英国ミステリ界の巨匠が作中作の技巧を駆使した傑作――アントニイ・バークリー『地下室の殺人』文庫化!
こんにちは翻訳班のKMです。
気づけば年の瀬、味もそっけもない真っ黒いダウンを毎日羽織って亀のように出社しております。皆様はよい冬をお過ごしでしょうか。
12月18日、アントニイ・バークリー『地下室の殺人』(佐藤弓生訳/創元推理文庫)が発売となりました。英国ミステリ界の巨匠バークリーが「作中作」という趣向を取り入れた本作は、1998年に国書刊行会から単行本として邦訳刊行されました。そして四半世紀の時を経て、このたび創元推理文庫から刊行されます。まずはあらすじを……
殺されたのは身元のわからぬ女性。どこの誰で、なぜ地下室に埋められたのか? この謎に挑むのは名探偵ロジャー・シェリンガム!……ではなく、彼の相棒兼ライバル、モーズビー首席警部です。ミステリでは警察の捜査能力が軽んじられることもありますが、本作ではそんな懸念もどこ吹く風。モーズビーの指揮のもと、被害者の身元解明に向けて着実に捜査が運ばれるさまがたまらなく面白いです。捜査行はぐいぐい進み、ひとりの女性に突き当たります。
そこに登場するのがロジャー・シェリンガム。彼は犯行以前、被害者と容疑者たちに会っており、誰が誰を殺すのかを知らない段階で、彼らの様子を小説に書いていたというのです。すでに被害者の名前を知るモーズビーは、シェリンガムに「被害者探し」を持ち掛けます。犯行以前を描写した小説から被害者を当てられるか――? その後の展開は読んでのお楽しみです。
文庫化に際して、単行本時の真田啓介様の解説を抜粋・再録させていただきました。本書の趣向の面白さのみならず、シリーズを通じたシェリンガムとモーズビーの関係性にまで言及いただき、推理合戦の星取り表(!)も掲載されています。そして新たに、大山誠一郎様にエッセイをお寄せいただきました。「こんなユニークな名探偵は滅多にいない」という帯文もこちらからいただいたフレーズです。とりわけ本書において作中作が果たす役割についての指摘には、うむむなるほどと深く頷かされました。
シリーズ既刊に引き続き、装画は牛尾篤様、装幀フォーマットは本山木犀様、装幀は折原若緒様に仕上げていただきました。クラシックミステリの格調高く、かつ『最上階の殺人』と並べたときの対比も絶妙です。ぜひあわせてお手に取ってみてください。
以上、『地下室の殺人』のご紹介でした。
新年に向けてますます寒くなりますが、どうぞ暖かくして年の瀬の読書をお楽しみください。