見出し画像

39歳、妊娠する11 産後うつの前のウツ

ウツうつと。

家に帰ってきて2時間近く、飛んでくるチャットをApple Watchで返信しながら、取り乱す夫をなんとかなだめて、とにかく疲れてるんだよ、と言い続けそのまま眠らせた。ブランケットに包まりソファで寝ている夫を見て、これはもう病院だ……と、覚悟をした。仕事のPCを立ち上げて、資料を作りながら、スマホではとにかく評判の良い心療内科を探す。近くないと絶対に夫は行きたがらないし、続かないから、近所であることを絶対条件に検索をし続ける。

私が妊娠したから、心配性に拍車がかかってるなぁと思っていたけれど、夫の行動が少しずつおかしくなっているのは実はどこかで気になっていた。でも、元々心配性の性格だから、と。もっと早めにいろいろ出来たのかも……という気持ちがふつふつと湧いてきたけど、とにかく今は目を覚ました夫をどう説得して病院へ連れて行くか、だ。高熱が出たときだって病院に頑なに行きたいくない、という人なので、心療内科に連れて行くなんて大変すぎるに決まってる。ただ、もうこの状態では病院しかないし、妊婦の私からしてみたら、夫がこの状況って早急に対処しなくては取り返しのつかないことにもなりかねない。仕事のメールを一旦全部送信してしまうと、近所の評判もそこそこで新しめの病院にターゲットを絞り、予約の方法や予約状況などを調べて明日にでもすぐ行けるのかどうか、確認をとる。とにかく夫が起きるのを待つ間、お腹が減り過ぎた妊婦はマックをウーバーで注文した。

まずは病院。

▲ジャンクフードもたくさん食べた!

ポテトの香りで目を覚ました夫に(心を病んでいる人にジャンクフードはどうか、と思ったけど、妊婦の食欲には勝てなかった……)コーラを飲ませると、あくまでも普通のトーンでこう切り出した。「あのさ、もう自分でも気づいてるとは思うんだけど、多分、うつ病なんじゃないかな」と。私は自分の仕事場にもうつ病で休職して2年経って復職した人がいることや風邪とかと一緒で早めに病院で治療する事が大切なことなど、ひとまず自分の経験と知っている知識を並べて、まずは一度病院に行こうとさっき調べた病院のHPを見せた。
「でも、病院で本当にうつ病って言われたら、立ち直れないと思う……」と呟く夫に、「いやいやいや、今や3人に1人がうつ病とかって言われる時代よ?」と、今このタイミングで行かないと、子供が生まれるってなったら大変だし、出産予定までは2ヶ月あるんだからと説得に説得を重ねて、予約の電話をさせた。SNSで見た通り、心療内科は行きたいけど予約が取れない、というのは本当で奇跡的に翌日の10時からであれば1件だけ空きがあるとのことでそこを予約。事前の電子カルテの記入をしながら、どんどんと落ち込んでいく夫の背中をさすっていたら、ぽこぽことお腹を蹴る赤子に、こんなときに胎動を感じるなんて…と思いつつ、なんとかなるさと勇気づけられている気がした。

診断と療養。

翌日、腰痛と共に目が覚めて朝5時から洗濯をし始めた妊婦は、改めてうつ病について検索、検索、検索。実は意外と出産や結婚など人生の岐路やおめでたいことでもうつ病になる人はいるらしい、ということを知り、ちょっとだけほっとした。つい最近聞いた、男性の産後うつ、なんて言葉も出てきて「おいおい、産前になっとるやないかい……」と早朝一人でツッコミを入れたりして、気を紛らわせた。とにかく、この時は”共倒れしないこと”そのことだけを意識しようと。

そろそろ起きたほうがいいよ、と病院に行く準備をさせて、私も胎教のために近くまで散歩するよ、と病院の近くまで見送る。弱々しい背中で病院の中へ入って行く夫を、果たしてどうなっていくのかなとこの時は不安に押し潰されそうになりながら見守り、それでもなんというかどこかで大丈夫と自分に言い聞かせていた。その強さを知らぬ間に持てたのは、母になる、という気持ちだったのかもしれない。

病院から戻った夫は、薬の処方箋と一緒に絶望的な顔で「うつ病だった」とだけいうと、その場に座り込んでしまった。結局、軽めではない、ちゃんとしたうつ病だということを診断され、とにかく休むこと、療養することを最優先で考えるように、と。仕事もひとまずお休みするしかない、ということでどうしていくかも考える必要が出てきた。これからバースプランなど出産に向けて色々やっていかないといけない、という状況下で追加で考えなきゃいけないのが夫の療養について。お腹の中の子がとにかく健康だからこそ、それが考えられるわけで、結果的に良かったのかもしれない、とよくわからない前向きさを発揮する自分に、今振り返って見ても我ながらすごすぎるなと思う。本来おめでたいはずの気持ちもどこへやら、妊婦8ヶ月にして夫がうつで療養に入る必要になった。


いいなと思ったら応援しよう!