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英国ミステリ界の巨匠が作中作の技巧を駆使した傑作――アントニイ・バークリー『地下室の殺人』文庫化!


装画:牛尾篤/装幀:折原若緒(フォーマット:本山木犀)

「一つ提案があります。わたしが言うのではなく、あなたが見つけるというのはどうですか。原稿の写しを読めば、あなたも言ったとおり、殺された女性が誰なのかを選びだすことができるはずじゃありませんか」
「犠牲者当てってわけかい? ふん、約束はできないよ。水面下で起こっていたことを全部見たとはとても言えないからね。でもまあ、悪くない考えだな、モーズビー。やってみるとしよう」
(本書73頁より)

地下室の殺人-アントニイ・バークリー/佐藤弓生訳|東京創元社

こんにちは翻訳班のKMです。
気づけば年の瀬、味もそっけもない真っ黒いダウンを毎日羽織って亀のように出社しております。皆様はよい冬をお過ごしでしょうか。

12月18日、アントニイ・バークリー『地下室の殺人』(佐藤弓生訳/創元推理文庫)が発売となりました。英国ミステリ界の巨匠バークリーが「作中作」という趣向を取り入れた本作は、1998年に国書刊行会から単行本として邦訳刊行されました。そして四半世紀の時を経て、このたび創元推理文庫から刊行されます。まずはあらすじを……

新居に越してきた新婚夫妻が地下室で掘り出したのは、若い女性の腐乱死体だった。被害者の身元さえつかめぬ難事件は、モーズビー首席警部の「被害者探し」に幕を開け、名探偵ロジャー・シェリンガムの登場を待って新展開をみせる! 探偵小説の可能性を追求しつづけるバークリーが、作中作の技巧を駆使してプロット上の実験を試みた、『最上階の殺人』と双璧をなす円熟期の傑作。解説=真田啓介/エッセイ=大山誠一郎

地下室の殺人-アントニイ・バークリー/佐藤弓生訳|東京創元社

殺されたのは身元のわからぬ女性。どこの誰で、なぜ地下室に埋められたのか? この謎に挑むのは名探偵ロジャー・シェリンガム!……ではなく、彼の相棒兼ライバル、モーズビー首席警部です。ミステリでは警察の捜査能力が軽んじられることもありますが、本作ではそんな懸念もどこ吹く風。モーズビーの指揮のもと、被害者の身元解明に向けて着実に捜査が運ばれるさまがたまらなく面白いです。捜査行はぐいぐい進み、ひとりの女性に突き当たります。

そこに登場するのがロジャー・シェリンガム。彼は犯行以前、被害者と容疑者たちに会っており、誰が誰を殺すのかを知らない段階で、彼らの様子を小説に書いていたというのです。すでに被害者の名前を知るモーズビーは、シェリンガムに「被害者探し」を持ち掛けます。犯行以前を描写した小説から被害者を当てられるか――? その後の展開は読んでのお楽しみです。

文庫化に際して、単行本時の真田啓介様の解説を抜粋・再録させていただきました。本書の趣向の面白さのみならず、シリーズを通じたシェリンガムとモーズビーの関係性にまで言及いただき、推理合戦の星取り表(!)も掲載されています。そして新たに、大山誠一郎様にエッセイをお寄せいただきました。「こんなユニークな名探偵は滅多にいない」という帯文もこちらからいただいたフレーズです。とりわけ本書において作中作が果たす役割についての指摘には、うむむなるほどと深く頷かされました。

シリーズ既刊に引き続き、装画は牛尾篤様、装幀フォーマットは本山木犀様、装幀は折原若緒様に仕上げていただきました。クラシックミステリの格調高く、かつ『最上階の殺人』と並べたときの対比も絶妙です。ぜひあわせてお手に取ってみてください。

以上、『地下室の殺人』のご紹介でした。
新年に向けてますます寒くなりますが、どうぞ暖かくして年の瀬の読書をお楽しみください。