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日本有数のビジネスとカルチャーのまち 「大丸有」をアート散歩しませんか?
まちを歩くことは、たとえ気ままな散歩のようなものでも、その土地の歴史・文化や、そこに息づく価値観・空気感にふれることのできる体験でしょう。東京ビエンナーレはまちなか各所を会場とし、市民参加型であることからも、作品だけでなくこうした体験を常に大切にしています。ここではそんな「まち歩き」について、アートをキーワードにした話題をご紹介します。
今回は、東京ビエンナーレの開催を通じたご縁から生まれた取り組みである「大手町・丸の内・有楽町アートマップ」のご紹介です。
編集・文:内田伸一
ビジネスと文化芸術がつながる「大丸有」を歩く
「大丸有(だいまるゆう)」の通称でしられる大手町・丸の内・有楽町地区は、明治期から日本経済を先導してきたビジネス街にして、近年では休日に訪れたい賑わいのあるまちとしても知られます。人気のショップやレストランが建ち並ぶ一方で、都内有数のアートのまちであることをご存知ですか?
大丸有は東京ビエンナーレの主要エリアのひとつでもありますが、グローバルなこのまちならではの多様なパブリックアートやアート施設を、誰もが気軽に体験できるのが魅力です。そんなまち歩きのお供にぜひおすすめしたい地図が「大手町・丸の内・有楽町アートマップ」です。
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大手町・丸の内・有楽町アートマップ
Otemachi Marunouchi Yurakucho Art Map (English edition)
*同マップおよび本記事掲載内容は2025年1月現在の情報に基づきます。
お出かけ時は各施設のウェブサイト等で最新情報をご確認ください。
たとえば、ヘンリ・ムーア、名和晃平など、国内外の著名アーティストによる作品が並ぶ「丸の内ストリートギャラリー」を歩けば、まちそのものが開放的なミュージアムになったかのような楽しさを体験できます。
美しい赤レンガ建築の三菱一号館美術館や、東京駅丸の内駅舎の創建時の構造を生かした東京ステーションギャラリーなど、歴史を感じられる施設も多い一方で、最新のアートにふれる場が隣り合う多様さも、このまちを歩く楽しみのひとつです。
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このマップでは、そうしたおすすめのスポット全53か所をご紹介。まちなかでもすぐ読める簡単な解説に加え、より詳しい情報をその場で知りたいときのために、関連サイトのQRコードなども用意しました。
まちなかのアートを深掘りしてくれる「案内人」
さらにこのマップでは、アートをよく知る専門家が案内してくれる解説動画を見ることもできます。たとえば大手町の高層ビル「グランキューブ」前の空間を鮮やかなストライプで作品化したダニエル・ビュランについて語ってくれるのは、鷲田めるろさん(十和田市現代美術館館長、キュレーター)。ほかにも東京2020五輪のエンブレムデザインで知られる美術家・野老朝雄さんの屋外彫刻などを紹介してくれます。
これらもQRコードから視聴できるため、マップを片手に作品を訪ねると、目の前で話しかけてもらうような感覚で楽しめます。他にも、布施英利さん(芸術学者、批評家)、清水敏男さん(アーティスティック・ディレクター、美術批評家)が、まちの各所から作品について語りかけてくれます。
アートマップが生まれるのに必要なこと
東京ビエンナーレは都内各所で、それぞれ歴史も気風も多様なエリアを開催地にしています。なかでも大丸有は、多くのビジネスパーソンやショッピング・グルメを楽しむ人々が集う賑やかなまちに、突然アートプロジェクトが出現する点で、実はもっとも実験性の高いエリアのひとつです。
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自分自身の解放をメッセージにした巨大壁画。制作はライブペインティング形式で公開。
ただしこれは芸術祭側が望むだけで実現できることではありません。それを可能にする土壌が大丸有エリアにはありました。この地に拠点を構える主要企業は、彼らのミッションやアイデンティティをアートを通じて発信しようと、これに応えられる第一線の実力派作家によるパブリックアートを敷地内に展示してきました。さらに近年、アートによるまちづくりの取り組みがこのエリア全体で連携化、活発化しています。
こうした積み重ねが、東京ビエンナーレの実現をも支えています。もちろんこの「土壌」のありようはエリアごとにさまざまで、そうした違いこそが個々のまちを豊かにしていると感じます。だからこそ「このまちにとってアートはどんな存在なのか」をみつめることは、どの芸術祭においても、また、どこで「アートマップ」を作るときにも大切になるでしょう。
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池田晶紀「写真でつながる街と街〜大手町・神田」の前で 撮影:ただ(ゆかい)
昨年(2024)の「東京ビエンナーレ2025プレアクション」では、2025年の総合テーマ「一緒に散歩しませんか?」のもと、参加者とこのマップを片手に実際にまちを歩く「大丸有アートツアー」も実現しました。案内人は東京ビエンナーレの中村政人プロデューサーです。アーティストとしてもまちを舞台に多くのプロジェクトに挑んできた経験と、路上観察学や考現学の視点、そしてユーモアある語り口でツアーは進行。参加者それぞれがアートとまちの魅力にふれ、発見を共有するひとときとなりました。
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地図を活かして、まちとアートの魅力を発見するこうした試みは、この秋開催される「東京ビエンナーレ2025」に向け、新たなプロジェクトに発展する可能性もありそうです。ぜひご期待ください。