなく、新たなアイデア・技術の創造に持続的に取り組み、地域の文化を育てていく場所でありたいと考えています。そのために、わたしたちは「文化創造」をまちづくりの核に据え、2街区の文化創造施設を街の活動を象徴する施設に位置付けています。
具体的には、地域住民をふくむ文化創造に取り組む人材や専門家が創造・実験を行い、訪れたすべての人がクリエイティブな情報に触れ、多様な演出や先進的かつ実験的な企画を行うことができる、文化育成・交流・発信機能を備えた施設で構成されます。また街全体のパブリックスペースと連動して、さまざまな実証実験を行える場として活用できる仕組みをつくっていきます。
文化創造施設は他の街区と異なり、建物が低層化されていることが特徴でもあります。わたしたちは、先述のデッキネットワーク・広場・街区公園のような、人がシームレスに行き交うひらかれた空間こそが賑わいを連続的に生み、それが積み重なることで文化が育まれると考えています。文化創造施設は、その空間により近く、賑わいの連なりのなかにあるべきだという思いから、低層化の実現に至りました。
また新しい文化は、これまで地域が紡いだ文化や歴史のうえに成り立ちます。わたしたちは地域が積み重ねてきた歴史や文化的価値を街に継承し、新しい社会に繋いでいく責任があるのです。
タイムリーかつ象徴的な話題を例に挙げると、断続的に約1.3キロメートルにわたる「高輪築堤」の一部が開発現場から出土したことを先日公表しました。これは、明治初期に鉄道を敷設するために海上に構築された構造物で、「列車が海の上を走る」東京の名所に数えられ、たびたび錦絵の題材にもなった明治維新後の文明開化の象徴でした。その後、埋め立てによって姿を消し、新たな線路がその上に建設されていたために確認ができず、存在の真偽はわかりませんでした。この高輪築堤はあたらしい街にとっても重要な地域の歴史の一部であると考えています。現在港区などとともに調査中ではありますが、あたらしい街に活かしていこうと考えています。
自営電力・未利用エネルギーを用いた、防災・環境への取り組み
東日本大震災を経験し、災害が不可避の問題である日本で街をつくるにあたっては、防災は当然に全うするべき責任であり、気候変動など地球環境の負荷低減という世界的な問題もまた同様です。このことから、まちづくりガイドラインでは「先導的な防災・環境都市」を柱のひとつに挙げています。
エネルギーに関するあたらしい街の特徴に、自立・分散型のエネルギーネットワークがあります。各街区へのエネルギー供給は、JR東日本直営の発電所による自営電力と地域冷暖房施設・未利用エネルギーなどでまかなわれる設計となっています。
3街区に設けられた地域冷暖房施設は、オフィス、住宅、ホテルなど、それぞれの異なる用途やピークの時間帯によって熱供給を最適化し、よりエネルギー効率を高める設計となっています。ここでつくられた熱エネルギーは、泉岳寺駅地区再開発にも供給され、将来的には他の開発地区への供給も検討しています。
加えて、4街区に設置された生ごみ等を発酵させて減容化し、発生ガスを給湯ボイラー利用するバイオガス発電施設、さらには地中熱・太陽熱・風力発電施設など、未利用エネルギーを活用していきます。
地域冷暖房は東京の都市開発においてはベーシックな機能として備わっていることが多いですが、自営電力の施設への活用、生ごみなどを利用した都市型のバイオガス施設などは、ほかの開発ではあまり見られない特色の一つではないでしょうか。
そして災害時には、非常用発電機をふくむこれらのエネルギー設備から電力・熱が確保されると同時に、約1万人相当の一時滞在施設の整備、各街区の広場などを活用した一時滞留スペースの確保、備蓄倉庫やサイネージでの災害・交通情報の発信を想定しています。
国や行政の防災対策だけに頼らず、なるべく街で自立した防災対策を行うことで、行政がほかの地域をケアできるなど、周辺の防災対策にも繋がると考えています。
また、他のモビリティと比べ環境性能の高い交通機関である鉄道ネットワークや、未利用エネルギーを活用した施設内発電とJR東日本直営の発電所より供給される電力、施設内エネルギーのマネジメントシステム、先述の駐車場ネットワークによる交通量低減など、街全体で低炭素社会に向けての対策を行っています。
JR東日本が標榜する「100年続く街」を実現するために、「エキマチ一体の基盤形成」「多様な都市機能導入」「先導的な防災・環境都市」という3つの柱をもとに、具体的にどのような施設を実装していくかをご紹介しました。
都市開発はあらゆる視点に立ち進めていく必要があります。とりわけ、世界共通の社会的転換点である「パンデミック以降の豊かさ」は、あたらしい街をつくるうえで不可避の論点です。
これについては、様々な分野の専門家、民間レベルの事業者から国・行政まで、世界中のあらゆるセクターで議論が重ねられている最中ですし、わたしたちも明確な答えは出せていません。
しかし、人は新しいことへの欲求が常にあるものです。人々がこの街を訪れたとき、街なか、駅、地域、さらに外の世界が連続的に繋がり、移動がオープンで風通しの良いものとなっていること。この風通しの良さが、これからの世界にとって重要なものになるのではないでしょうか。
そういった意味で、分断されてきた東西、南北の周辺地域、高輪ゲートウェイ駅とあたらしい街の内外をそれぞれシームレスに繋ぎ、地域コミュニティとしての役割を果たす。同時に、東京、地方、ひいては国際交流拠点として日本と世界が繋がり、地域の文化を育み、新しいビジネスが生まれ続ける場所となる。わたしたちが品川開発プロジェクトで目指すこうした街の姿は、これからの世界でより、意味性を増すのではないかと感じるのです。
取材協力:JR東日本・村上祐二
インタビュー・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社
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