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トーキョー・アルテ・ポップ スペシャルトーク&ライブ(4)「東京」と「ポップ」と曽我部恵一

2023年10月5日(木)にイタリア文化会館(東京・九段下)で行われた関連イベント「スペシャルトーク&ライブ」の記録です。登壇者:江口寿史 ルカ・ティエリ 楠見清(本展キュレーター) スペシャルゲスト:曽我部恵一

文字起こし&編集:Yasuko Tieri ※省略・加筆・修正した箇所があります


スペシャルゲスト・曽我部恵一

楠見:後半、「東京」と「ポップ」っていうことでちょっと話題を変えたいんですけれども。「東京」とそして「ポップ」を語る上でこの方しかいないんじゃないか、というゲストを今日はお招きしています。曽我部恵一さん、どうぞ!

曽我部:はい。どうもよろしくお願いします。いやー、めちゃくちゃ面白かったです。そでで聞いてましたけど。ねえ。……死んでほしいとか思ってたんですね(笑)。

一同:(笑)

江口:そういうのないですか、曽我部さんもあるでしょ?(笑)

曽我部:ありますー(笑)。こいつ本当に目の上のたんこぶなんだよなっていうの。……でもそういう人が必要なんですよね。

photo: Paolo Calvetti

江口:そう。そうなんですよ。で、鴨川さんには愛憎をね。そう、憎んでたんだけど、あの人が実際描けなくなっちゃって消えちゃったときに、僕が一番寂しかったんですよね。

曽我部:そうなんですよね。

江口:なんか、こう話したことはなかったんだけど、仲間意識みたいなものがあったんだなと思いましたね。

Photo: Paolo Calvetti

曽我部:いや、いい話聞けました。

楠見:……はい。では音楽と絵とでは表現の方法は違うんですけれども、確かに通じるものがあるんじゃないかなと思います。その辺りをルカさん、江口さんの線が交わるところにもう一つ別の線として曽我部さんの線を引いてみたいと思うのですが。

曽我部:お願いします!

楠見:それで、今回東京新聞(※2023年9月22日夕刊)にこの展覧会に関する素晴らしい文章を載せていただいたんですけれども。

ルカ・ティエリの描いたサニーデイ・サービスのアルバムジャケット『いいね!』の作品の前で
ルカティエリ、曽我部恵一(9月某日、イタリア文化会館)

曽我部:いやいや、もう、苦し紛れに。

楠見:いえいえ。そちらもプリントでお配りしてるのでお読みになっている方もいると思いますが、改めて今回の展覧会をご覧になって、そして今までのお話を聞かれた上で曽我部さんの方からご感想をいただけたらなと。あとこれから話すべき「東京」と「ポップ」について切り込みができたらと思うんですけれども。

曽我部:はい。あの、まず今回展覧会を見て、さっきお話にもあったお二人のそのルーツになったいろんなアーティストの方々の資料展示がすごく面白くて。ご両人、リンクするものもあれば、すごく離れているものもあったりというのが面白いなと。それぞれこういうものに影響を受けて、でもお二人が同じ場所で絵を展示しているというのがいいなあと思ったのがひとつ。
 で、僕は、江口さんの絵を小学校の3、4年くらいから見てるんですよね。自分にとって一番新しい初めての「ポップ」。今は「ポップ」と言ってますけどそのときは「ポップ」という言葉では認識していなかったけど、そういうものだったんですよ。で、改めてここで江口さんの絵を大きなサイズで見ていて、あ、こういう江口さんが描いたような世界を自分は追いかけて今音楽をつくってたりするんだなって。そういう人がいっぱいいるんだと思うんですよ。で、江口さんが先にこういうものを、架空の街とか女の子を描いてくれたから僕らはこういう音楽をつくってきたと思っていて。で、「ポップ」っていうのはルカさんの近未来の東京みたいな場所にいる女の子たちを見ても思ったけど、やっぱりすごく新しい、自分たちが進むべき未来を提示してくれるものなんだなと僕は感じました。だからここに向かって僕たちは歩んでいけば明るい未来があるんじゃないかなと思いました。

ルカ・ティエリの影響を受けたものの展示ケースの前で(9月某日、イタリア文化会館)

楠見:はい。すごくポジティブに受け止めていただいて、いいなと思ったんですけど。

曽我部:それは、ポジティブな気持ちがなかなか持てないからですよ、普段暮らしてると。だからこそ、そう思ったんだと思います。「ああ、ここに未来があるじゃん」って。

楠見:(新聞の記事を読みながら)「自分たちが自由に遊べるポップな社会を」って。

曽我部:社会ね。そうそうそう。社会も全然ダメだから。で、なんか生きててもつまんないなあとかなんだかなあというところに、こういう展覧会で見る絵はね。「あ、こっちがいいじゃない」っていうものを教えてくれるっていうか見せてくれるっていう。マンガとかアートとか映画とかもそうだし、ロックなんかももちろんそうだけど、そういうものをチラチラチラチラ見せてきてくれたんですよ。だから僕は今こうやって音楽をやってるのかなと思うんですけれどね。

楠見:そして次の世代に影響を与えてると思うんですよね。そうやって何か継承し続けていくものってあると思います。

曽我部:うんうんうん。だから本当にありがとうございました。

楠見:こちらこそ。

曽我部:いやいや本当に。お二人も本当にもう。そういう方、いっぱいいらっしゃると思います。


「ポップ」について

楠見:ちなみに曽我部さんの文章を読んで、ポップと未来をつなげているっていうのが僕にとってはすごくハッと気付かされるところがあって。もともと1960年代に始まったポップアートって、戦前のイタリア未来派とかの影響を受けているんですよね。やっぱり新しくやってきた工業化社会で人間性が剥奪されていくみたいなそういう危機感があって、文明批判みたいなものがあったなかで、いいか悪いかは置いておいて、とりあえず受け入れてそれである意味機械的に生きていくっていう。そういうものを文明批評も込めながら描いたのがイタリア未来派だったと思うんですよ。なんかアメリカのポップアートとかイギリスのポップアートとかもそうで、常に未来っていうものをどう受け止めるかっていうことに対して、一番ある意味素直だし、全身で受け止めるみたいな感覚、それこそセンスみたいなものが「ポップ」なのかなと思ったんですよね。ルカさん、どうですか。イタリア未来派ってちょっと。せっかくなのでここで振ってみた。

Photo:Paolo Calvetti

ティエリ:うーん……、「ポップ」のことについてでいいですか? 「ポップ」のことは僕にとっては多分、毎日見ているもの、気になっているものを自分の中で混ぜて出して、目的はみなさんに届けること。「ポップ」って言葉も一般的にはすごく軽めに考えられていると思うんですけど、「ポップミュージック」とか。でも本当の「ポップ」っていうのは実は本当に難しいですよね。江口先生がいつも言うように下描きは線いっぱい引いてるんだけど、結局インクのときは一本だけを選択するんですよね。ポップな作家は本当にその一本を選択する仕事みたいな。まあ楽しいけど。

江口:でもポップミュージシャンの方が狂っている人多いからね。ブライアン・ウィルソンとかさ。あんな明るい曲とか、まあ暗い曲もあるけど、気持ちいい曲をつくるじゃない。それを本人はああいう、ね、ひどい状態で作っているという。僕はロックの人より、ポップの人の方が狂気を感じるというのがありますね。

ティエリ:YMOも超ポップでしたよね。

江口:うん、超ポップですよ。

ティエリ:YMOはやっぱり日本の音楽だけじゃなくてアジア系とかドイツのなんて言うんだっけ、あの、ピコピコまだしなかった頃の、あの〜、プログレじゃなくて。

江口:ああ。あのクラウトロックな感じね。

ティエリ:そう! クラウトロック。それまさにクラフトワークとか混ぜて「ポップ」にするってやばくないですか。

江口
:そうね。

ティエリ:2012年に幕張メッセで"NO NUKE"というイベントがあって、YMOとクラフトワークが出演するライブを見に行った時は、まさにこれは「ポップ」じゃないかな、すごいなって思いました。

楠見:あ、あれですね。曽我部さんがマンガや映画などに影響を受けて今音楽をやってらっしゃるというのと同じように、お二人はすごく音楽に影響を受けて、そして絵を描いているんですよね。

ティエリ:そうですよね。
江口:そうなんです。

楠見:その辺り、ジャンルを超えたキャッチボールというか、壮大なコラボレーションだと思います。

曽我部:なんかね、遠藤賢司さんとかも僕はいろいろ教えていただいて、実際に一緒にツアーとかも回らせていただいて、自分の師匠のように本当に影響を受けたミュージシャンなんですけども、その人を知ったのも江口さんのマンガだったかな。江口さんが「遠藤賢司のライブ見に行ったよ、代々木チョコレートシティ」とかなんか描いていて。それでああこんな人いるんだーって思ってました。まだ中学生だったかな僕は。それで聴き始めたんです。

江口
:見に行ったんじゃなくて対バンしたんですよ。これは自慢ですけど(笑)。

曽我部:対バン! あ、対バンしたんですね。へえ〜。どこでですか?

江口:吉祥寺のライブハウスの「のろ」で。遠藤さんがライブするっていうので、そのときたまたま飲みの席をご一緒させていただいて、「じゃあ歌う?」とか言われて。3曲、即席のバンドつくって歌わせていただいたんですけど。

遠藤賢司『寝図美よこれが太平洋だ / 満足できるかな』
(限定盤 7インチシングルレコード、FUJI, 2023.11.1発売)
ジャケットイラスト:江口寿史

曽我部:へえ〜!

江口:で、遠藤さんはそのときはラジオカセットを背中に背負って、それとギターでやってまして。めちゃくちゃかっこいいな、この人って思ったんですよね。

曽我部:あー、オケを流して。

江口:そうそう、オケを流して。だから、めちゃくちゃパンクだし。

楠見:ラジカセ背負ってたんですか?

江口:そうラジカセ背負ってラジカセから音出しながらやるんですけど、めちゃくちゃすごいなと思って。

曽我部:そうですね。アンプよく背負ってましたね〜。

江口:でしょ? あの人はフォークから出たけど、ずっとなんか、遠藤賢司でしたよね。聴き直すと一貫してますよね、途中テクノもやってるしね。ずっとすごかったですよね、あの人。

ティエリ:でも、曽我部さんもそうじゃないですか?

江口:あ、そうだそうだ。

ティエリ:なんかアンビエントまでも出されてますし。

曽我部:僕は、うん。そうかな。

ティエリ:すごいと思います。本当にまさに、ポップっていうよりもそれを超えてるというか。

江口:いろいろやってますよね。

曽我部:そうですねー。まあ好きなんですよね、つくるのが。

ティエリ:素晴らしい。

曽我部:でもう、どんどんつくっちゃうから、また新作出すの?って笑われるんですけどね。恥ずかしい(笑)。

江口:テクノとか、近いこともやられてますよね。

曽我部:そうですね。なんでも。

ティエリ:『いいね!』のリミックス(※『もっといいね!』)とかもね。

曽我部:うんうんうん。いろいろ好きなんですよね。

江口:ニール・ヤングもテクノやってましたよね。

曽我部:ニール・ヤングもやってましたね。

楠見:好きだとやっちゃうんですか?

曽我部:好きだとやっちゃいます、僕は。

楠見:好きでもできない人も世の中にはいるんじゃないですか?

曽我部:あの、できなくてもいいんですよ。真似ごとでやっちゃう。やりたい、と思ったことをやんないと損だと思って。ある人はそれをうまくできるまで我慢したり、自分はこれじゃないなってやらない人もいる。でも僕はそんな芯がないんで。ぶれてるんで基本的に。なんでもいいやと思って。やりたいことやろうと思って、ラップでもテクノでもフォークでもなんでもいいんですよ。やりたいことをやっちゃおうと思ってやってます。

曽我部恵一『ハザードオブラブ』(ROSE RECORDS, 2023.11.29リリース)

楠見:なるほど、いいですね。

江口:ソロになってからの曽我部さんの印象ですけど、もう息するようにつくって出しちゃおうみたいな、それをすごい感じるんですけど、そういう意識はあるんですか?

曽我部;そういうところはあるかもしれないです。その精度を上げていくのも大事だと思うんですけど、迷っているうちに結局気持ちが変わって、その最初に思ったものが出なかったりもするんですよね。だから、不完全でもいいから、出すか出さないかでいうと出した方が、ゼロかゼロじゃないかっていうのだったら存在した方がいいんじゃないかなと思って。勝手にね。僕はそう思ってやっちゃってます。もう、いいやあって。

江口:うん。いやー、そこがすごいいいなあと思って見てます。

曽我部:でも不完全なものだったら出さない方がいいっていう人もいるし。

江口;そういう人もいますよね。

曽我部:それはでもすごくよくわかるので。どっちがいいっていうことは僕はないと思うんですけど。


「東京」について

Photo:Paolo Calvetti

楠見:「東京」に関してはいかがでしょう。

曽我部:東京の街? 東京の街はいいですねー。東京大好き。

江口:あれだね、4人とも東京出身じゃないっていうのがまたね(笑)。みんな田舎もんですからね。

ティエリ:誰も東京出身じゃないですね確かに(笑)。

曽我部:でも僕、進学で東京に出てきたんですけれど。その前にも中学生の頃とか高校生の頃とか東京に憧れて、その頃は情報がほんとに少なかったでしょ。だから僕は『宝島』とか『ビックリハウス』とかサブカル雑誌を読んで、これが東京なんだなと思って。それで中学生のときに意識して初めて東京に来たんですよ、一人で。で行きたかった新宿のレコード屋さんとかいっぱいあるし。で、来たら東京ってもっとファッションもイケてる、とんがったニューウェーブの街だと思ってたら、ほとんど普通の人だったんです。

江口:(笑)。ほとんどそれ地方出身者なんです。

曽我部:そう。もう99.9パーセントくらいが本当に普通の人だったんですよ。それに本当に衝撃を受けて、びっくりしました。レコード屋さんに行ったらパンクとかニューウェーブが全部あるんだろうなと思ったら、普通のブルース・スプリングスティーンとかばっかりだったんですよ。それもびっくりしました。

一同:(笑)。

曽我部:普通が集約された場所だったんですね。それで一回目の挫折。

楠見:ある意味雑誌とかで情報として流通している東京のイメージが、現実と乖離しているというか、その上をいく何かだったんですよね。

曽我部:そうなんです。だからそれが江口さんとかもちろん大友さんとか、そういうものだと思ってたんですよね。

楠見:通じると思います。

曽我部:中学生はあれが現実だと思ってたんです。

Photo:Watanabe Tetsuya

一同:(笑)

曽我部:(楠見さんのご出身は)どちらですか?

楠見:僕は転勤族で九州から青森まで。3年に一回引っ越すみたいな子供時代でしたね。

曽我部:あーそうなんですね。青森も好きですけど。この歳になると日本中いろいろなところに行って、「ここもすごいいいなあ」とか思うようになりましたけど、それまではずっと東京がなんか、中心って感じで好きでしたね。


スペシャルライブ

楠見:はい。……えー、ではそろそろ歌が聴きたいなあって。

曽我部:あ、そうですね。そんなにしゃべっててもしょうがないですね。お歌のコーナーにいきましょうか。でも、本当に僕はお二人のトークが面白くって。僕はイタリアのマンガのことは全然知らなかったんで、本当に勉強になりました。

ティエリ:じゃあ曽我部さんにも今度何か持ってきますよ(笑)。

曽我部:江口さんがいいって言ってらした黒澤明みたいなのもびっくりしましたね。

江口:あれ、めちゃくちゃかっこいいですよね。

ティエリ:セルジオ・トッピのね。あれはもう驚くしかないですよね。

曽我部:すごいですね。

江口:全然知られてませんもんね、日本で。

曽我部:日本では。イタリアだと誰もが知ってる存在?

ティエリ:まあ、もう亡くなったんですけど、今の時代だとそこまで知られてないのかなって。コミックを描いてる人にはきっと知られていますけど。

楠見:もしあの出版関係の方がいらっしゃったらぜひ翻訳出版を。

ティエリ:確かに!

江口:欲しいですね、あの人のコミック。

曽我部:絵がかっこよかったですねー。

楠見:曽我部さんじゃあそろそろ準備の方を(笑)。

……と、歌のセッティングをしながら、トークは終了。
曽我部恵一さんの素晴らしいアコースティックライブで幕を閉じました。

セットリスト
1.  東京
2. あじさい
3. コンビニのコーヒー
4. 春の風
5. 東京 2006 冬

Photo:Luca Tieri
曽我部恵一、江口寿史、ルカ・ティエリ、楠見清
Photo:Anazawa Yuko

10月5日のスペシャルトーク&ライブの記録は以上です。
すべて読んでくださったみなさまありがとうございます。
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