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手放すことで、軽くなる。

「今、世界で最も売れている日本人のベストセラー作家は誰でしょう?」

そう聞かれた時、皆さんは誰を思い浮かべますか?

実際、僕が山口周さんという作家さんのセミナーに参加したとき、そう尋ねられて「村上春樹」さんの名前を思い浮かべました。多くの人がそう思うことを察してか、山口さんはこう言った。

「村上春樹・・・と思ってる人多いかもしれませんが、こんまりさんです」

こんまりさん、あぁ、お片付けの人か。

そう思った瞬間に、

「お片付けの人・・・・と思ってる人多いかもしれませんが、世界の評価は違います」

いちいち見事に釘を刺される。こんまりさんの本は、今、世界中で大ベストセラーになっていて、村上春樹とは桁が1桁違うくらい売れているらしい。

「これまでの歴史は何かを生み出した人が富を生み出してきました。けど、彼女は初めて『何かを手放すことで富を生み出すことに成功した人』という評価です」

おいおい、よく言い過ぎじゃないか。でも、なるほどなとも思った。実際、僕も昔、こんまりさんの本を読んで、自分の部屋の中をひっくり返し、心が踊らなくなっているものを捨ててから片付けてみることで、それまで味わったことのない「人生の軽やかさ」みたいなものを実感したことがある。

「お片付けの本」というよりも「自分らしく生きることを取り戻すことを説いた本」である。その本質的な価値を世界は評価しているのか。

ところかわって、2024年の大晦日。

僕は紅白歌合戦で最も楽しみにしていたアーティストがいた。藤井風だ。

僕のなかの2024年、マイベストソング、『満ちていく』。

何もないけれどすべて差し出すよ
手を放す 軽くなる 満ちていく

藤井風『満ちていく』より

紅白での圧倒的なパフォーマンスに感動したのはもちろんのことだが、ふと、こんまりさんの話を聞いて、藤井風も同じことを言うてるような気がした。

何かを手にいれることで満ちていくのではない。何かを手放すことで心が満ちていく。この逆転的な考えが好きだ。

この曲に限らず、藤井風さんの歌のメッセージの本質は「手放すこと」だと勝手に思ってる。『帰ろう』という歌詞にもこんな一節がある。

ああ 全て与えて帰ろう
ああ何も持たずに帰ろう
与えられるものこそ 与えられたもの
ありがとう って胸をはろう

藤井風『帰ろう』より

藤井風さん自身も、この曲のテーマについて「幸せに死ぬためにはどう生きたらええの?」と自身に問いかける内容だと語っている。

藤井風さんが手放すものは、人や何かへの執着のようなもの。こんまりさんが手放すものは、ときめきを感じられなくなったもの。

それぞれ手放す対象は違うかもしれないけれど、何か根底にあるものは共通しているように思える。

僕は先月、ハワイ島に行ってきたのだが、そこで観光名物の1つである「アカカの滝」を観に行った。GoogleMapのレビュー評価も高ったので期待して行ったのだが、思ったより大したことなかった。遠くから眺めるだけで迫力が全然感じられない。

「長い時間をかけてわざわざ来たのに・・・」と落胆して駐車場に戻った時、そこに野良猫がいた。

「あらゆる執着を捨てて、今日1日をのんびり生きようじゃないか」

そう言っているような気がした。野良猫は「手放し」の達人のように思える。自分が生きている今日を良いか悪いか判断しない。他の猫と比べて評価もしない。僕らもそれでいいのだ、と教えられる。

追伸

久々にこんまりさんの本を読み返してみて「普段履いている靴の底をきれいに拭いてみる」というおすすめ行為を実践してみた。まるで宗教的儀式みたいな感じがしたが、心なしか、足取りが軽くなったような気がした。(本当に気がしただけかもしれない)皆さんもぜひ試してみてください。

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宇都宮秀男
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