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11月初旬に来日するジャン=クリストフ・グランジェさんの『ミゼレーレ』について、くらりとジャン=ジャック・ニャン吉がちょっと語りあう。

【編集部より】11月9日(土)、『ミゼレーレ』の著者であるジャン=クリストフ・グランジェ氏が来日し、堂場瞬一先生と日仏の人気作家による文芸対談を東京・飯田橋でおこないます。詳細はこちらから。参加方法などの詳細は後日お知らせいたします。


ジャン=ジャック・ニャン吉がうっとりと何か聴いていて、呼んでも聞こえないみたいだニャ。

「ねえねえ、何を聴いてるの?」
「えっ? ああ、ごめんごめん。アレグリの『ミゼレーレ』という聖歌を聴いていたんだ」
『ミゼレーレ』? あ、ぼくが前にお会いしたことのあるジャン=クリストフ・グランジェさんのこの新刊のタイトルとおんなじだニャ」
「そうだよ。だってこの曲がタイトルになってるんだもの。たとえようもないほど美しい曲なんだ」
「ふーーん」
「ちょっと聴いてごらん、くらりくん」

「この聖歌は、イタリア、ローマのシスティーナ礼拝堂のために書かれた曲で、門外不出、採譜も禁じられていたらしいんだ。その曲を、父親と旅をしていた少年モーツァルトが聴いておぼえてしまって、あとで譜面を起こしたことから、世にひろまったという話だよ」
「やっぱりモーツァルトってすごいニャ」
「その『ミゼレーレ』が事件の鍵になっている新刊のグランジェさんのミステリ、すごいんだ。展開がはやい(疾走感がいいんだ――疾走感といえば、小林秀雄はモーツァルトの弦楽五重奏曲第四番ト短調の第一楽章の冒頭の旋律について『疾走する悲しみ』と表現したんだ。今度その曲もくらりくんに聴かせてあげるよ)、物語のひろがりも尋常じゃない。定年退職した元警部と、薬物依存だけど優秀で〈カッコイイ〉若い刑事のバディ、これが実にいいんだ」
「ぼくとジャン=ジャック・ニャン吉もいいバディだニャ」
「ふっふっふ。この二人、実はそれぞれに驚くべき過去があって……それも衝撃なんだけど、最後の最後に行き着くのが『エエーッ』なんだ。グランジェさんお見事! 『クリムゾン・リバー』もなかなかすごい作品だったんだ。それまでのフランスミステリのイメージを覆した作品だったよ。以降、スケールの大きい、ケレン味たっぷりの作品を書き続けているんだ。この作品は少し前の作品だけれど、ちっとも古びていない。スケールが大きいのは、グランジェさんが作家になる前はジャーナリストとして世界中を飛び回っていたということもあるかもしれないね。
 ちなみにグランジェさんは音楽好きで、ご自身ピアノを弾かれるそうだ。お子さんたちにも教えているのだとか。献辞に『わが人生の太陽、ルイ、マティルド、イゼに』とあるのは、お子さんたちのお名前なんだよ。このあと、もうお一人男の子が生まれているのだけれど、この作品を書かれた時点では、三人だったのだね。でも……この作品を子供たちに捧げるとは……ううぅーむ。『ミゼレーレ』は本当に美しい曲だけど、この事件は驚くべきものなんだよ」
「くらりも『ミゼレーレ』を聴いて、『ミゼレーレ』を読むニャ!」


『ミゼレーレ』(上下)ジャン=クリストフ・グランジェ/平岡敦訳(創元推理文庫)
喩えようもなく美しい聖歌『ミゼレーレ』と、パリの教会で起きた聖歌隊指揮者の不可解な殺害事件とはいかなる関わりがあるのか? 凶器はいったい何なのか? 遺体の両耳の鼓膜は破られ、付近には子供の足跡が残っていた。定年退職した元警部と、薬物依存症で休職中の若い青少年保護課刑事がバディを組んでこの怪事件に挑む。『クリムゾン・リバー』の著者による圧巻のミステリ!