【実施レポート】ソーシャルファームセミナー「社会的企業の経営術と雇用戦略」<後編>
「社会的企業の経営術と雇用戦略」をテーマにしたソーシャルファームセミナーが2023年12月13日(木)、都内で開催されました。
企業における人材不足が社会課題となっている昨今、多様な人材の採用、育成、個々の従業員の強みを活かす経営を行う企業の取組事例を通じて、誰もが活躍できる社会やこれからの企業経営について考えるセミナーです。
前編(各登壇者による講演)はこちら。
本記事は、後編として、3人の登壇者が、それぞれの取り組みの中での手応えや課題などをテーマに、パネルディスカッションを行いました。
<登壇者>
株式会社VALT JAPAN株式会社 代表取締役CEO 小野貴也 氏
株式会社デジタルハーツプラス 事業推進部 部長 高橋 潤 氏
株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太 氏
<ファシリテーター>
一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ代表理事 中村 陽一 氏
パネルディスカッションでは、誰もが活躍できる社会やこれからの企業経営をテーマに、人材不足が社会課題となっている中、多様な人材の採用、育成、個々の従業員の強みを活かす経営を行っている企業の取組事例を踏まえて考えました。
働く人が失敗を恐れずチャレンジできるマネジメントを
ファシリテーターから登壇者に対して「現在の取組をやってみて良かったことや手応えがあったこと」についての問いかけがありました。
鈴木さん「発達障害という概念を知ったことは、自身にとってプラスになりました。これまで『人間とはこうだ』という思い込みがあったけれど、考え方に複数の軸ができたことで様々な人との間でスムーズに対応できることが増えました。」
高橋さん「ソーシャルファームの認証を取得して事業所を立ち上げたことは、いろいろとチャレンジできる場として良かったです。実際にやってみたら『(発達障害の)彼らはこんなにできるようになるんだ』と驚きました」
小野さん「それまで営業が兼務していた品質管理を、障害のある方が専属で行うようにし、やりやすいようルール作りから整備したことで品質が向上しました。その結果、単価があがり利益につながったほか、業務の内容が整理されたことで障害の有無にかかわらずメンバー全体の生産性が高まりました」
さらに、これからソーシャルファームの創設に取り組む人に向けて「あらかじめ想定、検討しておいた方がよい課題」についても意見が交わされました。
小野さんは「最初に『就労困難な方々は何ができるんだろう』から考えてしまうと難しいのではないか。既存事業をベースに、事業のどこに取り入れられるかを考える方が良い」とアドバイスしました。
高橋さんは「試せる環境を作ることが課題解決に非常に重要」と指摘。その上で「多様な人材を活躍させるためには、その人に合った仕事を試しながら見つけていく企業側のマネジメント能力が一番重要になる」と語りました。
鈴木さんは、取り組みを進めていく上での社内チームの在り方について「多様性や当事者感がないと、動かして行くのはなかなか難しい。チームが当事者の意見を考えながら進められるかが重要だと思います」と話しました。
個人個人のニーズや悩みに寄り添うことが重要
参加者から多数の質問も寄せられました。
「リモートワークとオフィスワークはどちらの方が良い場合が多いですか?」
「働きづらさを抱える人の判断基準は?」
ソーシャルファームに関心のある企業ならではの質問に対し、登壇者がそれぞれの視点で回答しました。
高橋さんは、自社でリモートワークを導入したときのエピソードを交えながら「多様な人材の活躍に関して、特別に新しい手法があるわけではないと思う。当社でもリモートか出社かについて色々な声があった。画一的な導入よりそれぞれの人が使いやすい制度であることが大切」と強調しました。
鈴木さんは、障害のある人に対する合理的配慮の在り方について「会社側が事前に『こういう配慮ができる』といった項目をたくさん考えるより、最小限のリストからスタートして、あとは個別に最適化していくやり方の方が良いかなと思う」。
小野さんは「弱みや苦手を知って対応することは、強みを活かすのと同じくらい大切。働きづらさの状態の見える化は、制度面だけでなくそれぞれの人たちが上司や同僚に相談しやすい会社のカルチャー作りとセットで初めてうまくいく」と話し、三者三様に「個々の対応の重要性」を語りました。
最後に、中村さんが「弱みにフォーカスして考えていくというのは、就労に困難を抱える人たちだけの話ではなく、日本の職場全体でも改めて考えていかなければならない点だと思います。特に採用や人事に関わるような方には非常に重要な論点だと思います」と締めくくりました。