真門浩平『バイバイ、サンタクロース』、道尾秀介『きこえる』…紙魚の手帖vol.15(2024年2月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その2
【編集部から:この記事は東京創元社の文芸誌〈紙魚の手帖〉vol.15(2024年2月号)掲載の記事を転載したものです】
真門浩平『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』(光文社 一八〇〇円+税)は、東川篤哉と石持浅海が選考委員を務める新人発掘企画「カッパ・ツー」で、第一期の阿津川辰海『名探偵は噓をつかない』、第二期の犬飼ねこそぎ『密室は御手の中』に続いて選ばれた、第三期作品。
麻坂家の双子の小学生――圭司と有人は、刑事の父親を持ち、優秀な児童が通うとされる帝都小学校でもとくに知能が高い子供たちだ。彼らが関わった身の周りの事件や謎解きの顚末が連作形式で綴られていく。読みどころは、相手の心情になど構うことなくドライかつロジカルに真相を究明しようとする圭司と、動機や行動の意味からひとの気持ちを汲もうとする有人、タイプの異なるふたりの推理。桜の葉がちぎり落とされた理由を追う第一話「最後の数千葉」、事件現場に残された雪の上の足跡がサンタクロースのものではないかと疑う第三話「サンタクロースのいる世界」など読後感もよく、広く歓迎されるだろうと思っていると、最終話「ダイイングメッセージ」の急転にびっくり。小学生らしからぬ大人びた言動や天を仰ぎたくなる結末は賛否が分かれそうだが、予定調和を許さぬ油断ならない作風にも期待してしまう。ちなみに著者は、短編「ルナティック・レトリーバー」で第十九回ミステリーズ!新人賞にも輝いており、今後の活躍が愉しみだ。
道尾秀介『きこえる』(講談社 一六〇〇円+税)は、小説と音声を融合させた全五話からなる体験型作品集。作中に二次元コードが用意されており、再生すると、臨場感はもちろん、真相に至る重要なヒントや意表を突く驚きが得られるようになっている。
興を削いでしまいかねないので収録作のどの話なのかは伏せるが、小説パートを読み終え、音声を再生するや、物語の様相がガラリと変わり、感嘆の声を上げてしまった。まるで鮮やかな手並みのマジックを見るようで、すぐに読み返し、どのように読み手を術中にはめたのかを確認し、大いに舌を巻いた。
用意された音声には、こうした驚きだけでなく、登場人物が抱えていた心情に胸打たれたり、ぞわっとさせられるような効果のものもあって、再生ポイントに至るたび、今度はなにが起こるのかと、わくわくしてしまう。
最後のページにある画像で物語がひっくり返る『いけない』、リアルな捜査資料をもとに読者が未解決事件に挑む本格犯罪捜査ゲーム『DETECTIVE X CASE FILE ♯1 御仏の殺人』など、小説表現の枠を拡げ、新たな愉しみ方をつぎつぎと提示している近年の著者の活動には、単に目が離せないだけでなく、敬服の念を抱かずにはいられない。いずれ道尾作品に影響を受けた、活字のみに囚われない小説家が生まれるかも?
■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。