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五十嵐大さん原作の映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』を担当編集者が観に行ってきました

 少し前の話ですが、五十嵐大さんのエッセイ『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(幻冬舎文庫)の映画版を観にいってきました。

 ろう者である両親、元ヤクザの祖父、宗教に熱を上げる祖母と暮らすだい少年は、ある日の放課後に家に遊びに来た同級生の何気ないひと言に衝撃を受ける。「お前の母ちゃん、しゃべり方なんか変」と。その時まで、何をするにも両親と一緒で熱心に二人を支えていた大少年だったが……。成長するにつれて、親への複雑な感情と自分自身の進路への不安、そして反抗期が重なっていく大を、中学生から吉沢亮さんが熱演されます。ろう者である両親を支えなければという気持ちと、反抗期が相まって非常に胸が切なくなる映画でした。私が観た回は、吉沢さん主演とあって女性のお客さんが多かったのですが、ぜひ男性にこそ観てほしい映画だと思います。かつての自分自身の反抗期を思い出しながら。

 今作の映画は、五十嵐さんの自伝エッセイを映像化した作品であり、劇的な何かが起こるストーリーではありません。きっと五十嵐さんご本人は、当時悔しかったり悲しかったりしたことだとは思いますが、映画を観ると静かな感動とちょっとした気恥ずかしさが味わえる、とても素敵な時間を過ごせました。また、小学生時代の大少年を演じた子役の表情が、吉沢亮さんにそっくりで、とても驚きです。

五十嵐大『エフィラは泳ぎ出せない』(創元推理文庫)

 小説『エフィラは泳ぎ出せない』では悲劇的な方向へとストーリーは進んでいきますが、ボタンの掛け違いがなければ『ぼくが生きてる、ふたつの世界』のように兄弟、家族がお互いを支えていく可能性もあったかもしれません。『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の関連書の『しくじり家族』(CCCメディアハウス)、『聴こえない母に訊きにいく』(柏書房)、『コーダのぼくが見る世界』(紀伊國屋書店)とあわせて、お読みいただければ。


■五十嵐大(いがらし・だい)
1983年、宮城県生まれ。元ヤクザの祖父、宗教信者の祖母、耳の聴こえない両親のもとで育つ。自身の両親のことを綴ったエッセイ『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が、吉沢亮主演で映画化され話題となる。主な著書に、『しくじり家族』『隣の聞き取れないひと』『聴こえない母に訊きにいく』がある。『エフィラは泳ぎ出せない』が小説家デビュー作である。

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