子どもが一生懸命選んだベルが、一番輝いて見えるように/メカニックステーション 蓜島
私たちトーキョーバイクは、街を楽しむための自転車をつくっている会社です。(詳しくは自己紹介をごらんください)
この連載「トーキョーバイクのひと」では、私たちの自転車が皆様のお手元に届くまで関わっている全スタッフを一人ずつご紹介します。
第11回目はメカニックステーションで働く蓜島さん。自転車を組み立てる際の音が好きという偏愛エピソードから、お客さまのこだわりが見えるオプションパーツの取り付け時の想いまで語ってくれました。
メカニックステーション 蓜島さん
海外スポーツバイクメーカーにて勤務後、トーキョーバイクに入社。メカニックステーションにて自転車メカニックとして勤務。
注文された自転車をひたすら組み立てる仕事
ーー所属するメカニックステーションについて教えてください
トーキョーバイクの自転車は工場で生産された後、埼玉県浦和市にある倉庫で保管されます。その倉庫の一角にあるのがメカニックステーションです。お客さまが直営店やオンラインストアで注文した自転車の大半が、この場所で組み立てられます。
僕の仕事は、お客様が注文された自転車の組立です。お客さまの注文内容が書かれたオーダー表を確認しながら、その通りに組んでいきます。
トーキョーバイクの自転車にはカゴが付いていませんが、お客さまによってはカゴを取り付けることもありますし、元々付いているハンドルから別のものに変更されたりすることもあります。
ーー1日何台くらい組むんですか?
平均すると1日6台ほどですね。
ーーひたすら自転車を組んでいるんですか?
基本的にはそうです。それ以外には完成した自転車の梱包もします。直営店で注文された自転車は、組み立て後トラックでそれぞれの直営店に運ばれ、そこにお客様が引き取りにいらして納車になります。
オンラインストアのご注文を中心にお客さまのご自宅に配送する自転車の場合は、梱包作業をしなければいけません。自転車自体に傷がつかないように緩衝材を巻いたり、箱の中で動かないようにダンボールでアンコを作って入れ込んだり。プレゼントの場合も多いので、気を使って作業をしていますね。
それから工場出荷時に傷がついてしまった車体などB品が出てしまった際には、写真を撮って報告をあげるという作業もあります。生産管理をしているスタッフが、工場とやりとりする際に必要な材料になるので、これも大切な仕事です。
でも基本的にはひたすら組立、組立、梱包、組立、という感じですね。
ーー組み立てが一日中、それが毎日続くんですね。
同じ作業の繰り返しになるので、集中力が必要です。自転車は乗り物なので、万が一ネジの閉め忘れ等が発生すると命に関わります。トーキョーバイクでは組み立ての手順がきっちりと決まっているので、それを頭の中に叩き込んでやっていますね。
ーー集中力が切れてしまう時はないんですか?
そういう時もあります。そういう時、僕は糖分が足りてないんだなと思うんです。だからそれに気づいたら、飴や小さなチョコレート等のお菓子を食べます。あとは体操をしたりとか。
そういうことをして、集中力を保つようにしていますね。
マニュアル通りにすんなり組めない時もある。だから頭を使う
ーー失礼な質問かもしれませんが、同じことの繰り返しでちょっと飽きたな・・・と思ったりしませんか?
全然飽きないです。一言で済ますとひたすら組んでいるだけなんですけど、意外と頭を使うんですよね。応用力が必要というか。それぞれのパーツは、全部が全部同じ状態じゃないんですよ。だからそのままマニュアル通りに組めばいいだけじゃない場面もあるんです。
ーー自転車の各パーツは機械や型を使って作られていますよね。それでも違いがでるんですか?
そうなんですよ。同じ工場、同じ材料で作られた部品でも微妙に違うことがあるんですよね。
ーー工業製品は手作りに比べると一つ一つの差異は小さいけれど、その差異をゼロにすることはできないから、やっぱり違いが出るということなんですね。
そうなんです。例えば自転車のタイヤをはめる時も、はめやすいタイヤとはめにくいタイヤがあるんです。
「いつも通りの力の込め方なのに、これは硬い・・・」とか。そういう時には自分の体勢を変えて、普通より力が入るようにしようとか。そういう中で自分にとって短時間で力を入れやすい体勢はこれだなって、見つけていくんですね。
他の部分もいつもはこの手順ですぐ調整できるのに、何かうまくいかないな・・・という時があるんです。そういう時に応用力をどこまで効かせられるか。
だから組み立てるだけなんですけど、頭は動かしていますね。
街の自転車屋さんの格好良さに目を奪われて
ーー蓜島さんは前職も自転車メーカーですよね。そもそもどうして自転車業界で働こうと思ったんですか?
僕はもともと音楽業界で働いていて、車やバイクといった乗り物にそんなに興味はなかったんです。それなのに自転車業界で働くようになったのは、通りがかった街の自転車屋さんで自転車を直しているおじちゃんを見て格好いいなと思ったからなんですよ。
普通のおじちゃんが工具を手元で回しながら修理をしている姿を見て、格好いいな、お医者さんみたいだなって。
自転車の状態を聞いて、じゃぁここが悪いのかなと見当をつけて、修理して直す。僕は本物のお医者さんにはなれないけど、自転車のお医者さんにはなれるのかなと思って入ってみたら、意外にはまったんですよね。
ーーはまったポイントはどこだったんですか?
上手い人になればなるほど、工具の使い方が達人みたいで格好いいんですよ。だからそうなりたいなって、近くで見ていると思うんです。
それから僕は音フェチなので、自転車を組み立てたり修理している時の音が好きなんですよ。工具のラチェット音、フリーボディというパーツから鳴るカリカリカリッという音、変速機を調整する時のカチッカチッという音。
自転車から出る音が好きなんですよね。
ーー自転車から出る音が好き!初めて聞きました。自転車はたくさんのパーツからできていて、それぞれに対応する工具もたくさんあるから、いろんな音がしますもんね
工具は数え切れないほど種類がありますね。締める箇所によって必要なものが違うんです。全部同じだったら楽なんですけど、自転車に乗る時にそれぞれのパーツへの力のかかり方が異なるので、それに応じたネジや部品が使われているんです。だから工具もそれに対応したものになるんです。
お客さまが子どもでも、本人が一生懸命選んだパーツを輝かせる
ーー仕事で気を使うのはどんなところですか?
やっぱり命に関わる乗り物なので、ネジの閉め忘れなどが絶対ないようにというのが一番ですね。
それから、すごく大事にしていることがもう一つあるんです。
お子さまのプレゼント用の自転車を組み立てることが多いんですが、自転車本体の他にベルがオプションとして付いていることがよくあるんですね。動物の形をしたベルや綺麗な色のベルです。
そのベルの取り付けは、綺麗な状態でつけてあげたいと思いながら組立をしています。
ーー子どもの自転車につけるベル、取り付け自体はすごく簡単ですよね。でもそこに想いを込めて組み立てるんですね。
幼児用の自転車の場合、自転車の色はご両親が選ばれることが大半なんですが、その他のパーツはお子さん自身が選ぶことが多いんですよ。
それに気づいたのは、直営店で接客をした時です。子ども達がベルを一生懸命見て、必死に選んでいたんですね。これに命かけてる!という勢いで。
だから家に自転車が届いた時、まずそのパーツにお子さまの目はいくんだろうなって。だから最初に見て「わぁ!」と思ってもらえるように取り付けたいんです。
ーー本人が選んだパーツが、一番輝いて見えるようにしているんですね
そうです。大人の自転車でもカスタマイズされているパーツがあったら、イコールその人のこだわりなんですよ。だからその部分がより格好良く、より乗りやすいように取り付けようと思っています。オーダーの内容から、多分ここを一番大事にしているんだろうなというのが見えるんです。
自転車は日常的に使うものだし、結構長く乗るものですよね。だから組立の時も長く乗っていただけるように、乗っている間に負荷がかかる部品にはネジを外して長持ちするようにグリスアップしたり、緩みがでやすいところには緩み止めを塗ったり、そういうところには気を使っています。
好きなものと好きな時間
ーートーキョーバイクのラインアップの中で、好きなモデルはどれですか?
TOKYOBIKE BISOU26です。上体が起きた状態で乗れるのが好きです。僕は今までスポーツバイク系の畑にいて、前傾がきつい自転車ばかり乗っていたので。今は景色が見渡せるくらいの方が好きですね。
ーーお気に入りのオプションパーツはありますか?
ベルですね。トーキョーバイクでは扱ってないんですけど、昔ながらの自転車に付いてるような「ジャリンジャリン!」という音が鳴るもの。中で歯車がいっぱい動いているのが、音から想像できるのが好きです。
ベルはほとんど使うことのないパーツですが、見た目も好きです。特にトーキョーバイクはよく似合うんですよ。僕はハンドルではなく、ステムにつけるのが好きですね。
ーーここからは少しプライベートな質問です。暮らしの中で好きな時間はどんなことをしている時ですか?
僕は音楽・映画・漫画が好きなので、レコード屋や本屋にいる時間が好きです。映画を見たり漫画を読むのはもちろん好きなんですけど、選ぶ時間が好きなんですよね。だから休みの日は結構そういうところにいます。
一番好きな映画は「ブルース・ブラザース」ですね。
ーー自転車で行く場所で好きな場所や道、時間などはありますか?
僕の家は埼玉の田舎の方なんですが、荒川沿いの田んぼ道のあたりですね。車がいないところで、何も考えずにずっと走るのが好きです。
時間だったら朝早くかな。コーヒーを飲みたいんですよ。自転車で走って、どこかでコンビニを見つけてコーヒーを買って、休憩して。そういうのも好きですね。
(取材・文)小西
(写真)橋原