「紀元前」の器と「今」を生きる花たち
田中 孝幸というフラワーアーティストの初個展『古器と併花』に行ってきた。『併花』とは彼の造語らしい。
世界的フラワーアーティスト ダニエル・オスト氏に師事し、その後、独立して『蔦屋家電』とのコラボや、世界のハイブランド、日本の世界遺産とのコラボなど数多くの作品を手がけ、ヒューレット・パッカードのTVCMにも出演したり、「婦人画報」で連載したりと、幅広い分野で活躍している。ホームページを観てもらえたら、彼の作品の数々に触れることができる。
彼の作品は華美でありながらも、極限まで無駄を削ぎ落とし洗練された印象を与えてくれる。花という「優しさ」の中に、強烈な生命の「力強さ」が織り込まれ、それぞれが矛盾なく同居しているように思える。
初個展ということで東日本橋にあるTSギャラリーに行ってきた。
そこには縄文土器や弥生土器、古墳時代の土器など仏教が伝来される前と後に分けられ、その器たちに併せられた花を愉しむことができる。
これらはほんの一部にすぎないが驚くのはそれらの土器がみな本物であり、しかも手に触って感触を確かめられることだ。僕は生まれて初めて縄文土器や弥生土器を触った。
そして、その器には田中氏が、展示に併せて都内の道端に咲いていたものを採ってきたという花たちが併せられている。
「え・・東京にこんな花咲いてる?」と思わず訊いてしまうほど、僕はいかに道端の花に目を向けられていないかを実感させられた。
「紀元前」からの器と「今」この瞬間を生きている花たちが矛盾なく同居しており、ミニマムな作品からも壮大な時間のロマンを感じさせてくれて、とても居心地のいい時間を過ごすことができた。
今日2023年6月18日が最終日なので、偶然にも今日この記事を読み、偶然にもお時間がある方は、ぜひギャラリーを訪れてみて欲しい。おそらくこの時とは花も変わってると思うし、田中氏が一つ一つの作品を丁寧に解説してくれるはずである。その話がまたとても面白い。
2023年6月18日(最終日)open 12:00〜18:00
東京都中央区東日本橋2丁目2-10
東日本橋オリモビル2階
さて、ここからは余談である。
(いや、あるいは本題かもしれない)
実は、このフラワーアーティストの田中 孝幸氏は大学時代からの親友である。いや「親友」という言葉じゃ語りきれないような特別な存在である。お互いに「腐れ縁」と言いあったりもする笑
大学入学式の初日、健康診断の受付に大勢の学生たちが並び、たまたま僕の前にいて声をかけたのが田中だった。
クラスもサークルも違うのに、大学時代の多くの時間を共に過ごした。共に悩み、笑い、叫び、模索した。何度となく彼と下北沢を散歩しながら語り合ったのは、僕の数少ない美しい青春の1ページである。
あの頃は彼が「花」の道に行くなんて夢にも思わなかった。というより、彼も僕も、自分が何者で、何者になりたいのかもよくわかっていなかったような気がする。
多くの学生がそうであるように、僕らは若さや体力、エネルギーを持て余し「情熱を注げる何か」をいつも探していた。
やがて彼は世界中を旅するようになり、気づけば留年。結果的に一年早く卒業することになってしまった僕に彼は一冊の本をくれた。
それは美しい「道」の写真集だった。どのページを開いても、世界のどこかの道が切り取られていた。
まだ見えぬ未来への不安を抱えていた僕にとって、この一枚、一枚の写真たちは、焦る心を、優しく、力強く支えてくれた。
最後のページの余白には、彼からのメッセージが添えられていた。
美しい写真集に併せられた、美しい言葉。
思えばこの頃から彼は「併せる」のがうまかった。
大学を卒業してから今に至るまでもこの写真集を幾度開いたか分からない。
「紀元前」の器と「今」を生きる花たちほどの時間的ロマンはないが、「学生時代」の最後にもらった本と「今日」最終日を迎える個展の話を書くことで、君の初個展を祝いたい。おめでとう、そして、ありがとう。
追伸
今度、ギャラリーに忘れた傘を取りに行きます。