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「わたしのための装身具づくり」が生むつながり。小池一子×一力昭圭「ジュエリーと街 ラーニング」始動対談

東京ビエンナーレ2023のリンケージ(*1)のひとつ「ジュエリーと街 ラーニング」がその参加者を募ります。

3月22日から本格始動するこのプロジェクトは、東京・御徒町を舞台に、公募による参加者と約半年間・全5回の講座をとおして、人間に一番身近なクリエーション「ジュエリー」の再発見・再創造を目指します。御徒町から外神田の街並みに専門店、職人さんを訪ね、貴金属や宝石の多様性を知り、家で眠っている古い装身具をコンテンポラリー・アクセサリーとして再創造する。プロフェッショナルなつくり手のアシストや、関連する文化の講座から新たな気づきを得る。そうした活動をとおして、参加者自身が行動し、学んで楽しむプロジェクトです。

今回は、2月11日に行われるオンライン事前説明会を前に、プロジェクトメンバーの小池一子さんと一力昭圭さんに、プロジェクトが始まったきっかけやその思い、参加者へのメッセージをお話しいただきました。ご興味をもたれた方は、ぜひ記事末の情報をもとに事前説明会にご参加ください。

小池一子(クリエイティブディレクター)
1980年「無印良品」創設に携わり、以来アドバイザリーボードを務める。1983年にオルタナティブ・スペース「佐賀町エキジビット・スペース」を創設・主宰し、多くの現代美術家を国内外に紹介。令和4年度文化功労者。

一力昭圭(チューター/ジュエリーデザイナー)
女子美術大学芸術学科造形学卒。WADA STUDIO (NY)、STUDIO JEWELER ( (NY)等で学んだ後、ACCENT ON DESIGN SHOW (NY)、LOOT SHOW (NY)などに出展。銀座松屋、AXIS (六本木)、MITATE (西麻布)、CAJ (京都)その他で個展。


御徒町の宝飾店でラピスラズリの山を前にするふたり

装身具から始まる、人と街とアート・フォー・リビング(生活に身近なアート)の出会い

小池 東京ビエンナーレ2020/2021を開催したとき、一緒に総合ディレクターを務めた中村政人さんが「ソーシャルダイブ」という言葉を使ったんですね。街のさまざまな場やコミュニティに飛び込んで、アートプロジェクトを起こしていこうと。わたしたちが拠点としている神田から近い場所でソーシャルダイブするのにいい場所を考えたとき、一力さんに御徒町を案内していただいたときのことをふと思い出して、今回のプロジェクトのご相談をしました。
 
一力 わたしはこれまで芸術祭をアート作品の発表の場という理解で見ていたので、初めて企画についてお話を聞いたときは、ジュエリーと芸術祭がどう関わるのか、いまひとつ想像がつかなかったんです。それにわたしにとって御徒町は、仕事で行く街という印象が強かったものですから。
 
小池 それでまずは、御徒町の街歩きを一緒にしましたね。一力さんには、以前、指輪のサイズを変えるご相談をしたことがあって。若いころ使っていた小さなルビーの指輪が入らなくなってしまって、サイズを変えたいと相談をしたら、御徒町のお店に連れて行ってくださったのよね。小さな商店が軒を連ねた御徒町の通りにワクワクして、この街をもっと知りたくなりました。

左からクリエイティブディレクターの小池一子さん、チューター/ジュエリーデザイナーの一力昭圭さん

一力 わたしも小池さんと一緒に街歩きをしたら、見慣れた街にも新鮮さを感じました。ニューヨークの47丁目にあるダイヤモンド・ディストリクト(ジュエリー卸問屋街)の話でも盛り上がりましたよね! 東京で言ったらこの御徒町がダイヤモンド・ディストリクトかしらって。実は御徒町の通りにもサファイヤストリート、ルビーストリートといった名前があるんですよ。
 
小池 街を訪れる人とその街で商いをする人の交流の場としてお店があって、御徒町にソーシャルダイブするためのアート・フォー・リビング(Art for living)、言い換えると生活に身近なアートとして、このプロジェクトを考えました。

御徒町をリサーチして歩く様子

学び合い、共につくることで生まれる「横のつながり」「縦のつながり」

小池 今回の東京ビエンナーレ2023のテーマは「リンケージ つながりをつくる」。「ジュエリーと街 ラーニング」では、まず街を訪れる参加者と御徒町の職人とのあいだに「横のつながり」ができたらと考えました。それからジュエリーについて考えてみると、家のたんすで眠っているジュエリーを活かすとしたら、そこにファミリーの歴史に連なる「縦のつながり」も見いだせると気づいて、わたしは嬉しくなっちゃったんです。
 
一力 小池さんがリサイズされた指輪のルビーは、たしかお父様から受け継いだものでしたよね。

小池一子さん

小池 そうです。公職をしていた父親がいただいた勲章についていたルビーでね。一力さんが連れて行ってくださったお店のご主人に「ちなみにこういったルビーはおいくらなんでしょう」と聞いたら「知らないほうがいいよ。国家はそんな高いもんくれないよ!」って。傑作よね。それで思わず笑ってしまって、すっかり気が合っちゃった。御徒町には一つひとつのお店に思わぬ石がいっぱいあるんですよね。キラキラしたこの小さな石はいったいどこから来たのかと考え出すと、とても惹かれちゃう。

御徒町にて。店内には色とりどりのビーズや宝石が並ぶ

一力 小さな石ひとつを覗き込めば、そこには何億年、何十億年の地球の歴史がありますよね。
 
小池 歴史的にもおもしろい。いちばんワクワクしたお店は「アフガンブラザーズ」。あそこにはラピスラズリの山が積み上がっていて、古代ギリシャ、古代ローマの片鱗も感じられてワクワクしますよね。だから、お店で見つけた小さな石をいくつか組み合わせてどんなアクセサリーをつくろうかしらと想像するところから始めてもいいわよね。
 
一力 そうですね。

アフガニスタン人の兄弟が営む宝石店「アフガンブラザーズ」

プロジェクトをサポートするさまざまなプロフェッショナル

一力 わたし自身、デザイナーであり職人でもあるので、ジュエリー制作の工程すべてを委託した経験はあまりないんですね。だから今回の講座をするにあたって、スケッチをもとに制作していただけるお店を新たにリサーチしました。
 
小池 参加者には、まず制作するジュエリーのコンセプト、またどのように身につけたいかといった思いの部分を、ご自身で考えていただく必要があります。その思いの部分はとても大切ですが、職人さんにそれを言葉で伝えるだけでははっきりしたものは出来上がらない。参加者と職人さんの双方をつなぐスケッチが必要になります。そこで今回は、東京藝術大学デザイン科の橋本和幸教授とテクニカルインスラクターの丸山素直先生にご協力を仰ぎ、学生さんの力をお借りすることにしました。

帯留めをリメイクしたブローチ

一力 学生の皆さんには参加者のコンセプトをもとにスケッチを描いていただきますから、そこに若い感性やアイデアが加わるのも楽しみですね。
 
小池 参加者が考えたコンセプトを受けて、東京藝大の学生がしっかりとした描写力でデザイン画を描き、それをもとに職人さんが長いあいだ培った技術で実物のジュエリーとしてつくりあげる、という流れになります。彫金教室などでの学びとはまた違って、参加者自身がプロフェッショナルの技術の支えのもとイメージをふくらませながら、唯一無二のジュエリーをつくるまったく新しいプロジェクトになります。
 
一力 はじめに参加者の思いがあって、次にデザインに関わる学生がいて、さらに実際につくる職人さんがいるという、このつながりがおもしろいですよね。「ジュエリーと街 ラーニング」は、御徒町の職人さんやジュエリーの世界を知るだけではなく、参加者が実際にクリエイションに携わることが楽しみのひとつになると思います。

熟練した腕を持つ御徒町のジュエリー職人

全5回の講座で学ぶこと

小池 講座ではものづくりだけではなくて、街のことやデザインについて勉強する機会も設ける予定です。御徒町にとどまらず、江戸時代から続く東京のクラフトにまつわるストーリーを専門家に伺ったり、ジュエリー以外でもたとえばファッションデザイナーはデザインをどのように考えているかを伺ったり、いくつかの職業を跨いでプロフェッショナルな方々のお話を聞くことを計画しています。講座は大きく2つにわけて、パート1がすこし幅広い文化講座、パート2がデザインに特化した内容となりそうです。
 
一力 ジュエリーが出来上がるまでに、広くものづくりや土地、歴史に対する理解も深められる、もりだくさんな内容になりますよね。素材を加工する段階においては、CADや3Dといった現代のテクノロジーも活用することで、作品づくりの可能性もより広がります。たとえば思い出の写真や、手紙の一節あるいは詩といった文字を立体的な金属へ置き換えることで、ユニークかつオリジナリティ溢れるジュエリーができると思います。

一力昭圭さん

小池 ものづくりを自分の気持ちを表す場として、あらゆる方向からジュエリーに親しむ機会にしたいですよね。完成したジュエリー作品は、東京ビエンナーレ2023でお披露目の機会をつくって、広く皆さまにもご覧いただきます。わたしは思いを言葉で伝えることにとても興味があるので、たとえば「おばあちゃんから、この真珠は日本のどこどこでできたものなのよ、と教わった」というような、参加者が伝え聞いたストーリーを展示に置き換える部分などでお手伝いしたいですね。
 
一力 実際にジュエリーを加工する工程はプロフェッショナルにお任せになりますけれど、今回の講座を経て、最初から自分でつくることにご興味を持たれたら、新たに彫金教室などを探して学んでみるという道もあるかと思います。

参加を考えている皆さまへのメッセージ

小池 このたび上野の素敵なブティックホテルもご協力くださるので、遠方のかたにもぜひ参加してほしいですね。講座では実際に顔を合わせる予定でおりますけども、オンラインや遠隔での対応も検討していますから、まずはオンライン事前説明会にご参加いただけたら。きっとジュエリーとの新しい出会いになると思います。
 
一力 もとになる素材は、それぞれのかたの思い出の品でもいいですよね。
 
小池 そうですね。おじいさまの根付や、おばあさまの帯留めなんかも素敵。欠けたりしていてもいい。それをブローチやペンダントなどにつくりかえるのです。
 
一力 ほかには楽しかった旅行で手に入れたなにか、思い出の場所で拾った石や貝殻などもいいですね。大事に使ってきたものでいまも捨てられずにある、そういう小さなものがきっと引き出しの奥に眠っていると思うんです。わたしも今回のお話があってから、自分の身の回りをあらためて見直しまして、アンティークの櫛(くし)が我が家にあったことを思い出しました。百何十年のあいだに何人もの女性たちが使ってきたのではと想像しながら、よくよく櫛に目を凝らしてみると、当時の職人さんの驚くような技術にも気づかされました。それでひとつの作品としてドローイングを描いてみることにしたのです。

一力さんによるドローイング

一力 そういったいろいろな発見を「ジュエリーと街 ラーニング」で体験してほしいですね。
 
小池 東京ビエンナーレ2023で単なる鑑賞者ではない喜び、参加する喜びを感じていただきたいです。


「ジュエリーと街 ラーニング」参加者募集中!

2⽉11⽇にオンライン事前説明会を開催しました(主催:⼀般社団法⼈東京ビエンナーレ)。本プログラムへ参加ご希望の⽅は、下記リンクよりこの説明会動画をご覧いただいた後、動画内のフォームからご応募ください。

「ジュエリーと街 ラーニング」オンライン事前説明会(記録映像)

※詳細・最新情報は東京ビエンナーレのウェブサイトもご参照ください。

インタビュー・撮影(対談):岸本麻衣(東京ビエンナーレ2023コーディネーター)
編集:内田伸一(東京ビエンナーレ2023 エディトリアル・ディレクター)、岸本麻衣

*1 東京ビエンナーレ2023「リンケージ つながりをつくる」は、私たちと私たちのまわりの「リンケージ(つながり)」をとらえることをテーマとします。場所、時間、⼈、⽣物、植物、できごと、モノ、情報——私たちは、あらゆる存在が複雑に関係しながら、刻々と変容していく世界に⽣きています。なかでも、ここ東京は、⾮常に緻密な関係性によって織り上げられた社会だと⾔えるでしょう。東京の歴史、⽂化、地域と、またそれを⽀えている⼈たちと、新しくつながるには? 新しいつながりをつくるには? つながりを強くしたり、深めたりするには? 現在のアートの社会的役割の⼀つは、社会環境に対して⾃由な視点で関係性を持てることにあるかもしれません。東京ビエンナーレ2023は、そんなアートのつながり⼒をもとに、参加者、来場者がそれぞれの「リンケージ(つながり)」を⾒いだし、さらに新しいつながりが⽣まれ、広がっていく場となることを⽬指します。


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