諏訪敦「眼窩裏の火事」@府中市美術館
初めて諏訪敦の作品を見たのは、2011年の諏訪市美術館での個展でのこと。どちらかが先か忘れましたが、同時期にNHKの日曜美術館で、彼が取り上げられていました。海外のツアーで事故死してしまった娘さんの肖像画を描いて欲しいという両親の依頼でした。残った彼女の写真、そして、彼女の面影を探るために両親のデッサンを描き始めます。彼女の服、さらに、義手まで作って、それらを参考にして肖像画を描きあげます。描く前の執拗なまでの準備と少しでも本物の近づけたい執念が感じられる印象的な番組でした。
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作者公式ページより
2011年当時は、写実とかよく知らないで、諏訪市美術館での展覧会の印象も、この絵、写真みたいだなと思って見てましたが、それ以来10年以上、いろいろな写実を見てきましたが、諏訪敦の絵は、写実で終わらないコンセプト、また死の影が感じられる作品ということがわかってきました。
府中に出展されてたハルビンの難民収容所で亡くなった祖母を描いた作品では、まず、実際にハルビン現地に赴き、祖母が見たであろう景色を取材し、祖母を描くにあたっては、祖母の年齢や体型を似たモデルを探しデッサンを行います。会場では、健康なカラダと朽ち果てた亡骸の姿の2枚のみの展示でしたが、実際は朽ちていく時間の流れが存在し、収容所生活で栄養失調に陥り、チフスに蝕まれて朽ちていく姿が、同一のキャンバス上に描き重ねられて、その動画も会場で流されていました。一見、九相図を思い起こさせる少し怖い肖像画なのですが、その過程を考えると、この動画自体も現代アートとしての作品でもあるのかなとも。
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作者公式ページより
肖像画の章では、ジャーナリストの佐藤和孝の30代、40代の彼の肖像画の連作があり、最後に並んでいたのは同じジャーナリストで、パートナーでもあった山本美香の肖像画。惜しくもシリア内戦の取材中に命を落としてしまうのですが、彼女の瞳には佐藤和孝の人影、絵のタイトルは、『山本美香(五十歳代の佐藤和孝)』。こういうゾワッとさせる物語を作れるのも、彼のすごいところです。
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TOKYO ART BEATの記事より
ちなみに、展覧会タイトル「眼窩裏の火事」とは、閃輝暗点(せんきあんてん)という脳の血流に関係する症状で、視野内にギザギザしたものが現れてくるというもの。それが白い炎のように見えるようで、作者の諏訪敦と同じ症状を抱えている人にしか見えません。ほかの人には見えないものを描いてしまうのもおもしろいところ。
あるものをそのまま描くのではなく、過去の亡き者を描いたり、あるものを描きながら、亡き者を影を映しとっていたり、写実絵画でありながら、内包されている物語を描いていく画家なのかと思いました。
ちいさな美術館の学芸員さんのアドベントカレンダー企画「マイベスト展覧会2023」に参加してます。今年、最も印象の残った展覧会ということで、当時のSNSの書き込みをリライトしたものです。ひとつだけ選ぶとなるとかなり難しいのですが、昔から好きな作家だったので、この展覧会を選んでみました。
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