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【創立70周年記念企画】櫻田智也さん×今村昌弘さんトークイベントの模様を大公開!【その1】

9月22日にブックファースト新宿店様にて開催された櫻田智也さんと今村昌弘さんのトークイベントはおかげさまで早々に満員御礼になりました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございます! 創作秘話が盛りだくさんのイベントでしたので、今回ダイジェスト版を公開いたします。(編集部)


◇シリーズ短編集のコンセプト

――2017年に単行本デビューし、その後それぞれ本格ミステリ大賞を受賞した櫻田智也さんと今村昌弘さん。5月に魞沢泉えりさわせんシリーズ第 3 作六色の蛹、6 月に〈明智恭介〉シリーズ第 1 短編集明智恭介の奔走』がそれぞれ刊行されました。まず作品集のコンセプトをうかがえますか?

櫻田:一作目のサーチライトと誘蛾灯 、二作目の蝉かえるでは収録短編のタイトルに虫の名前を入れていました。今回は、虫が苦手な人もいるだろうというのと、もっと広く手にとってもらいたいなと思って、趣向を変えて色が入ったタイトルで統一しています。
もともと、僕は収録作品に繋がりがない独立短編集を作りたかったんですけど、『蝉かえる』では作品同士がつながってるような書き方をしました。六色の蛹』もその構成で作るか悩みましたね。

今村:作中で魞沢くんが年齢を重ねているので、さかのぼって少年時代を描くのは難しいのかなと思ってました。

櫻田:年齢と言えば、シリーズ初期に魞沢泉は40 代だと書いたら、担当編集者に「(40 代と)明確に書くのはやめましょう」って言われたこともありました(笑)。 本当は年齢を明確にしないつもりだったんですけど、ある作品のトリックの必要性で年齢を書くことになりまして。

――今シリーズを読み返すと、ミステリーズ!新人賞受賞作「サーチライトと誘蛾灯」は雰囲気が違いますね。

櫻田:最初は一発勝負のつもりで書いたんですよね。漫画でもそうかもしれませんが、新人賞投稿作の読切短編を連載漫画にするためには、変えなければいけないこともありました。2 作目の「ホバリング・バタフライ」を書きあげるまでの間に模索するなかで、書き方や考え方が変わっていきました。

――ありがとうございます。『明智恭介の奔走』はどのようにしてできあがりましたか?

今村:『屍人荘の殺人』が映画化したとき、『ミステリーズ!』に最初の短編「明智恭介 最初でも最後でもない事件」を書いていたんです。『兇人邸の殺人』を出した後、次作の相談をしているときに、明智恭介の短編集を作りませんか? と担当編集者に言われたのが直接のきっかけですね。それまで短編には苦手意識があったんですけど、いったんなぜ短編形式がいいのか、なぜ主人公が明智恭介なのかを考えてみました。
明智が主人公なら、殺人事件ではなく、つまらない事件に首を突っ込んでいてほしい。剣崎比留子みたいに頭脳明晰でどんどん事件を解決するのではなく、失敗しながらも真相にたどり着いてほしい……と。あと大学内で起こる事件以外もあったほうが面白そうだから、舞台となる場所を変えて、葉村譲視点以外の話も……というふうに考えました。

――〈魞沢泉〉シリーズは、毎回視点人物が異なりますね。

櫻田:〈魞沢泉〉シリーズの場合は、思いついたミステリのアイデアに魞沢をどう関わらせようかな、という順番で考えることが多いです。虫要素が薄い話を書いたら、次は虫要素を強めにしよう、とかも考えますね。
今村さんは、明智恭介のシリーズ短編集なのに、明智と葉村の関係性に頼らず、いろんな視点から明智像を浮かび上がらせたのがすごいと思いました。二編目「とある日常の謎について」は、本当にびっくりしましたもんね。

今村:ありがとうございます。明智は大学では変な人だと思われているんですけれど、普段の生活圏内の中で見たらどう見えるんだろう、というところから考えました。「とある日常の謎について」は商店街で喫茶店を経営するおじさん視点の話で、作中で使っているネタが葉村視点からは書きにくかったんですよね。

あのネタはかなり前から頭にありつつ、直接的に書きにくいなと思っていたんですけど、明智恭介の短編ならネタを隠しつつ書けることに気付いて。

櫻田:あのネタがなくても、いいミステリだなと思って読んでたんですよ。ただあのネタが出てくるところで、本格ミステリとしての顔が突然出てくる有栖川有栖さんの系譜というか、ミステリファンとしては嬉しいですよ。いろんなミステリを読んできた方は、さらに楽しめる作品だと思います。

◇思い入れのある収録作

――櫻田さんは、特に思い入れのある収録作品はありますか?

櫻田:自分で言うのもアレなんですが、よくできたなと思ったのが 二作目の「赤の追憶」です。あれはですね……サラリと書けたんですよ(笑)。アイディアが浮かんでから、書き終わるまでの期間が一番短かった。大がかりな話ではないので、素直に書いたんですね。僕は、伏線を隠そうと思うとうまくいかないんです。伏線だと読者が気付いてもいいと思って書いた方がうまくいくから、今回は隠さず、気付かれてもいいんだと思って書きました。

僕がミステリファンとして読みたい短編も二転三転しない、ツイストが過剰ではない作品でなんですよね。『六色の蛹』全体では、どんでん返しのような手法に頼ったことを少し反省してるんですけど……(笑)。

今村:僕も「赤の追憶」が好きです。謎はシンプルなんですけど、生花店の店員と客の会話や、店主と家族との関係性とか、何一つ無駄な要素がないんですよね。騙されるきっかけになってるし、櫻田さんが仰った複雑なことをしなくても成り立つ作品ですよね。

櫻田:「白が揺れた」「赤の追憶」と順調に書いて、残り 4 作に苦労して何年もかかったんだけど、結局みんなから「いいですね!」って言っていただけるのはすんなり書いた話なんですよ。
あとの 4 話にかけた俺の時間は……!(笑)。

今村:作風は違えど、伏線を隠しすぎたらダメっていうのはその通りだと思います。ミステリ作家は真相を見抜かれたくないんですよ。見抜かれたくなさすぎて伏線を書かないでいると、終盤になって急に知らない事実が出てきたふうに読めてしまう。
トリックのうちの一つは、途中で探偵が推理してもいいぐらいの勇気を持つ。最後まですべて隠して読者を引っ張ろうとするのは無謀だと気付きました。

――今村さんの印象深い作品はなんでしょう?

今村:「泥酔肌着引き裂き事件」ですね。短編集なら、葉村と明智の会話主体の話が一つあってもいいと思って書きました。
ちょうどネタに困ってたんですよ。東京に来た時に、いい事件ないかなぁ……と担当編集者と打ち合わせをする中で出てきた、知人が部屋から締め出された実話と、大学生らしいお酒の失敗を組み合わせました。おしゃれなカフェで、「こういう理由で下着をはいてない!」という話を延々と。

――隣の席の方は、貿易ビジネスの話をしてましたね。

今村:その横で、我々はパンツの話。打ち合わせのあと、担当編集者がトリックが実現可能か実験してくれたんですよ。(編集注:今村さんに頼まれたから……!)本当にやるとは思ってなくて……(笑)。結果的にその作品が、明智と葉村の会話を読みたかったという方に喜んでいただけてよかったですね。

◇お母さまは名探偵!?

――刊行から数ヶ月経ち、印象的な感想はございますか?

櫻田:嬉しい感想はたくさんいただいたんですけど……僕が鋭いなと思ったのは母の感想ですね。『六色の蛹』の5 ・ 6 話は、 1 ・ 2 話の設定を使った後日譚なんですけど、母から「最後、楽しようと思ったわね?」「昔から、あんたはそういうところがある」って言われまして(笑)。
最初の動機は、実はその通りだったんです。〈魞沢泉〉シリーズは謎が起きる舞台に魞沢が登場するきっかけを考えるのが大変なんですね。
そこを省けたらすぐ物語に入れると思ったので、『蝉かえる』でも『サーチライトと誘蛾灯』に出てきた人をペンションのオーナーとして再登場させました。

――お母様、鋭いですね! 今村さんはいかがでしょう?

今村:『明智恭介の奔走』発売自体を喜んでくださるお声をたくさんいただきました。あとデビューして 7 年間、何度もサイン会をさせていただいてるんですけれど、大学生ぐらいの読者の方から「『屍人荘の殺人』を小・中学生の時に読みました」というお話や、「『屍人荘』がきっかけで読書が好きになりました」というお話を聞くようになりました。僕自身は、トリックはうまく機能してるのか? とか、そういうことだけ考えて書いてるんですけれど、読者の方が何年も読み続けてくれているのを感じて、ありがたかったですね。

――(その2)へ続きます!


【おしらせ】11月9日(土)今村昌弘さんのトーク&サイン会開催!

・11月9日(土)15時~、枚方蔦屋書店 4階カフェスペースにて
トークのあと、ご希望者にサイン会も!
・イベントご参加特典:神紅大学ミステリ愛好会読書手帖
 神紅大学ミステリ愛好会会員証(明智恭介ver.)
(どちらも非売品です!)
「なってみるまでわからなかった、ミステリ作家の意外な仕事」
「普段はどんなことを考えながら小説を書いているか」
といったお話をシリーズ創作秘話も絡めて語っていただく予定です。
(※ネタバレはしない予定です。未読の方もご安心ください☺)
合わせて「小説の編集者の仕事」も少しご紹介します。もうすぐ就職活動の時期ですね。出版社にご興味のある方もぜひご参加ください!
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