ブラオケ的ゲーム音楽名曲名盤紹介〜玉響の記憶〜 #2『サガオケ! The Orchestral SaGa - Legend of Music -』
ゲーム音楽の名盤紹介第2弾は、サガシリーズのオーケストラアレンジアルバムを紹介したい。サガシリーズとは、『ロマンシング・サガ』、『サガ・フロンティア』などのRPGのことで、スクウェア・エニックスから発売された人気ゲーム作品の1つである。
サガシリーズの最初のゲーム作品は1989年にゲームボーイ用として『魔界塔士サガ』として発売され、北米では『The Final Fantasy Legend』というタイトルが付けられたこともあり、ファイナルファンタジーシリーズの外伝作品というポジションで話題を集めた。2作目の『サガ2 秘宝伝説』や、3作目の『時空の覇者サガ3』もゲームボーイとして発売され、音楽はファイナルファンタジーで有名な植松伸夫氏に加え、のちのサガシリーズでメイン作曲家となる伊藤賢治氏が担当している。続く4作目は、スーパーファミコン用のシリーズ作品として発売され、『ロマンシング・サガ』というタイトルで全3作発売された。一般的には『ロマサガ』と略されることが多い。1作目のロマンシング・サガは、当時のファイナルファンタジーⅡやⅢを手掛けた河津秋敏氏がプロデューサーを務めたこともあり、スクウェア・エニックスの本気度が感じられるゲーム作品とも言える。音楽は伊藤賢治氏が担当しており、伊藤賢治氏の名前を世に広めるきっかけの一つにもなった作品とも言えるであろう。続編のロマンシング・サガ2やロマンシング・サガ3は、シリーズ全体としてのストーリーとしての連続性は無いが、フリーシナリオを採用した最初の作品であり、これも注目を集めた要因かも知れない。続く『サガ・フロンティア』はプレイステーション用のシリーズ作品として発売され、全2作品が発売された。
それぞれのシリーズ作品で全て異なる世界観を持っているため、ストーリーや世界観についてはWikipediaなどを見て頂きたいが、BGMとして使われている楽曲については、時にはとても耳に残りやすく、時にはカッコイイ旋律が使われており、決して聴き手を飽きさせない構成となっている。特に、ロマサガ2の七英雄や、ロマサガ3の四魔貴族の音楽は、伊藤賢治氏の傑作とも言われる楽曲であり必聴である。今回ご紹介するアルバム『サガオケ!』は、まさにこれらのサガシリーズのオーケストラアレンジ版であり、サガシリーズをやってきたオケ好きのゲーマーにとっては、たまらない作品であることは間違いないだろう。なお、アルバムに収録されている楽曲は以下の通り。
1. 魔界吟遊詩 - サガシリーズメドレー2016
2. 父の背中を追って - バトルメドレー from サガ2 秘宝伝説
3. 試される決意 - 最終試練 from ロマンシング サガ - ミンストレルソング ~ 皇帝出陣 from ロマンシング サガ2メドレー
4. 戻れない道程 - ラストダンジョンメドレー from ロマンシング サガ1 ~ 3
5. 最終決戦! - ラストバトルメドレー from ロマンシング サガ1 ~ 3
6. 戦闘領域 - バトルメドレー from サガ フロンティア
7. 美しき旅人 - Last Battle -Emilia- メドレー from サガ フロンティア
8. 時代の幕開け - オープニングメドレー from サガ フロンティア2
9. 戦いの日々 - ノーマルバトルメドレー from サガ フロンティア2
10. 限界の向こうに - アンリミテッド:サガメドレー
11. 森に抱かれて - クローディアメドレー from ロマンシング サガ - ミンストレルソング
12. 妖魔の夢 - アセルスメドレー from サガ フロンティア
13. 不沈艦発進! - バンガードメドレー from ロマンシング サガ3
14. 最強の栄光 - バトル2 ~ 七英雄 ~ 四魔貴族バトルメドレー from ロマンシング サガ1 ~ 3
最初に本アルバムを聴いたとき、とてつもなく金管楽器(特にトランペット)を酷使しているなぁ…という印象だったが、金管の響きが好きなリスナーにとっては非常に楽しいアレンジとなっている。また、ロック要素も強いため、ロックバンド経験者にとっても面白く感じられる筈だ。演奏はFILMharmonic Orchestra Pragueで、指揮者はAdam Klemens氏が担当している。相当な疲労が蓄積されたに違いない。ここでは、全14曲の中から3曲ほどピックアップして一言添えたい。
■魔界吟遊詩 - サガシリーズメドレー2016
『魔界吟遊詩』は下記楽曲のメドレーとなっている。
1. プロローグ (魔界塔士サガ)
2. ステスロス (サガ3 時空の覇者 完結編)
3. オーバーチュア (ロマンシング・サガ)
4. 涙を拭いて (ロマンシング・サガ2)
5. 旅の幕開け (サガ・フロンティア)
6. Roman (サガ・フロンティア2)
7. バトルテーマⅠ (アンリミテッド:サガ)
8. オープニングタイトル (ロマンシング・サガ - ミンストレルソング)
12分にも及ぶ大作であり、一部は東京オリンピック2020の開会式にも使われた。原曲の雰囲気を損ねることなくアレンジされており、ゲームをやっていた当時のシーンが思い起こされるため、サガシリーズをやったことのある人であれば、懐かしい!と感じるであろう。ゲーム音楽という範疇ではなく、ひとつのオーケストラ作品として聴いても遜色無い完成度であり、ゲーム未経験者の方々にも是非聴いて頂きたい楽曲である。幸いにも、YouTubeで本録音があるので、以下にURLを貼り付けておきたい。
■最終決戦! - ラストバトルメドレー
1. 決戦!サルーイン (ロマンシング・サガ)
2. ラストバトル (ロマンシング・サガ2)
3. ラストバトル (ロマンシング・サガ3)
ロマサガのラスボスである『破壊神サルーイン』との戦闘で流れるBGMの原曲はコチラ。
破壊神との戦闘を予感させる重々しいイントロから始まり、すぐに疾走感漂うロック調のサウンドへと切り替わる。オーケストラアレンジにおいては、トランペットによる存在感ある孤高な旋律を奏でた後、ドラムセットを含めた伴奏の強化により全体の響きに厚みを加えているが、終始トランペットが旋律を担当している。
続いて、ロマサガ2のラスボスである『七英雄』との戦闘で流れるBGMの原曲はコチラ。
ロマサガ2の戦闘曲の中でも、一際ラスボス感を感じさせる壮大な曲であり、主人公たちと七英雄との宿命の終焉を飾るに相応しい。なお、この七英雄は類稀な強さを誇るラスボスであり、それなりの戦術を使わないと勝てない相手だが、その戦術のひとつとして、多くのゲーマーが『クイックタイム(敵を行動不能にする術)』を使っていたらしい。ただ、クイックタイムを使うとBGMのテンポが速くなってしまい、せっかくのカッコイイ曲も台無しになってしまうのだが、多くのゲーマーがクイックタイムを使っていたこともあり、サントラの収録音源では『テンポが遅い』という意見が多数来たとのこと。もはや、作曲家が意図しているテンポ設定は何だったんだろうか。。。なお、オーケストラアレンジにおいては、やはりこちらもトランペットが旋律を奏で、全体をリードしている。
最後に、ロマサガ3のラスボスである『破壊するもの』との戦闘で流れるBGMはコチラ。
ロマサガシリーズの中でも、特にロマサガ3のラスボス『破壊するもの』のBGMは、伊藤氏の最高傑作のひとつとも言われている。ラスボスらしい熱さに加え、哀愁を兼ね備えている点が聴きどころだ。ロマサガ2に引き続き、ロマサガ3のラスボスも類稀な強さを誇っており、実際にゲームをやっていた私自身の本音としては、やり過ぎ感が否めなかったが、お陰で本楽曲は耳に焼き付けられ、20年以上経過した今でも本楽曲は良く覚えている。なお、オーケストラアレンジにおいては、最初の旋律は弦楽器により奏でられるため、少しアレンジ志向を変えたかと思いきや、その後の旋律はほぼトランペットが持っていく。幸いにも、YouTubeで本録音があるので、以下にURLを貼り付けておきたい。
■最強の栄光 - バトル2 ~ 七英雄 ~ 四魔貴族バトルメドレー
『最強の栄光』は下記楽曲のメドレーとなっている。七英雄と四魔貴族は、ゲームにおいて重要なポジションに位置する中ボスである。
1. バトル2 (ロマンシング・サガ)
2. 七英雄バトル (ロマンシング・サガ2)
3. 四魔貴族バトル1 (ロマンシング・サガ3)
4. 四魔貴族バトル2 (ロマンシング・サガ3)
バトル2は、ロマサガの中ボスである『四天王』との戦闘で流れるBGMであり、原曲はコチラ。
エレキベースがチョッパー奏法を多用しているのが特徴であり、これがファイナルファンタジーとの差別化に繋がったと作曲家の伊藤氏が振り返っている。オーケストラアレンジにおいては、トロンボーンを含めた低音群によるウネリから始まり、やがてホルンによる疾走感ある旋律へと導かれる。
続いて、ロマサガ2の中ボスである『七英雄』との戦闘で流れるBGMの原曲はコチラ。
七英雄というのは、ロマサガ2の世界における遥か昔から伝わる伝説の英雄のことで、ワグナス、ノエル、スービエ、ロックブーケ、ダンターグ、ボクオーン、クジンシーの7人から成る。ラスボスも『七英雄』となっているが、ラスボスでの七英雄というのは、前記7人の英雄が合体した状態であり、ここで言う中ボスとしての七英雄というのは、それぞれが個別に分かれた状態の英雄のことを指す。私がロマサガ2をやって本楽曲を最初に聴いたとき、旋律の音の置き方にとてつもない衝撃を受けたのを記憶している。そこでその音を置く!?というのが率直な当時の感想であり、それが七英雄の悲しさを上手く表現されているのだ。ゲームにおけるボスというと大抵は悪者扱いになるが、七英雄においては過去の事情を鑑みると単純な悪者とは言い切れず、非常に物悲しい心境にならざるを得ない。強力な力を獲得したけど、もうどうしようも無い…そんな心境が上手く表現されており、伊藤氏の天才さが垣間見れる名曲である。オーケストラアレンジにおいても、その物悲しい雰囲気を弦楽器が主導しつつ、英雄らしい力強さを金管楽器とロック調のオーケストレーションで奏でられており、非常に聴きごたえのあるアレンジとなっている。
続いて、ロマサガ3の中ボスである『四魔貴族の幻影』との戦闘で流れるBGM、四魔貴族バトル1の原曲はコチラ。
四魔貴族というのは、ロマサガ3の世界におけるアビスの魔物たちの頂点に立つ魔物であり、魔戦士公アラケス、魔龍公ビューネイ、魔海候フォルネウス、魔炎長アウナスの4人から成る。本楽曲は、まさに神曲と呼ばれる作品であり、スクウェア・エニックス公式の歴代サガシリーズの人気投票で1位を獲得した名曲でもある。エレキギターによる冒頭の強烈な存在感を提示したのち、ハープによるアルペジオをバックに弦楽器が旋律を主導する構成だ。オーケストラアレンジにおいては、意外にも原曲通り弦楽器が旋律を主導しており、且つ、落ち着いた旋律の提示から始まる。原曲とは少し印象が異なるサウンドとなっているが、これはこれで非常にカッコイイ。
最後に、ロマサガ3の中ボスである『四魔貴族の本体』との戦闘で流れるBGM、四魔貴族バトル2の原曲はコチラ。
作曲家の伊藤氏は本楽曲に対して思い入れがあるらしく、伊藤氏のエピソードとして、マンネリした曲作りから脱却を目的に、これまで使ったことの無いエレキギターを使ったり、イントロだけに1週間から10日近く掛けたことなどが語られている。聴きどころは、やはり怒涛のロック調のサウンドであろう。オーケストラアレンジにおいても、ドラムやエレキギターが大活躍しており、そこに金管楽器が旺盛することにより、クラシカルロックとも言える完成度の高い作品に仕上がっている。幸いにも、YouTubeで本録音があるので、以下にURLを貼り付けておきたい。
以上、今回はサガシリーズの楽曲をオーケストラアレンジしたアルバムとして、サガオケ!をご紹介させて頂いた。サガシリーズのオーケストラアレンジは他にもあるが、本アルバムはプラハのオーケストラを起用するなど、豪華なメンバーにより製作されたアルバムであり、クオリティとしては高いと言える。全体的に金管楽器を多用したり、ロック調のオーケストレーションが施されている場面が多い印象ではあるが、時には美しい旋律を木管が奏でる場面もあるため、ゲームをやったことの無い人でも十分に楽しめると思われる。是非聴いてみて頂きたい。
(文:マエストロ)